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《蘇》の城、その会議室に長身の切れ長な目の男が窓際に立っていた。

 「どうも、色男さん。物憂い雰囲気でどうしたの。」

 女の声だった。

 男は振り返る。 

「君か。なんだ、契約はまだあと40ヶ月先だぞ。」 

ええ、と女は頷く。赤い唇と、頭部から生えた鹿のような角が、人ならざる者を表していた。

 毒々しい褐色の髪を翻して、男に近づく。 

「ねぇ、知ってる? 異邦人が最近増えたらしいのだけど。」 

「そのことか。知っている。だからなんだ?」 

「いえね、知ってるならいいけど。ただ、不安材料があれば一つずつ潰していくべきでしょ? 違います?《国王》さま?」

 苦い面を魔族の女を向けた。 それに気づいた女は、

 「あら? ごめんなさい。だけど、これだけは言える。今回の異邦人の中に、我々に浅からぬ縁のある者がいること。でも、悪いけど、あなた方の情勢を変えることは口にできないの。それに契約内容にもないし。」

 わかっている、と《蘇》の国王は相槌をうつ。 

「だが、厄介だ。ただでさえ異邦人は面倒な連中だ。利用できれば良いが、彼らとて馬鹿ではあるまい。どうしたものか――。」 

「どうせなら、あなたの寿命削って、契約内容を大幅にかえましょうか?」 

クスクスと笑う魔族の女は、会議用の大理石でできた机に腰をおろす。 

「馬鹿言うな。これまでのような小規模の戦闘ではない。もしかすると、いままで危うい均衡を保ってきた平和を崩すのは私たちなのかもしれない。そんな時に、何故貴様に寿命までやらねばならん!」 

――そう、とつまらなそうに返事をした魔族の女が瞬間には黒い煙になり、その場の空気と混ざったかと思うと、消えた。 

しばらく、考えにふける国王のみが部屋にいた。







「うん、うん、わかった。伝える。それだけ?」

 真希は早朝から黒馬の砦の集会所に張られた本陣で、トランシーバーとともに過ごしていた。 

グリアの隣で絶えず父からの連絡を中継した彼女は、いつしか、グリア達のなくてはならぬ人となった。 

「――――ということです。」 

真希の連絡を逐一受けたグリアは、うん、と言うと両腕を組み、簡易椅子で座りながら考えるフリをして寝はじめる。

 「しかし、驚きました。魔族か、その契約者みたいに遠隔通信ができるなんて、本当に魔法じゃないんですか?」 

パプキンは綺麗な丸頭を掻き毟る。興奮しているようだった。

 「まさか。でも、科学も魔法みたいなもんか。」

 「カガク?なんですかそれ。」 

真希は困ったように、ごわついた髪を整える。近頃風呂に入っていないから汚くなった。

 そのイライラが、自然、年下と昨日知ったばかりのパプキンの頭に向かい、容赦なくハゲ頭を撫でる。

 「ぅわ! 何するんですか!」 

怒っているのか、照れているのか分からない。とにかく、真希の腕を払い除けてどこかへ去った。 

(きっと、小さい頃から色々なところを冒険してるから、風呂くらいなら大丈夫なんだろうけど。)

 彼女は、心の中で毒づく。 ハァ、と小さなため息をついた。







  「ではこのモグラ、本日限りで地主の倅をやめ、真の騎士となるため故郷を去るぞ。またな、弟よ!」

 モグラは快活に大手を挙げ、馬に跨るとエイフラムと壮一と共に村の出た。見送りにきたモグラの弟は「兄さん、自分はあなたとは金輪際関係ない人間となります。もし、なにか害があれば嫌ですので。」と呆れ顔で言う。

 よい、それでよい。と勇ましい顔のモグラは、重々しく分厚い甲冑の胸部を叩く。 

言葉では冷たいが、弟も心配な顔だった。幸い、モグラに妻子はなく、心置きなく風来坊ができる。

 モグラのあとをおうように、農奴五十、ついてくる。 

皆貧相な武器と防具であったが、農業と狩りで鍛えられた体つきは兵士として申し分ない。 

「しかし、こんな兄を伴い、次にどちらにゆかれるのですか?」

 モグラの弟が問う。 

「……なんでも、盗賊団にツテがあるとのことで、モグラ殿に従うばかりです。」 エイフラムは眠たげな半開きの目でモグラの後ろ姿を眺める。

 「そうですか、我々には厄介な相手ですが、戦争なら彼らもわかりませんね。どうぞご武運を!」

 壮一とエイフラム、そしてモグラは、旅立とうとする彼らを送るモグラの弟と握手をすると、隊列をつくり村を出た。 畑の群れの間の水たまりに蝶が数匹飛んでる。出発は、昼過ぎの良い時間であった。

 

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