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南の門はほかと比べると閑散としていたが、壮一は、ようやく数日でこの南の門が攻撃され始めることに、何か違和感を覚えた。 

たしかに、天然の防御を誇るこの地も、この兵力では守りきれないだろうと考えた。物量差では、いくら奮起しても、限界がみえる。

 

とはいえ、グロスフスMG42機関銃はまだ用いるべきでないだろう、と、腰に巻きつけた手榴弾を時々投げつけ、弓で攻勢を仕掛ける連中を、一瞬の閃光のもとに、血と肉塊に変えた。 

やがて、敵軍の攻撃の波がおさまった。 なんとか、防ぎきれた。 煙草の入っているポケットを探ると、どこかに落としていたようだった。 

「飯だ。飯がきた。おい、起きろ」 

尿を漏らして寝転がる若い黒馬の男を、優しくカルが立ち上がらせて、肩を貸す。

 「だいぶ、慣れたと思っていたけど、やっぱりなれませんね」 

引き金から離して震える手先をみて、壮一は苦笑いする。

 カルもそうですね、と相槌をうつ。 

ふと、背後の遠くから走ってくる人影がした。 

「父さん、父さん、大丈夫?」 

真希であった。



南の門は、対峙した包囲軍に士気が弱く、膠着状態が長く続いた。 

それを受けて、南の門は一時的に開放的な気分になり、皆人目憚らずくつろぎだすようになった。「

なに? お前も一緒に戦うだと。」 

壮一は、機関銃を調整しながら、真希を見つめる。

 「そうだよ。今日だって、大勢の人が運ばれてきて……私だって馬鹿だけど、でも知ろうとしない馬鹿じゃない。こんなに、人が、こんなに守る人がいなくなると、いつかここは突破される……でしょ?」

 苦い顔をした壮一。

 だが、娘のいうとおりであった。 

親子は暫く沈黙し、見つめ合い、また沈黙した。 

と、調整していた腕を止め、何気なく腰に装備したナイフを取り出し、真希に手渡す。 

「なあ、真希、いいか? お前、そのナイフの刃先で自分の眉間と皮膚ギリギリまで近づけてみろ。」

 おもむろに語る父に、不審そうに肩を上げながら「わかった」と頷く。

 真希は、自分の眉間の皮膚とナイフの先端を限界まで近づける。 「こんな感じ?」 

なんだか、気味が悪い。刃物が自分の方向にきただけで、原始的な嫌悪感がした。

 「そうか、んじゃあ、そのまま喉元まで軽く滑らせるように下げて動かしてみろ」 父親の言うとおりやろうと思った。

 だが、 

「ねぇ、これどんな意味あるの? 私ふざけてる訳じゃ……」 

「オレもふざけてない。」 

冷たい口調だった。 

渋々父のいうとおり喉元までナイフを限界の距離で保ちながら動かす。 

だが、そこではじめて気がついた。 

動かせば動かすほどに、距離が放れる。それをまた制して近づける。そうすると、気持ちが悪い。 

ようやく、喉元までくると、 

「よし、もういいぞ。」 と壮一が破顔した。

 手と背中に汗が溜まっている。真希は、意識せずに、震えていた。 それを、みつけた壮一が、 

「そうだ、それだ。いいか真希? お前はたかだかその程度の刃物を自分につきつけて恐ろしがってる。だが、そりゃあ、間違いじゃない。でもな」 と、言葉を続ける。 

「でもな、戦争ってのは、よ。人を殺すための刀や槍、弓なんかで、殺す気持ちで全力なんだ。そんな連中と殺し合う。まあ、最近の邦画の人を殺せるか殺せないかの苦悩があるが、オレからしたら、しんじらんねぇ。」

 「……。」

 「案外、人間ってのは、人間を簡単に殺せるんだ。まあ、ただし、自分に実害がなければ……だな。驚くぜ? 戦争が怖いという輩の大半は殺すのはいいが、殺されるのはいやだって、やつらが殆どさ。まあ、オレも。」 睨めつけるように壮一を伺う真希が、 

「私も……っていいたいの?」 

「そうだ。なんせ、お前、ナイフを動かすだけでそのざまだろ? でも、戦争に参加するんだ、と……なあ、そりゃあ、こっちは助かるが、お前、そんなことできるか? こっちの人間は日常茶飯事に、刃を向けて、向けられの世界なんだ。」

