解毒薬は必要ない
「これと、それ・・・。ああ、あれも必要だったか」
「また沢山買ってるなぁ。少し多くないか?」
恵二とジェイサムはダンジョン探索の前に、≪古鍵の迷宮≫入り口前に並んでいる露店で買い物をしていた。主に薬草や探索に使用する消耗品を補充していたのだ。
「準備はし過ぎるに越した事は無いってな。中に入って後悔するよりはましだろ?」
そう答えたジェイサムの荷袋には、普段より数倍の量の携帯食や医療道具が収まっていた。
昨日突然ジェイサムが、ダンジョン探索にも大分慣れてきた恵二に、泊まり込みで迷宮に潜ろうと提案してきたのだ。試しにとこれから丸3日間は宿に戻らずダンジョン内で探索職の訓練に集中することに決めたのだ。
(それに出入りする回数を減らせれば、それだけお金が稼げるからな)
恵二の訓練に注力していた二人の収入は、ここのところ思わしくない。≪古鍵の迷宮≫で入場料10000キュール以上を稼ぐには魔物を積極的に倒していかなければならない。だが二人がここ最近行っているのは主に罠の発見と解除だけだ。
これでは儲かるわけがない。ジェイサムは最初に恵二を誘った際、金儲けがしたいからだと言っていたが、今は探索職の訓練に注力してくれている。お蔭でジェイサムは儲けるどころか赤字続きであった。これは恵二の将来性を買ってくれての行動だろうか。
(けど、何時までも足引っ張ってるだけじゃ気まずいよな)
そう考えていた矢先にジェイサムからのこの提案だったので、恵二は二つ返事で了承した。
その為、今はダンジョンに長時間籠る際の準備を念入りに行っていた。
「ん?ジェイ、それじゃ足りないんじゃないか?」
恵二が疑問を口にし指差したのは解毒薬であった。他の薬や食料は多めに購入していたジェイサムだが、解毒薬だけ異常に少ないことに気がついた。
「お、よく見てるな。だが、こいつは大丈夫だ。少なくともダンジョンの中では滅多に使わない」
ジェイサムの返答に恵二は首をかしげた。
以前セレネトの町で新米として活動していた際に、冒険者の先輩であるセオッツやサミに解毒薬はキチンと用意しておけと教わっていた。
(魔物の中には毒を持つものもそれなりにいる。冒険者には必須アイテムの筈だ)
自身もグリズワードの森の中で凶弾の蛇の猛毒を受けるといった苦い経験を持っていた。スキル<超強化>で無理やり免疫力を強化するといった手段を取って難を逃れたが、死ぬほど苦しかった事を思い出し顔を顰めた。
恵二が怪訝そうな表情を浮かべていると、ジェイサムはその理由を語ってくれた。
「ダンジョンは基本的には解毒薬は必要ない。毒を持った魔物や罠が存在しないんだ」
「そう、なのか?」
その情報は寝耳に水であった。罠といえば、てっきり毒を塗った矢が飛んできたり、毒蛇がうじゃうじゃいる穴に落ちたり、といったものを恵二は想像していたからだ。
(言われてみれば、確かに毒の罠は無かったし、毒を持つ魔物も見ていないな)
しかし、一体どういった理由でダンジョン内に毒は存在しないのだろうか。
恵二の疑問を他所に、ジェイサムは話を続けた。
「だが、例外はある。《蠱毒の迷宮》だけはダンジョン内に毒が存在するらしい。それ以外のダンジョンでは毒の罠や魔物は一切発見されていない」
ジェイサムの話では、通常毒を持つ固体がダンジョン内にいたとしても、解剖し体内を調べてみると不思議な事に毒が抜かれているようだ。その《蠱毒の迷宮》と呼ばれている所以外のダンジョン産の魔物には一切毒が無いのだとキッパリと告げた。
「どうしてダンジョンには毒が無いんだ?」
「分からん。こればっかりは造った奴に聞いてみないとな・・・」
