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大切な金づる

遂に100話達成しました!

日頃読んで下さっている方々や、感想やブックマーク、評価をして下さっている方々のお蔭で100話までのモチベーションを保つ事ができました!


ありがとうございます。引き続き「青の世界の冒険者」をご愛読頂けると幸いです。

「ジェイ、とりあえず俺が先行するから危ない場面があったら声を掛けて止めてくれ」


「ああ、分かった」


 まさかここまでジェイサムの教え方が下手だとは思いも寄らなかった。教わる身としては余り我儘を言いたくはないが、さすがに先程のようなレクチャーでは理解できる自信がない。


(おっと、こちらも集中しなきゃな!)


 一方的にジェイサムだけの所為にして、分からないと愚痴っても仕方がない。先程ジェイサムも言っていたではないか。“何事も自分で調べる事が大切だ”と。


 こちらも少しでも早く技術が身に着くよう一生懸命取り掛かる事にした。ゆっくりと歩を進め、じっくりと周辺を観察していく。


「~~~!」


 後ろでジェイサムが何か言いたそうにしていたが無視をする。恐らく時間が掛かり過ぎていると言いたいのだろう。だが、こちらは何せ素人だ。そこら辺最初は大目に見て欲しいものだ。


(・・・うん。とりあえずここら辺の地面は大丈夫そうだな)


 そう思い恵二が一歩踏み出そうとした、その時―――


「―――ストップだ、ケージ」


 ジェイサムから制止がかかった。


「うーん、全然分からない。ジェイ、どこに仕掛けがあるんだ?」


 恵二が尋ねるとジェイサムは嬉しそうに語り出す。これは先程二人で決めたルールだ。恵二はなるべく一人で挑戦をする。本当に危なければジェイサムが止める。そして恵二が尋ねるまでジェイサムは答えを言わないし実演も披露しない。


「そこの地面に石を投げてみろ」


 ジェイサムの指示通りに恵二は小石を拾うと、彼が指差した所目掛けて放り投げた。すると地面の一部分が軽く沈み、直後左右の壁が凄いスピードで迫って来た。たちまち小石を投じた空間は左右からの壁面に圧迫された。


「・・・なんで分かったんだ?」


「逆に聞くが、どうして安全だと思った?」


 質問を質問で返され、あれこれと考えて見るも、やはり答えはこれしかなかった。


「・・・何もなかったから?怪しい所が全く見当たらなかった」


「ま、普通そう思うよな。だが罠を張る奴も必死だ。・・・誰が創ったのかは知らねえが、簡単に見つかるような罠はダンジョンにはない。だからもっと観察しあらゆる想定を考えろ。確かに今回の起点は分かり辛かっただろうが、仕掛けの壁はあからさまだったぞ?」


 ジェイサムに指摘され、ハッとなって壁面を観察してみる。役目を終えた壁面のトラップは、既に所定の位置まで戻っていた。その可動した壁面部分には良く見ると動かない壁との間に隙間があった。ごく僅か、それも同じ様な隙間はあちこちにあるのだが、確かに言われてみるとそこの隙間の部分だけ間隔がおかしい。


「・・・気づかなかった」


「罠を見破る方法は3つある。罠の起点を見つけるか、先に仕掛けを発見し想像する事。後は経験だ」


 2つ目までは兎も角、経験を武器にできるまで後どれくらい時間を要するのか、考えるだけで思わずため息が出てきそうだ。


「ま、ヒヨッコには早い話だったな。さあ、このままじゃ今日中に15階層に辿り着けないぜ?」


「了解師匠(マスター)。また危なかったら声掛け宜しく!」


「ま、マスター・・・!?」


 ジェイサムは何やら頬を赤らめ頭をかいている。呼び慣れない単語に照れているようだ。


(さて、早速アドバイス通りに実践してみますか)


