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ここ、どこ?

初投稿になります。小説は長年読む方のみの私ですが、初めて書く側に立ちました。拙い文章など出てくるかと思いますが、精一杯作り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 三辻恵二(みつじけいじ)はあまり早起きが得意ではない。


 中学の部活動で早起きをすることもあるが、普段は時間ギリギリまで眠っている。それにしても今日はやけに自分の体が重く感じる。それとベッドが異様に固い。


(昨日そんなに夜更かししたかな?……いや、そもそも―――)


 自分は一体いつ寝た?


 靄がかかったような思考がだんだんとクリアになる。恵二は上半身をゆっくりと起こし周りを見渡す。


「……ここ、どこ?」


 そこは自分の部屋の5、6倍ほどはある薄暗い部屋だった。全く見覚えがない。周りは石のような壁で囲われており、窓や扉などは一切ない。それでも視界がはっきりとしているのは、地面に淡い光を放っている模様のようなものが浮かび上がっており、それが光源となっているからだ。


「どこだよ、ここ……」


 先ほどと同じ疑問を呟くが答える者は誰もいない。否、正確には「答えられる状態の者がいない」だ。


 そう、この部屋には恵二以外にも何人かが床に寝転がっている。全部で7人だろうか、

 大男から幼女とバリエーション豊富な集団が横になっていた。まさに異様としか言えない光景が広がっている。


(事件か何かだろうか?……まさか、死んでないよな?)


 最悪の事態も想定されたがその心配もすぐに解消される。


「う、うーん……」


 目が覚めたのか、何人かが身じろぐ。少なくとも自分以外全員死んでいるなんて事態にはならずにほっと息を吐く。しかし、いまだにどのような状況に自分が陥っているのかが分からない。答えを探すように恵二は周囲を見渡してみると……。


「―――は?」


 思わず目に止まったのは、淡い緑色の髪をした横たわっている幼女だ。その綺麗な髪から横に出ている長く尖った耳に恵二の目が釘付けとなる。自分の知人に耳が大きい奴はいるが、そんなレベルではない。


「……っていうか、あれってどう見てもエルフだよな?」


 恵二はゲームやアニメなどで偶に登場する架空の種族「エルフ」をすぐさま思い浮かべる。 更に注意深く彼女を観察すると、何故か全身ずぶ濡れ状態であった。雨に降られたというよりかは、そのままプールにでも飛び込んだのではという酷い有様だ。しかもいまだに身動き一つもせず横たわっていた。


(あれ、やばいんじゃないか……?)


 流石にそのままにはしてはおけず、様子を見ようと立ち上がった瞬間―――


「―――貴様、何者だ!!」


 突然の大声にビクッと体を動かし慌てて声の発生源へ振り返ると、そこには剣を抜いた金髪イケメンが立っていた。


「―――!!」

 思わず後ずさりするがすぐ真後ろには壁、ここは密室と逃げる場所がない。


「ちょ、ちょっと待て!タンマ、タンマ!俺じゃない。犯人は俺じゃない」


 何かしなければ斬られると思った恵二は、両手を上げ降参のポーズで慌てながら思いついた言葉を口にする。剣を向けられるなんて経験、無論初めての恵二はとにかく慌てた。


(何いってんだ俺!こんな台詞、まるで悪事がバレた犯人のようじゃないか!)


 咄嗟とはいえ、うまく口が回らなかった自分を罵りながらも相手の返答を待つ。


「……まるで自分が犯人です、と白状しているようなセリフだな」


(ごもっともです)


 口にはせず相手に同意する。しかし、いきなり斬られるといった事態にはならず、会話が成立したことに少しほっとする。大分冷静さを取り戻せたところで、恵二は正面にいる金髪イケメンの容姿を観察する。


 外国人だろうか、見事な長い金髪を頭の後ろで結んでいる。身長は自分と殆ど変らず、同年代だろうか、まだ少年といった感じだ。顔つきは整ってはいるものの、鋭い青い目でこちらを値踏みしている。


 しかし何よりも目を引くのはその格好だ。鎧とも礼服とも言えるような派手な衣装。そして自分に向けた細身だが力強い両刃の剣。


(これじゃあ、まるでファンタジー世界の住人じゃないか!さっきのエルフ耳といい……。―――って、そうだ!さっきの幼女を助けないと……!)


