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隠れていた

「えーと、締めて22万キュールだね」


 持ち込んだ素材を査定し終えたホルクは恵二達に合計金額を伝えた。


「えー!今日はちょっと渋くない!?」


 彼女の思っていた買取り金額より低かったらしく、キュトルが不満の声をあげた。しかしその反応を予想していたのか、ホルクは表情を崩さずキュトルに説明した。


「最初にきちんと言ったよ?希少価値がある分増額しているとね。最近君たちが沢山持ってきてくれているから、市場に大分出回っているんだよ」


「うっ、そういえばそうだったわね・・・」


 確かに最初持ち込んだ時は、希少な素材ということで2割増しで買取ってもらっていたのだ。しかしここ最近は荷袋一杯に骨を詰めて持ち込みをしていた。流石に市場が飽和してしまったのだろうか。


「けど需要も相変わらずあるからその内すぐ売りきれると取引先の商人が言っていたよ。中にはあるだけ全部欲しいって人もいるようだけど、量をきちんと定めて小売しているんだ」


「どうして!?欲しいって人がいるのなら全部引き取って貰えばいいんじゃないの!?」


 ホルクの説明にキュトルが食いつく。確かに欲しい人に全部売ってしまえばいい気がする。素材もまた調達してくればいいのだから。だが、その意見にホルクは反対のようであった。


「あまりお勧めしないね。特定の人へ独占販売を許せば、確かに次から次へと売れるだろうし話も来るよ?でも、君達はこの件を余り公にしたくは無いのだろう?きっとその骨を欲しい人は君たちの事を嗅ぎ付けてくるよ?」


「それは困る!ホルクさん、骨を欲しがってるその人物って一体誰なんだ?」


 ダンジョンの隠し通路の件を隠し通したいジェイサムは慌ててそう尋ねるも、ホルクは首を横に振ってこう答えた。


「残念だけど分からないよ。あちらも信用第一だからね。私達の事も客に話さないし、客の情報もこちらには漏らさない。さっきの独占販売をしないのも、他のお客さんからの信用を守る為さ。一時の利益を求めたばかりに他の客の信用を失った商人なんて、よく聞く話だからねえ」


(成程、確かにちょっと軽率な考えだったな。商人は信用第一、か)


 以前に護衛依頼で出会った依頼人(クライアント)のダーナもそこは重視していた。ネットやデータ上で商いをする現代日本とは違って、人と人との直接取引をする商人にとって信頼というのは一つの大きな武器なのかもしれない。


「だけど、今回は珍しくあちらからアドバイスをくれたよ」


「アドバイス?」


 思わずジェイサムは聞き返す。ホルクが言うにはギルドのお得意様でもあり、今回骨を引き取っている商人から、その件に関して助言を頂いたようだ。


「“骨に異常に執着している客が一人いる。名は明かせないが気を付けろ。実害があるようなら情報を提供する”だそうだよ」


「実害があってからじゃ遅い気がするんですけど・・・」


「その通りだが、無理に聞く訳にもいかなそうだし、各自気を付けるしかなさそうだな」


 ジェイサムがそう纏めてこの話は終わった。何も起こっていない現状、今まで通り周りの目を気にしながら探索を進める他無いのだ。



 買取を終えた六人はギルドを出ると、宿に向かいながら明日の予定を確認しあった。



「明日からは本格的に探索の方に注力しようと思う」


 開口一番ジェイサムがそう提案した。


「異議無し。骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)も狩りすぎて買取価格落ちちゃったし、当分は進むことを意識しましょう」


 まだ人の目がある往来にも関わらず、キュトルは迂闊な発言をする。それにすかさずジェイサムが反応をする。


「―――ば、馬鹿!こんな大っぴらで骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)の話をするな!」


 更にジェイサムも釣られて凡ミスをやらかす。


「あのぉ、お二人とも言葉を選んだ方が・・・」


「―――あ」

「・・・(こくん)」


 エアリムの指摘にジェイサムは“しまった”と顔をしかめ、キュトルはこれ以上ポカをやらかさないよう自らの両手で口を塞ぎ黙って頷いた。


「似た者夫婦ね」

「ラブラブだね」


 ガエーシャとシェリーがお約束だと言わんばかりに二人を茶化す。


「―――だ、誰が似た者夫婦だ!」

「ラブラブって、そんなんじゃ・・・!」


 キュトルの沈黙は10秒も持たなかった。二人は顔面真っ赤にして言い繕う。完全に両想いである筈の二人は、性格もよく似ていて一向に素直になれない。いわゆるツンデレというやつなのだろうか、口喧嘩が絶えない。似た者夫婦とはまさに彼らを言い表す為の言葉だなと、恵二は心の中で感心しながらも周りの様子を探っていた。一般人らしき通行人が何人か歩いているだけで怪しい人物は見られない。