 罠の起点を見つける。それが無理なら先に仕掛けを・・・。


「・・・先生、どうやったら仕掛けを見つけられるんだ?」


「何事も経験」


 どうやら我が大先生は当てにならないようであった。




 なんとかジェイサムの手助けを経て、ようやく15階層に到達した時には既に日が暮れ始めていた。これでもジェイサム曰く最短ルートを選択したらしい。道のりはまだまだ険しい。


「まさか人に教えるのがこんなにも難しいものだとは・・・」


 それは生徒の前で口にしてはいけない台詞な気がするので聞かなかったことにする。まぁ一度は学級崩壊になりかけた間柄で、今更であろうが先生の名誉の為聞かなかった事にする。


 全30階層である≪古鍵の迷宮≫の丁度中間地点である地下15階層は、魔物やトラップが一切ないエリアなのだという。ダンジョン内にはいくつかあると言われている安全エリアだそうだ。安全エリアの割には道が複数あるおかしなエリアだが、一息つける場所があるのは有り難い。


 ここでは普段、小休止しているパーティが多くいるのだが、時間が夕暮れ時とあって今は誰も居なかった。


 一先ず今日の目標である地下15階層の<回廊石碑>に触れると、石版に“001、005、010、015”と数字が白く輝いて表示されている。


「・・・よし、これで最低限の目標はクリアした訳だ」


「けど、ここに来るまで大分時間が掛かった。俺、才能無いのかな・・・」


 これだけ長時間付き合ってくれたのに、1つもまとも(・・・)に罠を解除出来なかったのだ。流石の恵二も凹んだ。


「何言ってるんだ、まだ初日だぜ?それにいくつか罠を発見し解除していたじゃねえか」


「あれは・・・」


 そう、全く1つも解除出来なかった訳では無い。だが、とても全うな手法では無かったのだ。


「・・・ケージ。お前、もしかして魔術で罠を発見したんじゃないか?」


 ジェイサムが核心を突く。彼の言うとおり、恵二が発見できたのは魔力探索(マジックサーチ)で微かに反応を見せた罠だけであった。最初は使う気は無かったのだが、余りにも結果が惨めだったので途中から使用してしまったのだ。


「ああ、その通りだよ。魔力探索(マジックサーチ)で幾つか見つけたんだが、魔力反応の無い罠には通用しないんだよ」


「道理でな。簡単な罠は見逃す癖に、魔術が絡んだ罠はやけに上手く見つけやがるから、そうじゃねえかとは睨んでいたんだが・・・。昔、俺の知人に魔術師で探索職(シーカー)って奴が居たんだが、そいつも同じ芸当を持っていたな」


 ジェイサムは昔を懐かしむかのような顔を浮かべた。


「申し訳ない。折角教えて貰っていたのに・・・」


「何で謝る?魔術で罠を発見した事を悪いと思っているのか?それはお前の武器だろう?寧ろどんどん使え!それでも無理な罠なら俺の技術を盗め!」


 どうやらジェイサムは恵二が罠を探す際に魔力探索(マジックサーチ)を使っていた事を責めるどころか、積極的に使っていけと後押しする考えの様だ。


「いいか、ケージ。魔術的な要素の入った罠というのは、俺達熟練の探索職(シーカー)にとっても判別が難しいんだ。お前、やっぱ探索職(シーカー)向けだよ」


「そ、そうかな?」


 そう持ち上げられるとなんだかその気になってしまう。ジェイサムは更に話を続けた。


「ケージ、探索職(シーカー)にとって一番大事な資質って何か分かるか?」


「・・・観察眼?いや、想像力、かな?」


「探究心だよ」


 ジェイサムはハッキリとそう告げた。


「探究心の館とは良く言ったものだ。奴ら本質を見失っている癖に、全く良いネーミングセンスしてやがる。そこだけは褒めてやるよ。いいか、よく覚えておけよ、ケージ。解除できない罠、避けられない罠なんてのは無い!必ずどこかに糸口がある筈だ!」