「……1つ提案があるのだが」


「なんだ?命乞いか?」


(だから俺は犯人じゃないって!!)


「……そこで倒れている女の子が気になる。救助してもいいか?」


 右手で幼女を指す。金髪イケメンもこちらの動向を伺うように、ゆっくりと恵二が指差したほうを観察し、少し思案する仕草を見せると口を開いた。


「……いいだろう。ただし妙な真似はするなよ?」


「わかったよ。そっちも後ろからバッサリはご免だぜ?」


「―――っ!貴族であるこの私がそんな卑怯な真似をするものか!いいからさっさとしろ!!」


 なんか怒らせてしまった。どうやら気難しい少年のようだ。というか丸腰相手に剣で脅すのは卑怯じゃないのかよ、と心の中で悪態をつく。恵二は大きく溜息をし、幼女のほうにゆっくりと歩く。


(しっかし状況が全く分からない。これは夢か?)


 夢の中ならあんな金髪イケメンの脅しには屈せず、抵抗してみても面白いんじゃないかと考えながら更に幼女へ近づくと。


「これ以上その子に近づくな!汚らわしい人族が!!」


「――――!!」


 本日2度目の怒声と、自分の足元に突き刺さった何かに驚き、思わず尻餅をついてしまう。お尻が痛い。どうやら夢の中ではないようだ。


(いってぇ!……びっくりした。今度はなんなんだ……よ!?)


 驚かせた元凶の方を見た恵二は、今度こそ心臓が止まるかと思うほど驚愕した。


「―――動くな!動けば射る!」


 そこには眉目秀麗な青年エルフが弓を構えていた、しかもこっちに。


「……てことは、さっきのは矢かよ!!」


 思わず声に出してしまう恵二。改めて足元を見ると、大きい鏃のついた矢が石の床を突き刺している。


 ゲームでよく弓矢は登場するが、恵二は余りその武器を選択したことは無い。なんかチマチマ遠くで攻撃していて威力低そう、という考えが恵二の中にはあった。しかしゲームは所詮ゲーム、現実とは全く違う。


(冗談じゃない!あんなの貰ったら即死じゃないか!)


 剣の次は弓で脅される恵二。流石にエルフ幼女どころでなく、自分の命が心配になってきた。


(また降参のポーズでもしてみるか。しかし動くなと言われたしな……)


 床に腰をつけたまま、この状況をどう乗り切るか思案していると。


「貴様、エルフ族の戦士か?マウペトスの地に何の用だ?この部屋に閉じ込めたのは貴様の仕業か?」


 金髪イケメンの剣先が恵二から緑髪のエルフに向けられた。幼女エルフより若干濃い緑髪のエルフも、弓の標的を金髪剣士に変える。


「何を分けのわからないことを……。床の魔法陣で我らを召喚し、閉じ込めたのは貴様ら人族の企てであろう?」


(魔法陣?あれってやっぱり魔法陣なんだ……)


 そう、床に光り輝く模様は、正にゲームに登場する魔法陣のようであった。エルフ・剣・弓とくれば、ファンタジー物が好きな恵二は「もしや魔法陣では」と思っていた。ということは


(やっぱり魔法はあるのか。てことは、あれは魔法使いか?)