ダンジョンに精通しているジェイサムにも意味不明らしいのか、お手上げのポーズをとる。
「“造った”って、ダンジョンは自然発生って話じゃないのか?」
「それはあくまで有力な説の一つだ。・・・時に、ケージはアムルニス教の敬虔な信奉者だったりするか?」
「?いや。どうして今そんな事を?」
窮地に陥ったら神頼みくらいするし、良いことがあれば神に感謝をしたりもする。日本にいた頃は毎年初詣にも行っていた。だが、それだけだ。恵二は神道でも、ましてやアムルニス神の信者でもない。
「その《蠱毒の迷宮》は聖教国グランナガンの聖都近くにあるんだが・・・」
ジェイサムは少し言葉を詰まらせるも、難しい顔を浮かべながら続きを口にした。
「“ダンジョンの特性は、発生したその地に影響を受ける”俺はそう考えている。この街のダンジョンが似通っているのはそういう理由だ。他のダンジョンでも、近い所同士は似た造りになっているって聞いたことがあるしな」
「そうなのか?」
「あくまでそういう傾向にあるってだけで、俺の仮説だ。間違ってもアムルニス信者に言い触らすなよ?」
ジェイサムが前もって恵二の宗派を聞いてきた意味がようやく分かった。ジェイサムの仮説だと、神心的な信者に“お宅の聖地に影響されてダンジョンが毒まみれになっている”と告げるようなものだ。狂信的信者がそれを聞いたら後ろから刺されかねないとジェイサムは身を震わせてそう説明した。
「ちなみにアムルニス教はそのダンジョンをどう思ってるんだ?」
「“神の試練”だそうだ。ダンジョンは神が創造したもので、聖地にはとびきりの試練が与えられている、という考えらしい」
物は言いようであった。どうやらアムルニス教は、ダンジョンは自然発生ではなく造られたのだと主張している。人智を越えたダンジョンも、超越者である神が造ったのだと言えば成程、確かに筋は通っているのかも知れない。
「話が逸れちまったが、解毒薬が大量に必要ないって事が、これで分かってもらえたか?」
「それなら、解毒薬は全部置いていったほうがいいんじゃ・・・」
恵二の提言にジェイサムは首を横に振ってこう答えた。
「もしもの時には必要だ。・・・昔、ダンジョン内に毒を持ち込んだ馬鹿野郎がいてな」
ジェイサムはそう口を開くと、昔起こった惨劇を恵二に語って聞かせた。
その男は何をしたかったのか今も不明だが、ダンジョン内にあるトラップに態々自分で持ち込んだ毒を塗りたくった。それを受けてしまった冒険者達は次々と毒で倒れてしまったのだ。皆ダンジョンの特性を理解しており解毒薬を用意して来なかった。その特性を逆に突かれたのだ。
さらにその男は罠に毒を塗るだけでは飽き足らないのか、自身の武器にも猛毒を塗りダンジョン内を探索していた冒険者達の不意を突いて虐殺していった。
しかし、その男の最後は実に間抜けであったという。うっかりダンジョン内の罠を起動させてしまったのだ。しかも、その罠には自分で塗った毒が付着していた。
それを聞いた者は“毒を嫌うダンジョンが男に制裁を加えたのだ”と唱える者も多いという。
「この凄惨な事件を顧みて、冒険者達はある程度の解毒薬を用意して探索に出ているって訳だ」
「・・・それって実話なのか?」
「さぁな。特に一番最後の部分は怪しいがな。とにかく他の探索者の存在がある以上、もしもの為に解毒薬は持って行った方がいい。ダンジョン内で殺し合いなんてのは決して珍しい話じゃない」
ジェイサムにそう窘められ、恵二は頭の中にきちんと今の情報を叩きこんでおく。ジェイサムの話は分かり易い。質問をすればちゃんと理解できるよう丁寧に返してくれる。
(最初は教えるのが下手だと思ったんだけどな)