 彼はそう熱く語る。恵二も一切茶化さず一字一句聞き逃すまいと耳を傾けた。


「大事なのは思考を停止させず考え抜く力だ。俺は探索職(シーカー)を名乗ってから一度たりとも考える事を放棄した事は無い。当然だ、自分や仲間の命が懸かっているからな」


 ジェイサムの言葉に恵二は衝撃を受けた。それと同時に今までの自分の迂闊な行動を恥じた。本当に最後まで真剣に考え抜いていたであろうか。一人で潜っていた時は、簡単に諦めスキルで強行突破した。先程も途中から完全に魔術頼りだ。それをジェイサムは咎めなかったが、探索に懸ける覚悟の程が自分とは桁違いだ。


(・・・ん?でも、待てよ?)


 一つだけ引っかかる事があった。


「ジェイの覚悟が伝わったよ。凄く参考になった。・・・でも、だったらどうしてさっきは俺を急かしたりしたんだ?」


「うっ!そ、それは悪い事をした。初心者のケージには無茶な事言ったな・・・。だが、速度は大事なんだぞ?考える事を止めるなとは言ったが状況は待っちゃくれない。つまり、瞬時にあらゆる罠の可能性を照らし合わせる必要があるんだ」


「それは・・・難しいな・・・。でも、分かった気がするよ!」


 目標は遙か遠くにあると気が付けた。そして、その目標への進み方も知る事ができた。やっと探索職(シーカー)のスタートラインに立てた気がする。


「大分遅くなったな。今日はもう帰ろうぜ。明日はどうする?」


「折角足掛かりを掴んだところだけど、明日はちょっと寄りたい所があるんだ。午後からでもいいかな?」


 今日もダンジョン内で激しい動きをしたもので、ついに一張羅の服が限界を迎えた。流石にこのままという訳にもいかず、明日は服屋を探そうと思う。


「分かった。ずっと探索ってのも気が滅入る。休息も必要だろうから、明日の“雷の日”は毎週休みにしよう」


 この世界にも曜日は存在する。ただし地球のそれとは違って、ここでは火・水・地・雷・光・闇の6日間で1週間、5週間30日で1ヶ月となる。つまりダンジョン探索は5日間で雷の日にはお休みというシフトだ。


 二人は遅い時間なので今回もギルドに全て素材を持ち込み、収入をきっちり分配してから別れた。




「おかえりなさーい。っわ!どうしたの?その格好」


「もうボロボロじゃない」


 若葉の宿へと戻った恵二を出迎えたテオラとベレッタは、少年の姿に思わずつっこみを入れる。やはり早急に買い換える必要があるようだ。


「いやー、ダンジョンで激しい動きをしていたから・・・。明日服屋で買ってこようと思うんだけど、どこか良い店知らないですか?」


「んー、あたしはあんまり服買わないからねぇ。それに冒険者さん用の服なら、丈夫で動きやすい物でないと駄目なんだろう?」


「あ、お母さん。私、知ってるよ。西の大通りで、女冒険者さん達に人気なお店があるって話を聞いたよ!」


 ベレッタは余り着飾らないのか詳しくなさそうだが、娘のテオラには心当たりがあるようだ。


「テオラ、そこって男用もあるのかな?」


「んー、多分。良かったら明日案内してあげるよ?」


 女性に人気のお店となると、男だけでは入り辛いかもしれない。ここは彼女の御厚意に甘えて一緒に同行してもらうことにした。


「そりゃあ、いいね。ケージ君もあんまし服に興味無さそうだし。テオラ、案内してやりな」


「うん。私が格好よくなるよう見繕ってあげるよ!」


「・・・お願いするよ」


 それだと普段は格好良くないのかと尋ねようとした言葉を飲み込み、大人しく頷いておく。


 明日は服の調達と、市内を見て回る事にした。




 翌日、テオラに案内されてやってきたのは、<若葉の宿>とは反対方向の、中央の大通り沿いの西側に位置する<天馬の蹄>という名の仕立て屋であった。



 エイルーンの市内は中央にクロスする形で東西と南北に大通りがかかっている。その大通りで別れた区画をそれぞれ北東地区、北西地区、南西地区、南東地区と4区画で区分されている。


