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外伝29

 1

 「気をつけて、カイト!」

 脳内に少女の叫びが籠って聞こえる。

 ああ、と返事をする代わりに頷いてみせる。日中の時刻にも関わらず、森は一向に明るさを取り戻す気配を示さない。太陽光を遮る幾重にも張り巡らされた繭糸が木々の間に幾何学的な形で森全体を覆い、一個の巨大な巣と化してた。

 「……チッ、やれやれ。って、格好つけたいがそうもいかんみたいだな」

 カイトは低く言うと右手に握る剣の柄を器用に回転させる。目前の、デブの二重あごが何十にも積み上がったような巨大芋虫……確か奴の名前は《巨蟲》らしい。

 芋虫で十分だ。

 カイトは煩わしげにフードを手で払い視界を確保する。白磁色の仮面を取ろうとしたが、伸ばした手を止め躊躇した。

 (来るぞ)

 渋い男の声が、頭の方から響く。

 巨大芋虫は純白の体表に粘着質な体液を滲ませている。蛇行しながらカイトに直撃しようと動き出す。木の根っこや湿った腐葉土のお陰で足場は大分悪い。それに関わらずカイトは大きく後方に飛び退き、無意識に足場を選んだのは木の幹だった。

 ドスン、という腹の底まで轟かす衝撃音の後、芋虫はカイトの姿を探す。凶暴な細長の紅い眸は「捕食者」そのものだった。

 「……気持ちわりぃな」

 (それは同感――、次くるよ)

 ローアが助言するまでもなくエメラルド・アイが視界を明瞭に保ち攻撃を完全に読み切っている。と、同時に頭では無数の思考パターンが同時並行で思考され、最適解を導く。

 滑らかに空気を滑る刃をカイトは横目でチラと見て、一気に木の幹を蹴る。弾丸のように直線軌道を描く身体は、通常の人体では有り得ない加速を繰り返して速度を増す。

 「ここだッ――」

 考えるよりも早く手元の感覚で上体を起こしたばかりの芋虫と、空中ですれ違いざまに剣先をブヨブヨと太った眉間に突き刺す。その剣の先端に手応えを感じた。

 『ギャアアアアアオオオオオオオオオ』

 悲鳴のような声を上げながら、刺々しい輪型の口から唾液と消化液を吐き散らす。

 「あぶねっ」

 それよりも早く、カイトは刺さったままの剣の柄を踏み台に再び後ろへ退いた。

 巨大な芋虫は暫くドラムスティックのように身体を地面に打ち付けて奇妙なリズムを刻む。それすら長くは続かず、土煙を散々巻き上げた末に自ら構築した繭糸を破って身体を裏返した。十分近くも痙攣し、生命活動を終えた。

 「ハァ、ようやく死んだか」 

 (だねー。うげぇって感じ)

 少女の言葉に苦笑いしながら、ふと空の右掌を握る。

 「これでまだ、身体全体の8%の意識しか統一できてないんだろ? もし、完全に掌握できたら、それこそ神レベルじゃねーか」

 改めて己の身体能力及び全ての力の飛躍的な向上に舌を巻いた。

 (だろうな……)

 男の声は、無感情に同意する。

 「アンタは……ブレインはどう思う?」

 (何がだ?)

 「これから、オレはどうしたら良いかわかんねーんだ。こんな賞金稼ぎじみた生活もいいけど、あのクソ野郎を探したい。オレは一体……」

 (此方も完全に全てを掌握できる訳ではないし、預言者でもない。あくまでも最適解を導くのが、頭脳の役割だ。方針を決めるのは君自身ではないか?)

 まあ、そうだよな。と当然のことに悄然とした気分に陥る。

 「とにかく、仕事は終わったし一度街に戻る」


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