 真希は、目を大きく瞠り、それからなにも言えなくなった。 それは、父のことばに反論できないことを含め、弱く、不甲斐ない自分が、ここにいることに……。 

(私って、ホントに何してるんだろ……。全く、誰の役にもたってないじゃん――。)

 ポン、と壮一が真希の肩を叩き、

 「いいさ、本当言うとオレはお前を人殺しにさせたくないんだ。」

 小さいが、しかし明瞭に発する壮一。

 真希は、口元を噛み締め、地面を向き、小さく頷く。




西の門を攻撃したのは、《穀物庫》の大将以下、麾下の武将であった。 

イヴァンは、北の門で自軍を率いている。

 

この、西の門の被害が大きかった理由は、やはり他の門より、士気が高いことにあった。 

盗賊討伐に結成された遠征軍は、精鋭であるが、この戦に対しては、どこか本腰を入れるほどの理由がない。 

それに比べ、《穀物庫》の連中は、この一戦に心を砕く。 

「コルゼ長官は、今頃、本国であくせくと、頭を働かしているのだろうな」 《穀物庫》大将は、威厳に満ちた髭を撫でイヤミをいう。

 脇を固める部下も、追従して笑う。

 古来より、文官と武官は仲が悪い。それはこの《穀物庫》も同じである。 「しかし、黒馬の者共、なかなかどうして防御が硬い。さて、三千の兵を預かっておきながら、この成果は見合わぬな。」 

今だ天然の岩盤を有する壁を挟んで、よじ登る自軍の兵と、それを阻む黒馬の攻防戦を遠目に、嘆息した《穀物庫》の武士たち。 

辺りは、硝煙やら、油やら、匂い、時々死者の山が腐敗臭をつくる。大将を含め、武士たちも果敢に兵と共に門を攻撃した。そのせいか、みなボロボロの甲冑である。 

――この昼過ぎであった。 

異変は、まず北の門にいたイヴァン直属の伝令兵がきて、 

「本陣、被害甚大なり」 

と伝えた。 

大将、麾下に衝撃がはしった。 

というのも、力押しと技で攻め、北の門攻略も間近と考えていただけに、この急報は皆を焦らせた。 

「どういうことだ?」 

と訊いても、その伝令兵も上手く様子をつかめていない風であった。 

大将は舌打ちをして、 

「もうよい。ここは一時、副将に指揮を預け、わしが一千の兵で増援にゆく。」 と言い終わらないうちに、馬にのった。 

西の門攻略軍は、一時騒然とした。 その少し前、北の門。 グリアは待っていた。火槍の応用として急ぎつくられた“ヤツ”を。 

壮一が簡単なアイディアのもと、監修した「大砲」が、もうすぐくる。狭い構内の岩盤にへばりつき、敵を防ぐ。 

しかし、いずれ破られる。

 打開策の種が発芽するまで、待たねばならぬ。 

グリアは、岩肌を手のひらでなぞり、そっと、顔を出す。 

外は、当初からの兵員と変わらず、大地を埋め尽くしている。この期に及んで援軍の期待はない。



 グリアは無機質に、黄金色の縮れ毛をかきあげる。 

「おい、どういうことだ!」 

モグラが目を剥き、矢継ぎ早に質問をした。 

「ああ。あのタイホウとやらと、壮一に渡されたキカンジュウという武器を少々参考にさせてもらったんだろう。」

 モグラが呆れて、

「だろう……って、お前、知らないのか!」と怒鳴る。

 酢を飲んだような顔で、頷く。 そう、タイホウを造らせた折り、キカンジュウを少々技術者に解体した部品などを詳細に記録はさせた。その後、どのようになるかは、技術者頼みであったのだ。 

「ったく、それよりありゃあ、すげぇな。」

 モグラは、数十人が“砲門”を押して北の門を出てくる友軍に嬉しげな目をやる。 その友軍の操る兵器は、黒馬の民の十八番でもある金属加工の特性を生かしたものであり、火槍を束にして、回転させながら連射をするというものであった。 そう、その形態はまさに、我々現代地球で知るところの「ガトリング砲」に近いものであった。 

ババババババババ、と凄まじい紅蓮の球体を吐き出す。猛烈な勢いで遠征軍の連中をなぎ払う。そして、その勢いの凄まじさに感化されたグリアの部隊の数十人が、遠征軍側にあろうことか、切り込みをかけにいった。

 これにより、数で圧倒的に勝った遠征軍が、浮き足立った。 

(行ける!) 

モグラは確信した。


 

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