 恵二が普段活動しているのは東側、〈若葉の宿〉や冒険者ギルドが南東地区で、《古鍵の迷宮》が北東地区だ。


 南西地区には魔術学校があるようなのだが、まだ一度も訪れた事が無い。


 北西地区は主に富裕層の住宅街が多く、アトリの実家である邸も北西地区に構えられている。


 恵二達は、その北西地区の大通りに面している仕立て屋に足を運んでいた。


「「いらっしゃいませ!」」


 店員の挨拶が重なって聞こえてくる。ここのお店はオーダーメイドも請け負っているが、既に仕上がった完成品もディスプレイされている。日本にあった洋服店となんら遜色がない見栄えだ。


「へえ、色々あるねー」


「ああ、それにちゃんと男物もあるようだ」


 男性用の服も置いてあるようで一安心するも、店員と恵二以外の客は全て女性とあって多少の居心地悪さを感じる。


 更に恵二の今の格好はボロボロの冒険服であり、テオラの着ている服も、店内に飾ってあるきらびやかな服と比べるとかなり地味で、二人して気まずそうに店内を見回る。


「お客様、何かお探しでしょうか?」


 そんな二人に女性店員が明るく声を掛けてきた。見るからにお金を持っていなさそうな二人組に嫌な顔一つせず笑顔で話しかけてくるのは、まさに接客のプロと言えるだろう。


「え、えっと。この人の新しい服を探しに来たんですけど」


 恵二が女性店員の評価を心の中でしていた間に、わざわざ同行してくれていたテオラが代わりに受け答えしてくれていた。


「まぁ、彼氏さんの服選びですね!」


「か、彼氏!?」


 店員の言葉にテオラは顔を赤らめ、首を横にブンブン振り否定する。


「───ち、違います!ケージさんは大切な金づる、じゃなくて、うちのお得意様です」


「おい、こら!」


 すかさず恵二はツッコミを入れた。テオラは“しまった!”といった表情を浮かべ、女性店員さんは若干引いていたものの、すぐに営業スマイルを浮かべた。やはり只者ではない。


「そ、そうでしたか。でしたら、お互い大事なお客様に良い服を選んであげたいですね!」


(ほんと、プロだな。この人・・・)


 店員が上手く取り繕った反面、恵二はテオラの金づる発言で若干気落ちしていた。女の子に服をコーディネートしてもらえるという、夢のようなシチュエーションに多少期待してしまっていた恵二を責められる者はいないであろう。


「そうですねぇ。お客様の背丈ですと、ちょっと店内に置いてあるものは合わないかもですねぇ。少し待って下さい。奥から探してきます」


 そう告げた店員は奥へ姿を消すと、恵二とテオラの二人が残された。


「・・・」


「・・・」


 気まずい二人は黙り込んでしまうも、このままという訳にはいかない。先にボソッと呟いたのは恵二であった。


「・・・金づる」


「わー、ごめんない!どうか、宿を出て行かないで!」


 テオラは涙目になり恵二のボロボロになった服を引っ張りながらそう懇願する。彼女の行動に恵二は慌てて口を開いた。


「お、落ち着け!大丈夫、それくらいで出て行かないよ!まぁ、確かに金づると言えば・・・うん、そうなんだけどさぁ・・・」


 人間本音がポロッと出る事もある。彼女がそう思っていた事を知らされた恵二は、少し釈然としないものの、本当の事なので納得はする。


「ち、違うんです!決してケージさんをそういう目だけで見ていたんじゃなくてですね!・・・うち、貧乏だから久しぶりにお客さんが長期滞在してくれるって期待しちゃって・・・。うちの宿が繁盛すれば、学費にも回せる様になるんじゃないかって・・・」


