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ルームシェアと一輪の花。  作者: 松田葉子
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お見合い。

「「見合い?!」」

まさひろ、ひろや、けんとは同時に言葉が出た。

突然大家から娘と見合いしてくれと言われたんだ、驚くのも無理はない。

「いや、な。飲み屋の女将さんにな、ゆいの話をしたんだよ。あいつ27にもなって、彼氏の話もしてこないんだよ。俺が言うのもなんだが、あんなに可愛いし、性格も良い娘なのに。出会いがないって訳でも、ないだろうに。現に、お前らと出会ってるしな。」

と、大家はまさひろ、ひろや、けんとを指差した。

「俺はあいつが心配なんだって女将さんに言ったらよ、見合いさせてみたらどうかって言うんだよ。それで俺は閃いた。ゆいを、お前らと見合いさせようってな。お前らがゆいのこと好きなのは知ってるからな。」

大家にそう言われて互いの顔を見合わせるまさひろ、ひろや、けんと。

「ただ、ゆいがお前らのことを意識してないかもしれん。だから見合いと称した場を設けたら、あいつも意識するだろう?」

「僕は全く関係ないじゃないですか。」

と、よしおかが口を挟む。

「お前も彼女いないんだろ?それに、俺が女将さんとゆいの話してたとき、こっち見てただろ。興味、あるんだろ?」

よしおか、動揺して目が泳ぐ。

「だから、これを機会に話してみようと思ったんだよ。毎日一人で飲み屋に来て、カウンターの隅っこの席にいつも座ってて。気になって女将さんに訊いたことあるんだよ。あいつどんな奴なのかって。料理は色々頼むけど、絶対頼むのは玉子焼き。あそこの玉子焼き、甘いから俺は頼まないんだがな。よしおかは毎回食べるから、甘いのが好きなんだと思って、カボチャの煮物を普段より甘めに味付けしてよしおかに出したんだそうよ。で、感想訊いたら、「僕好みです、美味しいです。」って言ってくれたって、そのときのこと嬉しそうに話すんだよ。それ以来色々作って出しちゃうって言ってたな。」

だからか、というような顔をしてよしおかは頷いた。



「ま、そういうわけだから。」

と言って、大家はソファにもたれた。

「そういうわけだから・・・って。」

戸惑うまさひろ。

大家はゆうじの方を見て言った。

「そういえば、お前誰だ?」

「あ、けんとのバイト仲間のゆうじです。今日、ここに泊めてもらうことになってるんです。」

「おぉ、そうなのか。お前も見合いに参加するか?」

「何だか楽しそうなんで、喜んで!」

「よし、そうと決まれば・・・。」

大家は立ち上がり玄関へと向かった。

「おぉ~い、ゆい!ゆ~い!!お前、ちょっとこっちの家に来なさい!!」

「え、玄関から呼ぶんだ・・・。」

と驚くゆうじ。

「大家さん、いつもあんな感じ。こっちの家にも勝手に上がり込んでくるんだよ。ま、楽しいから良いんだけどね。」

と肩をすくめるけんと。

暫くすると玄関の方からゆいの声が聞こえてきた。

「もう、お父さん、昼なら未だしも、夜なんだから大声出すの止めてって言ってるでしょ!!」

悪い悪いと片手を上げる大家だが、全く悪いとは思っていない顔をしている。

ゆい、リビングに現れる。

「こんばんは、お邪魔します・・・。あら、今日は沢山人が集まってるんですね。皆さんお友達ですか?」

「この人は俺のバイト仲間で、あの人は大家さんの飲み仲間だってさ。」

ゆうじ、ゆいに会釈する。

「僕は別に飲み仲間ではありません・・・。」

「どっちでも良いんだよ、そんなことは。おい、ゆい。今からこいつらと見合いだ。」

「え?!お見合い?!ちょっとどういうこと、お父さん!!」

「やっぱり言ってなかったんですね・・・。」

と溜め息をつくゆうじ。

「ゆい、お前もいい歳だからな、そろそろ結婚相手がいても良いと思ってな。」

「結婚したいときにするわよ。」

「何だ、いい人、いるのか?」

「別に、いないけど・・・。」

「じゃあこいつらと話するだけでも良いだろ。この三人のことだって、見合いだと思うと多少は意識するだろ?」

「でも・・・。」

けんと、ゆいの両手を取る。

「俺たちのこと、嫌い?」

「そんな・・・!嫌いだなんてっ。けんとくんも、まさひろさんも、ひろやさんも、皆良い人。私にとっても優しくしてくださるし。」

「そりゃあ、僕たちの天使だからねぇ・・・。」

とニコニコするひろや。

「じゃあ、物は試しだ。してみない?お見合い。」

けんととゆいは数秒見つめ合ったが、ゆいは根負けして溜め息をひとつついてから頷いた。

「よし、決まり!」

けんとはゆいの手を握ったまま、それを上下に振った。

「けんと、いつまでゆいさんの手を握ってるんだ、離せ!」

と二人の間に割って入るまさひろ。

「ちぇ、バレたか。」

渋々ゆいの手を離すけんと。



「じゃあ、ゆい、ここに座れ。お前の話をしろ。」

と、大家はゆいを空いた席に座るよう促した。

「私の話・・・。」

ゆいは考えながら席についた。

「えっと、静岡結です。27歳です。スーパーでレジ打ちしてます。家族は父と弟のあきら。母は二年前に事故で亡くしていて。ここの家の隣に三人で住んでます。趣味とかも言った方が良いのかな・・・。」