どうやら教え慣れていないだけで、彼は先生に向いているのかもしれない。恵二は自らの師であるジェイサムの評価を変えた。
この後2人はダンジョンに入り、丸3日掛けて探索職の技術を特訓をするのであった。
「もうそろそろケージも≪古鍵の迷宮≫でなら探索職としてやっていけるレベルに到達するな」
「本当か!?」
恵二の問いに頷きジェイサムはこう続けた。
「あくまで≪古鍵の迷宮≫でならばだがな。≪銅炎の迷宮≫の方は地下45階層まである。当然下の階層程魔物も強く、トラップの難易度も上がっている。そっちはケージにはまだ早いな」
我が師匠は褒める時は褒めるも、しっかりと釘を刺すことを忘れない。
≪銅炎の迷宮≫はエイルーン市内に存在するもう一つのダンジョンだ。そちらの方は≪古鍵の迷宮≫より攻略難易度が上がってはいるが、素材が高値で売れる魔物が多い為、冒険者達の間では人気のダンジョンであった。
その反対に≪古鍵の迷宮≫は力不足な者がお試しとして活動しているのが主だ。どちらのダンジョンも既に攻略済みで“仮死状態”となっている。
「とにかく先ずは、≪古鍵の迷宮≫内のトラップを全て発見できるようになる事。そうすれば、いよいよ次のステップだ」
「次のステップ?」
「それは・・・内緒だ」
我が師は意味深な言葉を残してその先を語ろうとしなかった。
(そういえば、あまりこの先の予定を語らないな。ジェイサムは俺に探索職の技術を磨かせた後、一体どうするつもりなんだ?)
最初彼が組もうと行った時に話してくれた事を思い出す。
(確か、金儲けがしたい、揉め事は嫌、だったか?)
それと次のステージになればコンビでなくパーティを組むかもしれないとも言っていた。それ程大がかりな探索となると、やはり次のステージとは≪銅炎の迷宮≫の攻略なのだろうか。
「おーい、さっさと素材をギルドに売りにいくぞ!」
「―――!ごめん、ちょっと考え事していた」
慌ててジェイサムの後に付いて行く。
久しぶりにダンジョンから帰って来た二人は、収穫した素材を売りに冒険者ギルドを目指した。
ギルド内のこの時間は今日も盛況であった。夕暮れ前の時間は、どこのパーティや冒険者達もダンジョン内で取って来た素材を売りに足を運びに来ておりギルド職員は大忙しであった。受付カウンターの奥の方ではホルクが忙しなく働いている姿も見られた。
「今日は人が多いな。ちょっと待つのに時間がかかりそうだぜ」
「この時間は仕方が無いよ。大人しく待っていよう」
二人が素材買取の受付で出来ている列の一番最後尾で待っていると、外から更に多くの来訪者が訪れてきた。今度はかなりの大所帯の冒険者達のようだ。ギルド内にいた他の冒険者達が若干ざわめき出す。
「おい、あれって話に聞く・・・」
「ああ、間違いない。エイルーン最大派閥のクラン様だぜ」
周りの冒険者達の会話を盗み聞きしていた恵二は、来たばかりの団体さんの情報を耳にした。
(最大派閥のクラン?<濃霧の衛士>みたいなクランか?)
かつての戦友たち、ヴィシュトルテ最大派閥のクラン<濃霧の衛士>の面々を思い浮かべた。
冒険者ギルド内に入って来たその集団の人垣が割れ、奥から派手な装備に身を固めた一人の男が現れた。男の装備の全身が赤をメインとした基調でとにかくド派手な装備だ。そして何より目を引くのが、その男の背丈程ありそうな大きなシールドであった。
男の身長は恵二と差ほど変わらない低さであったが、肉付きはしっかりとしていてドワーフを若干大きくしたようなイメージが近い。男の年齢は30過ぎ辺りだろうか。体格の所為でいまいち分かり辛い。
その真っ赤な盾の男は辺りを見回すと、何かを見つけたのか目を細めその先へと歩を進める。
(―――というか、こっちに来た!?)