 彼女の弁明では、恵二に出来るだけ滞在して貰う事で、自分の学費分も稼げるのではないかと考え、一生懸命家の手伝いをしているとのことだ。今回の同行の件も、少しでも恵二に“気立ての良い宿屋の看板娘”と思って貰えるよう付いて来たのだと白状した。


「・・・なるほど。つまりハニートラップか」


「人聞きの悪い事言わないで下さい!身体じゃなくて親切を売ってるんです!」


「それもどうなんだよ・・・」


 どうやら彼女は今まで猫を被っていたようだ。甲斐甲斐しく実家のお手伝いをしている健気な少女、という恵二の先入観がガラガラと崩れ落ちていく音がする。


(まぁ、悪い子ではないんだろうな。自分の夢の為に努力をしているってだけだ)


 魔術学校の学費はとても一般家庭では賄えない。子供の為に無理をして入学させる家庭もあるようだが、宿屋があの状況では無理をしても無理であろう。それを理解している彼女は、それでも諦められずにこうして自由時間を潰してまで、客である恵二の案内を買って出ているのだ。


「お待たせいたしました。お客様、こちらの服なんかどうでしょう?」


 いつの間にか恵二のサイズに見合った子供服を掘り出してきた店員が戻ってきていた。彼女の手にしたその服は、とても品質の良さそうなもので、それでいて恵二の着ている服と同じ黒色であった。だが―――


「あー・・・すみません。それだとちょっと動きにくいかも・・・」


「確かに、外で遊ばれるのには若干動きづらいでしょうが、街中をお出かけされるのには大変見栄えがよく、今流行のものですよ?」


 そう説明して店員が見せたのは、子供用のカジュアルな服であった。袖やズボンなどダボダボで長く、おしゃれではあったのだが、これでは戦闘に支障をきたしかねない。


「あ、違うんです。この人は冒険者でして、今回はおしゃれな服では無く、丈夫で動きやすい服を探しに来たんです。ですよね?」


 横からテオラがそう捕捉をしてくれた。そういえば、ちゃんと服の使用用途を伝えていなかった事に今更ながら気が付いた。


 テオラの言葉に恵二が頷くと、女性店員さんは一瞬驚いた表情をするも、すぐに気持ちを切り替えてこう告げた。


「これは早とちりをしてしまい大変失礼を致しました。冒険者様となると、身に着ける物は命に係わる大切な代物。ここはやはり、しっかりと寸法を測ってのオーダーメイドをお勧め致します。ですが・・・」


「大丈夫、お金ならあります。それと彼女の分も一着オーダーメイドでお願いします」


「え?」

「承りました」


 恵二の台詞にテオラが驚いた声を上げる。それとは反対に女性店員は見るからに年端のいかない少年に、本当にお金を持っているのかと問い質す様な無粋な真似はせず、丁寧に一礼をする。本当に店員の鏡のような人だ。


「この度はご注文ありがとうございます。私はここのオーナーを務めさせて頂いておりますワミと申します。最後まで真心を込めてお付き合いさせて頂きます。それでは、寸法を測らせて頂きますのでお二人ともこちらへどうぞ」


 どうやらここのオーナーさん直々にご案内してくれていたようだ。ワミと名乗った女性オーナーに促されるままに付いて行こうとしていた恵二は、後ろでポカーンと立ったままのテオラに気付き声を掛けた。


「おーい、テオラ。早く行くぞ!」


「―――っは!いやいや、ケージさん!流石にそれは悪いですよ!一体いくらになると思ってるんですか!?というか、ケージさん、オーダーメイドを二着も注文してお金は大丈夫なんですか!?」


「・・・ワミさん。二人分のオーダーメイドを注文すると、どのくらいになりますか?」


 大丈夫だとは思うが、一応念の為に確認をしておく。


「そうですね・・・。装飾に拘ればいくらでも予算は膨らんでしまいますが、機能重視で尚且つ水準の質を保った物でしたら、お二人分で40万キュールもあれば十分です」


「―――40万キュール!!」


 余りの額にテオラは仰天する。その額があれば、自分の実家よりグレードの高い宿屋でも1ヶ月は泊まれる。流石に服にかける額ではないと心配そうに恵二へ視線を向けるも少年は即答する。