けんとがうんうんと頷く。

「趣味はお散歩。晴れた日にあてもなく歩いて、途中でカフェとか見つけたらそこでお茶して、お店の雰囲気を楽しんだり、窓の外を眺めたりするの。あとは絵を描くのも好き。風景とか動物の絵を描くことが多いかな。あ、ひろやさんに頼まれて、サイトのトップページに使う絵を描いたこともいくつかあります。」

「え、それ気になります。ひろやさん、見せてくれませんか?」

と、ゆうじ。

「良いよ、今パソコン取ってくるね。」

ひろやは二階へ行き、暫くするとパソコンを手に戻ってきた。

パソコンを少しいじり、皆にそのサイトを見せる。

「ほら、これだよ。」

「へぇー。良いですね。この淡い色・・・パステルって言うんですか?それで優しい感じがして。これ、ケーキ屋さんのサイトですもんね。雰囲気合ってると思います。」

ゆうじは頷きながら言った。

「あ、ありがとう・・・。そんな風に言ってくれると、嬉しいな・・・。ほら、依頼してくれたひろやさんとか、そこのケーキ屋さんの人たちにも良いよって言われたんだけどね、他の人から見てもそう思ってもらえるとね。ふふ、何だか照れちゃう。」

恥ずかしそうに下を向くゆい。

そんなゆいを見て胸キュンするゆうじとよしおか。

「自己紹介ってこんな感じで良いのかな・・・?」

「あ、結婚したらこんな家庭を築きたいとか、ゆいさんと結婚したらこんな良いことあるよ、とかありますか?」

と、手を挙げて質問するゆうじ。

「そうだなぁ・・・。お付き合いする人の中で、刺激をくれる人がいても良いんだけど、結婚する相手とは穏やかな日々を過ごしたいかな。ちゃんと心が休まるような家庭が良い。あと、お爺ちゃんお婆ちゃんになっても手を繋ぎたいな。お散歩してるとね、たまにそういうご夫婦を見かけるの。そういう二人を見るとね、良いなぁって思うの。」

「あー、それ分かる。微笑ましく見ちゃう。」

けんと、腕組みしながら言う。

「えっと、あと私と結婚したときのメリット?何か自分で言うのも変な感じがするけど・・・。料理には自信があります!料理って人を幸せに出来る力があるでしょ?食べた料理が美味しいと、幸せーって思うし、自分で作ったものを笑顔で食べてくれるのを見ても幸せーって思うし。だから私、料理は凄く頑張って覚えたの。」

まさひろは突然立ち上がり

「ゆ、ゆいさんのご飯は、凄く美味しい!!」

と言い出した。

「え、まささん急に大声でどうしたの・・・。」

驚くゆうじ。

「ゆいさんと話すと、いつもあんな感じになっちゃうの。緊張しちゃうみたいで。可愛いとこあるよね。」

微笑むけんと。

「へぇー。何だ、ちゃんと好きになる相手もいるんだ。さっきの話を聞いてると、いないと思ったけど。」

「ゆいちゃんは料理作るのホント上手だよ。たまにおかずお裾分けしてくれるんだけど、どれも美味しいの。僕、ゆいちゃんにレシピ教わって料理作ったりもするし。あ、ほら、この唐揚げのコツもゆいちゃんに教わったんだ。」

と、唐揚げを指差すひろや。

「食べてみても良いですか?」

と、よしおか。

「どうぞ。あ、折角だから唐揚げ以外の料理も食べてみてくださいよ。」

と、箸をよしおかに渡すひろや。

「いただきます・・・。」

手を合わせてから食べ始めるよしおか。

「美味しい・・・。」

目を見開くよしおか。

「ふふ、喜んでるのを見ると、作って良かったー、次も頑張ろう!って思いますよね、ひろやさん。」

「うん、そうだねー。だから毎日作れるんだろうな。作るの大変って思うこともあるけど、二人がちゃんと平らげてくれると、それが僕の糧になるんだ。」

まさひろとけんと、顔を見合わせてから少し照れる。

大家が手をパンっと一叩きして

「よし、ゆいの話はこの辺で。次はお前らだ。」

と言った。

「まずはまさひろだな。」

「お、俺からか・・・。」

緊張するまさひろ。

(つづく)

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