男は重そうな盾を軽々と持ったまま、こちらへと進んで来る。そして恵二の目の前まで来るとそのまま止まった。いや、正確にはジェイサムの正面であった。
「久しいな、ジェイ。お前がここにいると聞いてな。挨拶に来てやったぞ」
「相変わらず仰々しい集団だな、アドガル。サマンサに遠征に行っていたんじゃないのか?随分戻りが早いな」
「ああ、今日戻ったばかりだ。ちと想定外な事が起ってな。エイルーンには人員補充の為戻ってきた」
アドガルと名乗った盾の男とジェイサムは、周りの注目を集めながらも、それを気にした風も無く話を続けた。
「どうだ、ジェイ。そろそろ考えが変わらないか?俺と一緒に組め」
「答えはノーだ、アドガル。お前こそ、いい加減諦めたらどうだ?」
「もう嘗てのようにアドとは呼んでくれんのだな・・・」
「俺もお前も随分変わっちまった。今さら昔のようには振る舞えねえよ」
どうやら二人は古くからの知己のようだ。過去に何かがあり、二人の関係に変化があったのだろう。だが、そこまで険悪な仲のようには見えなかった。
すると、盾の男の視線が今度は恵二に向いた。
「・・・この少年が、今のお前の仲間か?」
「ああ、俺のパートナーで弟子でもある」
ジェイサムがそう紹介すると、男の視線が値踏みでもするかのように恵二に突き刺さった」。
「俺はアドガル・マッシャー。クラン<到達する者>のリーダーでAランクの冒険者だ」
「あ、俺はケージ・ミツジ。Cランクの冒険者です」
自分の方に話を振られ、お互いに自己紹介をする。だがアドガルと名乗った男は恵二のランクを聞いた途端、その態度を一変させた。
「ほう、その若さでCとは素晴らしい!坊主、うちのクランに入らないか?」
「───え?」
「おい、待て!アド!」
突然の勧誘に恵二は驚きの声を上げた。お互い会って間もなく、素性も知れないのに誘いを掛けてくるとは、男が何を考えているのか少々理解し辛かった。
溜まらずジェイサムが抗議の声を上げる。その際つい呼び方を変えてしまった事に舌打ちしながらも、アドガルに食って掛かった。
「お前、久しぶりに会って早々、なに人様の相方を引き抜こうとしてやがるんだ!?」
「お前も知っていよう?我が二つ名を」
「《強欲》・・・」
誰かがそうポツリと呟いた。
「お前の弟子という事は、つまり探索職であろう?丁度今欲していた人材だ。どうだ?待遇は色をつけるぞ」
「いや、遠慮します。俺はジェイと組んでいるので」
今まで散々教えてきて貰っている身なのに、いきなり他の勧誘を受ける選択肢などあり得ない。そう考えての即答であったが、周りの受け止め方は様々であった。
「あいつ!アドガルさんの誘いを蹴りやがった!」
「トップクランの誘いを即答で拒否するとは・・・」
「あのガキ何者だ?というか一緒にいるおっさんは誰なんだ?」
「知らねえのか?凄腕探索職のジェイサム・ターラントだよ。あの人、ぼっちじゃなかったのか」
「・・・」
恵二とコンビを組む前まで、ジェイサムはよく一人でダンジョン探索をしていた為か、周りからは友人がいないのだと思われていたようだ。ジェイサムはぼっち発言をした冒険者の方を半眼で睨んだ。
「そうか、気が変わったら来い」
一方声を掛けてきたアドガル自身はそこまで恵二に執着していないのか、意外にあっさりと身を引いた。踵を返すと、取り巻きの冒険者達を押しのけてギルドを後にしようとする。
ギルドの出入り口に差し掛かったアドガルにジェイサムが背後から声を掛けた。
「おい、アドガル。今回は何時までエイルーンに滞在しているつもりだ?」
「少なくとも冬を超すまでだ。あくまで今の所の予定だがな」
そう返答するとアドガルは一度も振り返る事無く外に出て行き、合わせて取り巻きの連中もぞろぞろとギルドを後にした。
