見え見えなんだよ
「───ちきしょう!次から次へと……!」
「シェリー、こっちは大丈夫だからジェイの援護に行ってあげて!」
「───分かった!」
続々と柱がゴーレムへと変形していき、前を任されている者達はその対応にてんてこ舞いであった。
「───左奥の柱も動き始めるぞ!」
柱がゴーレムへと変形していく直前まで恵二の魔力探索にも引っ掛からないので指示を送るのも一苦労だ。勿論魔力探索だけでなく、魔術による支援も怠ってはいない。恵二も前衛職並みに大忙しであった。
(唯一の救いはゴーレムに変形しない柱もあるって事か?流石に柱の数分が一遍に襲ってきたら一溜まりもなかったな……)
ただ懸念もある。柱はまだまだ多く終わりが見えない。更に一番の不安は巨大な柱がまだ残っている事だ。全長4~7メートルの柱や一番奥にある途方もない大きさである柱の存在もある。
(20メートル近くはあるぞ………。あれは流石に変形しない、よな?)
恵二の不安は他の者も同様に思っていた事だ。いくらなんでもあのサイズのゴーレムなど聞いたことがない。普通に考えれば倒す事はおろか、戦いにすらならないだろう。
(──考えていても仕方がない。先ずは目の前の敵だ!)
倒してもその分、いやそれ以上のゴーレムが現れる。徐々にその数が増えてきていた。痺れを切らしたキュトルが口を開く。
「これ以上は面倒ね。エアリム、使っていいわよ!」
「―――了解しました!」
何か秘策があるのだろうか。キュトルが指示を飛ばすとエアリムは普段とは違った聞きなれない詠唱を始めた。
「ガエーシャ!シェリー!」
「わかってる!」
「───了解」
キュトルが言わんとすることを理解していたのか、二人は既に動き出している。流石に彼女達<白雪の彩華>の錬度は髙い。短い言葉で効率良く動きを取る。
ゴーレムを相手取っているガエーシャとシェリーの二人は、徐々に後退していきエアリスの元へと近づいていく。指示を出したキュトルも同様だ。
「ジェイ、ロン!二人とも一旦下がって」
「―――おう!」
「了解した」
何か考えがあるのだろう。前衛職は徐々にエアリムや恵二たちの元へと下がっていき7人は一旦集まる。その分ゴーレム達には押される形となってしまう。後方では次々と柱がゴーレムへと変形していき状況は苦しくなる一方だ。だが、誰もキュトルの提案を疑わずそれに従った。
「―――準備できました!」
エアリムの詠唱が完了し、魔術を何時でも放てる状態となる。
「よし!皆、武器を出しなさい。エアリムが付与するわよ」
ゴーレムから距離を取ったジェイサム達は言われた通りに武器を掲げた。
「―――属性付与!」
エアリムが呪文を口にし魔術を発動させると、全員の所持している武器に光が宿った。
「―――おお!?」
「こ、これは……?」
見慣れない魔術にジェイサムとロンは狼狽える。
「それはエアリムが地属性を付与させたの。暫くの間、武器の強度が何倍にも上がっているわ!それでガンガン攻めなさい!」
キュトルから説明を受けたジェイサム達は迫って来たゴーレム達へ再び短剣や片手剣を振りかざす。すると先程まで手を焼いていたゴーレムの硬い装甲へ面白いように刃が通る。
「これ、すげえぞ!まるでゴーレムの装甲が木の薄板みたいに感じるぞ!?」
「―――ああ!これなら余裕だ!」
ここで形成は一気に逆転しだした。前衛職の奮闘で次々とゴーレム達が斬り捨てられていく。硬い装甲とパワーが売りのゴーレム達だが、その一つである硬さが失われれば鈍間な木偶の坊同然だ。
(これは俺の出番は当分ないかな?)
今や押せ押せの状況となっており、余計な魔術は魔力を無駄にするだけだ。エアリムもそう考えたのか追撃は行っていない。いや、どうやら違ったようだ。先程の魔術はかなりの魔力を消耗するようだ。彼女は何やら青い液体の入った瓶の蓋を開け、それを一気に飲み干していた。
(―――あれは、確か【マジックポーション】か!?)