 金髪剣士と弓エルフが言い合っている間に、もう一人起き上がっていた者がいた。


 それは如何にも「私、魔法使いです!」と自己主張している出で立ちの幼い少女であった。


 三角帽子・ローブ・マントを黒で統一し、杖を持っている。帽子から青いおさげが飛び出していた。身長からして自分より少し年下だろうか。その魔法使い?がエルフ幼女のところへとこっそり忍び寄る。こちらが観察していることに気が付いたのか、ふと目があった。魔法少女は人差し指を立て自分の口元に置く。所謂「静かに」のポーズだ。


「―――っ」


 魔法少女のかわいい仕草に思わずどきりとしてしまった。エルフの二人といい、金髪イケメンといい美男美女ばかりだ。そんな呑気なことを考えていた恵二だが、再び魔法少女を見やると何かを唱える。するとエルフ幼女が淡い光に包まれはじめた。


「―――貴様!その子に何をした!!」


 それに気づいた弓エルフが魔法少女に弓を向けようとする。金髪剣士がそれに合わせ斬り込もうと身構えた瞬間―――。


「―――静まれえぇい!!」


「「「「―――っ!!」」」」


 恵二たち4人ともビクッ!と体を震わせる。前のイケメン二人が放った怒声とは段違いの威圧感があった。空気がビリビリと今でも振動している。


 4人の視線が一斉に向いた先には、両手に手枷をつけた大男が立っていた。


「そこの魔術使いの嬢ちゃんは、エルフの嬢ちゃんに回復魔術を施しているだけだ。少し落ち着け」


「―――!」


 青年エルフが魔法少女の方を見やると彼女は頷いた。


「そこの大男さんの言うとおりです。どうやらこのエルフっ子は衰弱しているようですので、疲労回復の魔術を施しました」


「くっ、人族の言うことなど、信用できるものか!」


「それでしたら弓エルフさんがエルフっ子を診てあげてください。私はむしろ、この魔法陣に興味がありますので」


 そういうと魔法少女は床の魔法陣を興味深げに観察し始めた。


「……えーと、争い事は終わったかなぁ?」


 また新たな声がする。そちらを見ると、今度は緑のパーカーを着た少年が起き上がっていた。


「いやー、さっきから目は覚めていたんだけど、なんか険悪ムードだったし?状況よくわからなかったしで、寝たふりしてました。すんません!」


 と軽い口調で謝罪する。


(……こいつ、いい性格してるな)


 軽そうな奴というのが第一印象。見た目は同い年か年下だろうか。目にかからないくらいの長さで切りそろえられた茶髪で、男にしては可愛らしい顔をしている。そして何より気になるのはその格好。


(現代人のような服装じゃないか。それに顔つきも日本人……か?)


 そう恵二と同じ年頃の日本人が着ていても、全然おかしくない服装をしている。向こうも恵二が黒髪茶色の目と典型的な日本人らしい容姿なことに気が付いたらしく近寄ってくる。


「あれ?お兄さんも日本人?」


「あ、ああ」


 つい先程まで剣やら弓やらで脅されてきたこともあり、現代風の少年を見るとかなり肩の力が抜けてくる。すると


「う、うーん……」


 声のした方を見やると、学生服を着た女の子がゆったりと上半身を起こすところであった。


 黒髪セミロングで本来は可愛らしい顔なのだろうが、起きたばかりの寝ぼけ眼で台無しである。彼女は周囲をみやると


「……ここ、どこ?」


 どこかで聞いたような台詞を呟く。




 数分後、介抱の甲斐あってかエルフ幼女も気が付いた。


 しかし状況がわからないのか怯えた様子だ。さっきから涙目で一言もしゃべらない。


「……安心しろ。俺は同族だ」


 青年エルフが優しく声をかけると少し落ち着いたのか、青年とぼそぼそ会話をし始める。小声でここからだと聞き取れないが、盗み聞きでもしようものなら矢で射ぬかれかねないので、恵二は現代人仲間らしい二人にコンタクトを取った。