「では、二人分でお願いします。支払いは先ですか?」


「はい。申し訳ございませんが、当店は全て前払い制となっております」


 冒険者に人気なお店とあってか、前払いというのは当然だと思えた。日頃身体を張っている冒険者稼業は何時命を落としてもおかしくない。オーダーメイドで注文して、商品が完成した時には戻らなかったなんて落ちは容易に想像ができた。


 恵二は懐から金貨を取り出そうとすると、横からテオラが待ったをかけた。


「ちょっと待って下さい!そんな高額な品、受け取れません!それに私、さっきはあんな酷い事を言ったのに・・・!」


「金づるに奢って貰うのは気が引ける?」


「う!・・・それは、そのぉ・・・」


「大丈夫。ちょっとした臨時収入があってね。それにこの稼業をやっていれば、何時帰ってこれなくなるか分からない。だからあぶく銭はなるべく有効に消費しておきたいんだよ」


 これは本心だ。ヴィシュトルテでたんまり貰った報奨金は、本来魔術学校の費用に充てようかと考えていた。だが、それはアトリとの契約で不要となった。あちらが学費を全て持ってくれるのだ。


 お金は確かに欲しいが不必要に多く持っていても重いだけだ。この世界に紙幣といった概念は無いのだから。


「それなら、残ったお金でケージさんが生きて帰って来れるように、装備にもっとお金を掛ければいいじゃないですか!?」


 なお食い下がるテオラ。これが彼女の本来の性分なのであろう。いくら恵二を金づると口を滑らせても、覚えのない施しは受けないのだ。最初は彼女の学費を肩代わりする考えも過ったのだが、それは流石にやり過ぎだ。せめて服をプレゼントするくらいが丁度良いだろう。


「俺はスピード重視のタイプだ。余り着飾っても動きを阻害されるだけなんだよ。という事でワミさん」


 恵二が尤もらしい言い訳を述べるとワミは同調し頷いた。


「心得ております。ケージ様が無事に帰って来れるよう、素晴らしい逸品を作らせて頂きます。勿論テオラ様の分も期待して下さい」


 二人からそう説得され、彼女は遂に折れた。服が出来上がるのは1週間後だそうだ。

100話を記念致しまして、簡単に登場人物の紹介をさせて頂きます。その内時間を見つけて過去の後書きにも人物紹介を加える予定です。


今回は主人公の恵二を始めとした異世界の勇者達からです。余り出番が無くて作者にも忘れられそうな影の薄いキャラもいますが・・・すみません!


【三辻恵二】 

人族 召喚時15才 現在16才 黒髪茶目 165cm

青の世界<アース>出身 西暦2016年10月18日から召喚

生年月日は3月31日 好物は土熊コロッケ 乗り物に弱い

スキル<超強化(ハイブースト)> 自分限定であらゆる物を大幅強化可能


幼少時の何気ない体験から遠くのまだ見ぬ地に憧れ冒険家を目指す日本人中学生。昔から器用で大抵の事は軽くこなせる。浅く広いタイプ。



【水野茜】

人族 女 16才 黒髪セミロング茶目 162cm

青の世界<アース> 西暦2018年7月15日から召喚

スキル<水神(ミズハノメ)> 真水を生成し操る。その規模は大魔術を凌駕するポテンシャル


高校一年の日本人女子校生。帰宅途中に異世界召喚される。恵二が召喚された時代より2年先の未来から来た為、本来であれば恵二が年上となる。性格はやさしく人当たりが良いが若干天然。