(・・・特に今の話しを聞いていた人は居ないか?あれから数日、アドガルの姿も見えないけど油断は出来ない。この前も他の冒険者に突っ込まれたし、そろそろ危ないかな?)



 実は先日の出来事だが、ダンジョン帰りの恵二達に話しかけてきた冒険者達が現れた。彼らはキュトル達に昔よく声を掛けていた連中だ。


 彼女達四人は外見だけで言うなら文句無しの美人揃いで、エイルーンに来たての頃はよくナンパをされていたのだという。ずっとそれを断っていたのだが、時には強引な冒険者も居た。だが彼女達は強かった。そこらの腕っぷし自慢な男では歯が立たなかったのだ。その噂はあっという間に広まり、今では彼女達に声を掛ける馬鹿は大分減った。


 彼らもそんな馬鹿な冒険者達だったが、昨日のは別件であった。以前ナンパに失敗した彼らは、それでも彼女達の姿を見かけると、自然と目で追ってしまっていた。男だらけのむさ苦しい冒険者稼業では、見目麗しい女冒険者に目が行ってしまうのは致し方ない。だが、それで気が付いてしまったのだ。最近ジェイサムや恵二たちが良く一緒に行動している事。そして、彼女達が身に着けている装備品が、みるみる新調されていくことを。


 男達は当然ある考えに辿り着く。あの六人は金になる美味しい何かを知っている。だから<白雪の彩華>の四人も、あの冴えない男二人と行動を共にしているのだと。


 キュトル達の実力を知っている男達は、恵二とジェイサムが二人きりの時を狙って行動に出た。と言っても強硬手段に出る訳ではない。あくまで情報を聞き出す為のちょっと過激な“話し合い”だ。些かヒートアップしたのはご愛嬌だが、「美味しい情報を俺達にもよこせ」と言われて「はい、いいですよ」と答える馬鹿はいない。結局最終的には「覚えていろよ」とありきたりなお言葉を頂いて丁重にお帰り頂いた。そう、あくまで手は出していない平和的な話し合い(・・・・)だ。



「―――兎に角だ。またこの前のような馬鹿が現れるかもしれねえ。明日からは先を急ぐぞ」


「おーけー」

「任せて」

「了解」

「分かりました」


 四人がそれぞれ力強く頷いた。彼女達は普段こそ自由気ままな性格(一名除く)だが、いざ戦闘となると本当に頼りになる。特にアンデッドが蔓延っている裏ルートでは、ガエーシャによる神聖魔術の恩恵は大きかった。今となっては死んだ後まで乱獲されているCランクの骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)が哀れにすら感じられる程だ。



 今日も明るい内に宿に戻った六人は早めに床に就き、深夜からの活動に向け身体を休めた。




「アドガルさん、戻ったぜ」


 一見どこにでも居そうな麻の服を着た男は、部屋に入るなりそう声をあげた。部屋の中にはアドガルを始め、クラン<到達する者>のメンバーが集まっていた。その中心の執務席に座っていたアドガルは、仕事を任せ帰ってきたメンバーの男に労いの言葉をかけた。


「すまんな、来て早々。───それで、どうだ?」


「───ああ、当たりだ。ジェイサムの旦那達が骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)の骨を仕入れている。間違いない」


 一見ひ弱そうなこの男は、クラン<到達する者>の中でも隠密行動に長けた冒険者であった。つい先日まで他の街で活動をしていたのだが、アドガルがエイルーンに呼び戻しジェイサムを監視するよう頼んだのだ。


 男はエイルーンに戻るなりすぐにジェイサム達の周辺を慎重に探った。そしてついに先程手がかりを得た。遠くから盗み聞き取った会話の内容から推測するに、ジェイサム達は間違いなく骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)の狩場を知っているようなのだ。