「えーと、お二人さんはじめまして、でいいんだよな?」


「うん、君とは初対面だと思うけど」


 制服少女が返答してくる。少なくともうちの指定制服では無いなと確認しつつ恵二は自己紹介を始める。


「そっか、三辻君っていうのか。私は水野茜。高校1年生だよ」


 彼女は俺より1才年上であった。たった1才ではあるが、中坊と高校生の差は大きい。恵二は態度を改めて


「よろしくっす水野先輩」


「うん、よろしくね。で、そっちの子は三辻君の知り合い?」


「いいや、俺らも初対面だよな?」


 俺は緑パーカーの少年に質問すると


「え?あー、うん。そうそう」


(?なんかおかしな反応だな……)


 さっきまでおしゃべりで軽そうな奴だと思っていたが、考え事でもあるのか急に黙り込んでしまう。仕方ないので俺は水野先輩からあれこれと話を聞くことにした。



 なんでも水野先輩は学校からの帰宅途中だったらしい。その証拠に学生服と鞄を所持している。気が付いたらこの部屋にいたそうだ。


(そういえば俺も……)


 そう、いきなりの展開で考える暇がなかったが、恵二もこの部屋に入った記憶が全くない。その日は家から帰った後、近くに新しくできた大型ショッピングモールに出かけていた。なんでも国内でも珍しい超大型店舗らしく散々テレビで宣伝をしていた。最初こそは人ごみであふれていたが、最近は落ち着いてきたとのことで一度行ってみたかったのだ。


「ゲームコーナーでうろちょろしていたところまでは覚えているんだけど……」


「ねえ、そのショッピングモールってもしかして……アリオス?」


「そうっすよ。先輩ん家も近いんですか?」


「えーっと、近いし行ったこともあるけど、でもオープンしたてって……」


 何やらおかしなものを見ているような目を向けられると少女はこう答えた。


「あそこって、オープンしてもう2年以上も経つよ?」


「……はァッ!?」


 恵二は思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「三吉町のアリオスでしょ?あそこ2年前は賑わっていたけど、最近はお客さんめっきり減ってやばいんじゃないかって話だよ?」


「いやいやいや、2年前ってどこの話ですか?アリオスでしょ?オープンしたばっかじゃないですか!?」


(なんだ?話が噛み合わないぞ。2年前?俺、まだ寝ぼけてんのか?)


 そう、確かに恵二の記憶ではショッピングモール「アリオス」はオープンしたてのはずであった。普段そういうところには遊びに行かない恵二だが、「できたばっかだし面白そうだ」という理由で足を運んだのだ。それがオープンから2年経っているとは最早冗談としか思えない。しかし、この少女がこんな状況で意味のない冗談なんて言うとも思えない。恵二があれこれ考えていると横から声がかかった。


「ちょーっといいですか、お二人さん」


 話し合い中の恵二たちに、先程の軽い口調で緑パーカーの少年が口を挟んできた。


「……なんだよ?」


「まずは自己紹介ですね。僕、石山コウキ、14才です。よろしくね!三辻先輩、水野先輩」


(……やっぱ年下か)


 石山と名乗った少年はこんな状況だというのに、何が嬉しいのか明るい笑顔で挨拶してきた。まあ変に暗い性格よりマシではあるのだが。それに馴れ馴れしいが不思議とあまり不快な気持ちにはならなかった。


「お二人のお話は聞かせて頂きました。実は周りの人達の会話も拾っていたのですが、ある一つの仮説が浮かび上がりました」


 ふと周りを見渡すと、エルフ幼女は魔法少女と大男と、青年エルフは金髪剣士と何やら話し合っていた。


(……!?あんなに険悪だったのに……。あの組み合わせで一体何を話してるんだ?)


 気になる恵二だが、まずは目の前の後輩、石山コウキの話を聞いてみる。


「仮説ってどんなのだ?」


 待ってましたと言わんばかりの得意顔で石山コウキは爆弾発言をした。


「ここは異世界。僕らはこの床の魔法陣で何者かに召喚された可能性があります」


 余りの荒唐無稽な話だが、信憑性のありそうな話に恵二は軽い眩暈を覚えた。

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