【ルウラード・オレオー】

人族 男 15才 金髪ポニーテール蒼目 167cm

緑の世界<レアウート>の王国暦571年から召喚

スキル<未来予知(ゴッドアイ)> 己の身に危機が迫ると能力が発動し、未来視できる


異世界「レアウート」の小国「マウペトス」の侯爵家次男。典型的な貴族といった性格をしているが、自分にも厳しく影でこっそりと日々精進している努力家の金髪イケメン。腐敗した国や貴族の現状に辟易としており異世界に呼ばれ、しがらみから解放された事を喜んでいる。



【イザー・ブルールー】

エルフ 男 71才 髪は若葉色 蒼目 181cm

緑の世界<レアウート> レアウートの王国暦で388年から召喚

スキル<万物召喚(カミノメグミ)> 己の知識・魔力に応じて可能な範囲であらゆる物を生成できる


ブルールー族・族長の息子。勤勉でクソ真面目。幼少の頃、親友の人族を同じ同族である人族に殺された過去を持つ。緑の世界での人族とエルフ族は敵視し対立しあっているが、イザーは幼少の頃の友人と自分の立場との間に葛藤をする。人族は果たして憎むべき敵なのか。そんな思いを抱えつつ人族と戦闘が始まった直後に異世界召喚された。



【ミイレシュ・フィア】

エルフ 女 11才 髪は若草色 黄色の目 143cm

灰の世界<ヘルトゥナ> ヘルトゥナの精霊歴で274年から召喚

スキル<精霊女帝(エレメントクイーン)> 精霊種を使役する。しかし真の力は・・・


灰の世界<ヘルトゥナ>最大の世界樹「フィアラト」を守護するエルフの一族。生まれながらにして膨大な魔力を持つ少女だが、フィアラトの森から出たことが無く、遊んでいたところ誤って川に落ち、溺れ死にする寸前で召喚される。



【グイン】

人族 男 37才 灰色の髪 赤目 筋肉質 189cm

灰の世界<ヘルトゥナ> ヘルトゥナの精霊歴で3170年から召喚

スキル<魔術無効(アンチマジック)> あらゆる魔術の直接攻撃を無効。任意で能力解除可能。


寡黙だが心優しい巨漢。既婚で息子と娘がいたが、現在は生死不明。とある国で兵士長を務めていたが、その類稀な能力と平民という出自が貴族の反感を買い、罠に嵌められたのち投獄。死罪を言い渡されたが刑が執行される前に召喚され難を逃れる。



【ナルジャニア】 自称「静寂の魔術師」

人族 女 13才 青髪緑目 145cm

銀の世界<ベスカトール> 聖国歴10013年から召喚

スキル<賢者の宝玉(コレクター)> 魔術を玉に変えストックできる。しかし真の力は・・・(苦笑)


聖国歴10000年に生を受ける。赤子の頃から膨大な魔力を秘めており、正に一万年に一人の才能を持つ天才児として、アラン聖国一の大賢者から英才教育を受ける。師から学べることが無くなると、ナルジャニアは旅に出る。14才になる頃には世界中ほとんどの魔術を習得し、これ以上学べる魔術はないのでは、と危惧していたところを召喚される。子供っぽい性格だが本人曰く大人なレディー。



【石山コウキ】(貴族と書いてコウキと読むキラキラネームだが、本人は隠している)

人族 男 14才 茶髪茶目 158cm

青の世界<アース> 西暦2421年3月25日から召喚

スキル<空間転移?> あらゆる場所への瞬間移動が可能 しかし真の・・・以下略


恵二達と同じ地球出身の未来人。西暦2421年、東京は既にほぼ水没。地球規模の災害や戦争などがあった為、それほど技術は進歩していない。楽観的な性格で、物事を余り深く考えない。コウキ自身は戦争とは余り関わりなく悠々と生活していたが、徐々にその火種は近づきつつあった所を運良く?召喚される。後少し召喚が遅ければ爆発に巻き込まれていた。




以上が初期段階で構想していた勇者達の設定です。思いのほか出番が無く死蔵しておりますが、その内、作者の真の力が発揮されて・・・はい、本当すみません。


以上、今後もっと出番を増やして行きたいと思っている勇者達の人物紹介でした。

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