「ちっ、結構長期間いやがるのか。面倒な奴が戻って来たな・・・」
「・・・なんだったんだ、あの人は?」
異様な人口密度であったギルド内にいつも通りの風景が戻ると、恵二は事情を知っていそうなジェイサムに、あの大きな盾を持った男の事を聞いてみた。
「・・・奴は≪強欲≫のアドガル。エイルーンで最大派閥のクラン<到達する者>のリーダーで、俺の昔のパーティメンバーだ」
「元パーティ仲間か・・・」
二人の過去に何があったのか聞きたい衝動に駆られるも、ジェイサムにとっては面白そうな話だとは思えず、ここはあちらから話してくれるまでノータッチでいこうと恵二は考えた。
「ちょっと!前、進んでるわよ!」
すると、突如恵二達の背後から女性の声が響いた。振り返ると、そこには4人の女性冒険者らしき一行がこちらを見ていた。その内の1人、先程の男と比べるとかなり小さく見える盾を持った戦士職らしき女冒険者が二人に話しかけてきた。
「貴方たちも素材の買取をしに来たんでしょ?後ろが詰まってるんだから早く前に進んでよ!」
その女冒険者の言葉に二人はハッとし再び前を向く。
(いつの間にか列が進んでた・・・)
先程の騒動で素材の買取をすっかり忘れていた二人は、いそいそと前へ進み再度順番待ちをする。もう次が恵二たちの番であった。
「す、すまねえな。色々あってすっかり抜けてたぜ」
「ふん、こっちも早く帰りたいんだからちゃんと前見て並んでいてよ!」
「ちょ、ちょっとキュトル!言いすぎだって・・・」
ジェイサムが謝辞を述べるも、小型盾を持った女性は勝気な性分なのか、刺々しい発言をした。それをすぐ後ろで見ていた彼女の仲間が宥めている。
「ねえねえ、君」
「ん?」
すると後ろで並んでいた内の、神官服に身を包んだ長身の女性が恵二に声を掛けてきた。
「私達ここには来たばかりで余り詳しく無いのだけど、さっきの集団って噂の大型クラン<到達する者>の人達よね?」
「そうらしいけど、俺もあんまし詳しくないんだ」
どうやら恵二たちの後ろで並んで待っている女性4人組は、エイルーンに来てまだ間もないパーティのようだ。先程の騒動が気になったので恵二に尋ねたのだろう。こういった情報収集も冒険活動には必須と言えた。
「ああ、あいつらは<到達する者>で間違いないぞ。未到達ギルドの攻略を目指すクランで、さっきの赤い装備の男がクランリーダーだ」
横で話を聞いていたジェイサムがそう彼女達に教えてあげた。
「知ってる!リーダーのアドガルさんって人、未到達ダンジョンを攻略する為に冒険者を次から次へと引き抜いてるんでしょ?」
それに返事をしたのは青髪ショートカットの軽装な女冒険者であった。装備から察するに恐らく同業者だ。
「それで付いた二つ名が、確か≪強欲≫でしたか?」
青髪ショートの女冒険者の言葉を補足するかのように発言したのは、4人の中で一番大人しそうな女性であった。ローブに身を包んだ彼女は杖を持っていた。それは標準的な魔術職の恰好であった。
「まぁ、確かにその二つ名で呼ばれてはいるがな。あれで強引な勧誘は絶対にしない男だ。ここにいるケージにも声を掛けたが、あっさりと身を引いただろう?」
ジェイサムは昔のパーティメンバーを擁護する発言をする。
「ふーん。実際に聞くのと見るのとじゃ違うものね」
小型盾を持った女冒険者は余り興味がなさそうに感想を述べた。
「お!やっと俺達の番だな」
「それじゃ、お先に失礼します」
「ほいほーい。情報提供ありがとねー」
神官にしてはやけに砕けた感じの女性が手を振ってそう答えた。
こうして無事買取を済ませた二人であったが、丸三日間かけて得た素材は、探索時間の殆どを恵二の修行に充てていた為、入場料を差し引けば残ったのはスズメの涙ほどであった。