それは以前に商隊の護衛依頼で見た、魔力を回復させる薬品と同じものに見えた。何でもその一瓶で冒険者の1年分の稼ぎと同じくらいするのだという。キュトルが使っていいと言っていたのはこの事だったのだ。
「【マジックポーション】まで使ったんだから、何が何でも攻略するわよ!でなければ当分“節約生活”だからね!」
キュトルの宣言に約二名が慌てだした。
「ガエーシャ!絶対に攻略するよ!」
「分かってるわよ!もうあんな生活はまっぴらよ!」
キュトルの言う“節約生活”に何か苦い思い出でもあるのか、シェリーとガエーシャの顔つきが変わった。エアリムの属性付与で強度を増した得物を操りゴーレム達を次々と倒していく。
先程まで無尽蔵に増えそうであったゴーレム達の勢いは完全に引いていた。このままいけば殲滅するのも容易いかと思われた、その時―――
「―――っ!でかいのが動くぞ!」
「「―――ッ!?」」
恵二の警告に全員は、まず一番奥にある柱へと視線を送った。だが幸いなことに動き出したのはあの規格外の柱の方では無かった。
「右奥のどでかい柱だ!……7メートルはあるぞ!」
恵二は新たに魔力の反応をみせた柱を指す。周りより一際大きなその柱はゆっくりとだが姿をゴーレムへと変えていった。
「―――あいつは!?」
それを見たジェイサムは思わず声を上げた。
「気を付けろ!アイツは地下30階層にいた支配者と同じ個体だ!」
「あれが……!」
変形し終えたゴーレムの全長は凡そ7メートル程あり、両腕も太く長かった。更に目を引くのは肩に装着されている尻尾か腕のようなものだ。その腕のようなものの先には穴がみえる。
「気を付けろ!肩の腕みたいなやつから魔術を放ってくるぞ!」
どうやらそれは魔術の銃口のようなものであった。その銃口のような穴に魔力が集まっていくのを感じとれる。
「―――エアリム!」
キュトルはエアリムの名を叫ぶと同時に盾をかざして見せた。
「―――もう、終わります!」
いつの間にかエアリムは再び詠唱を始めていた。それは先程聞いた詠唱と同じであった。
「全員、私より後ろに下がりなさい!」
キュトルの指示に全員が行動で示した。すぐに後退し彼女の後ろへと下がる。
「―――属性付与!」
再びエアリムは地属性を付与させる。ただし、今度付与させるのはキュトルやロンの盾だ。地属性の効果は“強度の増幅”、属性によって効果は様々だが、地属性は通常、盾や防具に付与させるのが効果的なのだ。
エアリムが二人の盾に属性付与したのと巨大ゴーレムの魔力充填が完了したのはほぼ同時であった。耳をつんざく高音がゴーレムの両肩から聞こえてくる。
「―――来るわよ!伏せて!」
彼女の警告の後、すぐにそれは放たれた。ゴーレムの両肩に備えられた銃口もどきから閃光のような魔術がこちらへと放たれた。
「―――ぐ!うああああああアアッ!」
その閃光をキュトルは盾で必死に防ぐ。盾と言っても彼女のはさほど大きくない小型盾であった。それを防げたのは偏に彼女のずば抜けた集中力と、相手の攻撃範囲が細かった事にある。その放たれた魔術はさながらビームのようであった。
徐々にそのビームは衰えていく。どうやら凌ぎきったようだ。だがそれでゴーレムの攻撃は終わらない。奴は再びその両肩に魔力を集め出した。
「―――今だ!あのデカブツをやるぞ!」
ジェイサムの号令と共に前衛職の全員が飛び出した。動きの速いシェリーやキュトルはあっという間に巨大ゴーレムへと肉薄していく。言い出したジェイサムが一番遅いのはご愛嬌だ。
(よし、俺も―――っ!?)