「けどよぉ、エイルーンに骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)が出るなど聞いたことないぞ?」


「一体どこで沸いたんだ?」


 骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)が出没するような水場は限られていた。エイルーン周辺に大きな川はなく、リザード種すらエイルーン周辺には棲息していない。


「ここらで水辺といったら沼の竹林くらいだが・・・」


「あそこは市議会が管理している。そんなのが棲息していたらとっくに知らされている」


 男の報告を聞いた他の冒険者達はあれこれと討論しながら首を捻る。一体彼らはどこで骨を仕入れているのだろうか。


「―――ダンジョンだ。やはりそこしか考えられまい」


 アドガルが一言そう言い放つも、他の者はその意見に懐疑的だ。


「ダンジョン産なら、それこそ誰かが発見していたりしないですかね?」


「いや、まてよ。ジェイサムの旦那達は最近深夜から活動している。もしかして時間帯が関係しているのかも・・・」


「エイルーンのダンジョンに時間の概念はない。それに俺は夜に入った事もあるが、リザード種すら見たことないぞ?」


 クランのリーダーであるアドガルの発言だが、メンバーからは否定的な意見が多かった。そんな中、アドガルはハッキリと自分の考えを通した。


「俺にも確証があるわけでは無いが、ジェイの奴がダンジョン意外にうつつを抜かすとは考えられない。それに奴らは最近≪古鍵の迷宮≫に入り浸っているのだろう?なら、それが答えだ」


「≪古鍵の迷宮≫に骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)が?どこかに魔物の巣でも隠れてたんですかね」


「あそこはとうに全階層マッピング済みだろう?そんな美味しい魔物、隠れていたって見逃すか?」


「―――隠れていた、か・・・」


 アドガルはそう呟くと、昔のパーティメンバーであるジェイサムの事を考えた。


(あいつはあの事件から≪古鍵の迷宮≫に固執したままだ。だが、あそこの探索ならジェイ一人の実力で十分、仲間など不要の筈・・・。仲間を得たのはきっと必要だからだ。だが、深夜にこっそり行動する理由は・・・?)


 ダンジョンで人目を避ける理由は色々とあるのだろうが、隠したいものの相場は大体決まっている。金になる物や情報、つまりお宝か隠し部屋だ。


「―――そうか!隠し部屋・・・いや、恐らく隠し通路だ!」


 それならばここ最近のジェイサム達の行動に説明がつく。深夜帯に行動するのは隠し通路を他の冒険者に悟られない為、仲間を増やしたのはその先に難敵がいた為、そしてその難敵こそが骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)なのだろう。


 全てが一本に繋がった。


「―――か、隠し通路ですか?」


「あそこにそんなもの残ってるんですか?過去ダンジョンに入った冒険者達が散々探索している筈ですが・・・」


 クランメンバーは隠し通路の存在に懐疑的だが、ジェイサムの事を熟知しているアドガルはそれしか考えられないと断定するかのように語った。


「奴は誰よりもあのダンジョンに精通している。恐らく奴にしか分からない隠し扉でも見つけたのだろう。その扉の先に骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)が棲息している」


「・・・確かにそれなら辻褄は合いますが、調べます?」


「無論だ。気乗りしないが、依頼者(クライアント)からの要望もあることだしな。丁度いい」


 ジェイサムの行動については、あくまでアドガル個人の興味から偵察を仲間に依頼した。だが、それとは別に骸骨の蜥蜴(スケルトンリザード)の出所について、エイルーンの有力者から調査の依頼が舞い込んでいた。恐らくその出所は最近羽振りの良いジェイサム達で間違いないのだろうと勘ぐってはいたのだが、思わぬ形で面白い情報が手に入った。


(≪古鍵の迷宮≫の隠し通路、もし本当にそんあものがあるのなら、お前が俺の誘いを蹴るのはそれが理由か!そこをさっさと調べつくせば今度こそ俺の誘いに、未踏破ダンジョンの攻略に付き合って貰うぞ!)


 アドガルは隠し通路の存在に気付くが思いもしなかったのだ。既に攻略されてしまった≪古鍵の迷宮≫が、実はまだ未踏破ダンジョンである可能性があることを―――。

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