魔術で支援しようとした恵二だが、魔力探索に新たな二体の反応を察知した。それもかなり大きな魔力反応だ。
「―――左に新手が二体!多分そいつと同型だ!」
「―――なんですって!?」
「―――ちぃ!」
キュトル達は巨大ゴーレムの相手をしつつ左側の様子を伺って顔色を変えた。恵二の指摘通り、左側の巨大な柱が動き出しているのが確認できた。大きさから言って目の前のデカブツと同じだと思われる。
「―――ボスが三体とは、流石は裏ルートだぜ!」
そう悪態をついたジェイサムはロンへと視線を送った。その意図に気が付いたロンは頷く。
「一体は任せろ!初手は必ず防いで見せる!」
「なら、もう一体は私が―――」
キュトルがそう提案しかけた時、恵二の言葉が遮った。
「―――もう一体は俺に任せてくれ!それよりキュトル達はそのゴーレムを始末してくれ!」
流石にこれ以上戦力を分散させれば、ビーム無しとは言え巨体を誇るゴーレム相手は厳しい。それよりここは一体ずつ仕留めていった方が堅実だ。
「―――大丈夫なの!?あんた盾持ってないでしょう!?」
「任せろ。それは大得意だ!」
自信満々に答えた恵二とロンは変形し終えたゴーレムへと対峙した。遠く離れている二体のゴーレムはすぐに魔力を充填していく。
「ケージ君。右は俺が受け持つ。左のゴーレムを頼めないか?」
「分かったよ、ロンさん」
ロンは盾を前へ構え、恵二は魔術を発動させる準備に取り掛かる。
そして、両陣営の準備は整った。
新たに現れた二体の巨体ゴーレムは肩の銃口から魔術光線を射出した。だが、その照準は二体ともジェイサムの方角へと向けられた。
「―――な!?」
てっきり位置が近い自分たちの方へ分散して来るものだと思い込んでいたロンが驚愕の声を上げた。すぐに射線へと入ろうとするも間に合いそうもない。それに仮に間に合ったとしても二体分の魔術を自分が防ぎきれるとは到底思えなかった。
「―――見え見えなんだよ!」
だが恵二は予めその最悪すらも予想していた。ロンより素早く対応をする。それは恵二のある思いが生んだ結果であった。
ロンはこのボス部屋へと踏み入れてから二人を救う為に“攻略してみせる”と意気込んでいたが、恵二は始めから“皆を守って見せる”と誓っていた。この戦いに掛ける思い、その僅かな考え方の違いがここに来て差に出たのだ。
恵二はすぐに魔術を無詠唱で発動させる。詠唱をする余裕など無かった。
ジェイサムへと向かっていった二つの死の閃光に、恵二の放った土盾が立ちはだかる。
巨大ゴーレムの放った魔術の名は無い。だが、あえて言うのならば光属性の中級上位クラスの威力を誇る魔術であろうか。それが二つ、威力だけなら上級にすら匹敵する。それをたかだか地属性の初級魔術である土盾で防げる筈も無かった。
だが、恵二のそれは上級レベルのそれを凌駕した。それを為し得たのは恵二最大の切り札であった。
(―――<超強化>!)
心の中で自身が名付けたスキルを唱える。それに意味は無い。ただ、そう唱えた方が効果が増す様な気がしたからだ。その思いが届いたのか、大きさ、強度共に大幅強化された土盾にはひび一つ入らなかった。
「でかしたケージ!」
「後は任せて!」
いつの間にか巨大ゴーレムの一体を倒しきっていたキュトルやシェリーは直ぐに残り二体へと迫る。その後をガエーシャと息を切らせながらジェイサムも駆けていく。
「ケージ君、助かった。君のフォローがなければジェイさんは……。俺は一生悔やんでいるところだった。後は俺に任せて休んでいてくれ!」
先程の失敗を取り返そうとロンも二体の巨体ゴーレムへと迫る。魔力の充填には時間が掛かるだろうし、いくら二体とは言え接近戦に持ち込んだキュトル達に掛かれば討伐は時間の問題であろう。
「―――ふぅ、なんとかなったか……」
恵二は安堵の吐息を吐く。念の為魔力探索を発動させるも魔力反応は二体のゴーレム以外感じられない。その他の柱はどうやら本当にただの柱なのか、これ以上の動きは無さそうであった。
魔力が尽きかけていた恵二は同じくガス欠のエアリムと大人しく戦闘を見守る事にした。
そしてキュトル達は遂に残りのゴーレムを倒し終えた。




