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春空カノン  作者: 兎乃井メライ
8/16

【第七楽章】 戸惑い

 翌日も美香は学校に来なかった。

 昨日別れ際に「明日は行くよ〜」なんて言ってたのに、いい加減なもんだ。

 しかも連絡もない。てっきり来ているものだと思って、お弁当ぶら下げて迎えにいったのにクラスの子に「今日は欠席だって」と言われた。


――一言メールくらいしてくれればいいのに……。


 学校に連絡する余裕があったなら、出来たんじゃないの?

 少しむかむかしながら、あたしは自分の教室に戻った。今日は昼練があるけれど、二十分余裕があるから一緒にお昼を食べようと思ったのだ。

「あれ? 咲ちゃんどしたの」

 席に戻ると、田崎くんがいた。いつもはチャイムと同時に大あくびして、パンをくわえてのそのそと昼練に行くのに珍しい。

「美香、今日も休みなんだって」

「あいつ、またサボリ〜? いいご身分だねえ」

 はははと田崎くんが笑う。――田崎くんは今日二限の途中に来た。

「一人で食べるの?」

 あたしが広げ始めたお弁当を田崎くんが覗き込む。

「うん。今日は昼練あるから、さっさと食べちゃわないと」

 クラスの女の子たちはほとんどがお弁当組で、みんな机を集めていくつかのグループになっている。声をかければ入れてくれるかもしれないけど、面倒くさいからいいんだ。

 お弁当箱を開けていただきます、とあたしは箸をとった。

 今日は昨夜の残りってわけにいかないから、おかずは冷凍食品のオンパレード。正直なところ、ラッキーだ。

「それ、お母さんが作ってくれるの?」

 パックのコーヒー牛乳のストローをくわえながら、田崎くんがもの欲しそうな目でこっちを見ている。机の上にパンの空袋が三つあるけど、足りなかったんだろうか。

「冷凍食品だけどね。ねえ、部活行かなくていいの?」

「うんー……行くけど」

 あいまいに答えてがしがしと後頭部を掻くと、田崎くんは机の上に長い足を上げて椅子を後ろに傾けた。


――もしかして、気を遣ってくれてるのかな……。


 一人で食べるのがちょっと寂しいって思ったの、気付かれたのかもしれない。田崎くんて口には出さないけど、結構観察眼が鋭い。こうやってさりげなく気を遣ってくれたりするんだよね。


『コアラちゃん、あんたのこと好きなんだよ』 


 美香の言葉を思い出す。

 だからあたしに優しいって? そうかなあ……。

 田崎くんが優しいのはみんなにだし、それとあたしに対する態度は特別差がない気がするんだけど。

「じつはさあ……」

 後ろの机に寄りかかってバランスをとりながら、田崎くんが言った。

「なんか腹の調子悪いんだよね〜。食欲はあるんだけど。だから昼練行きたくないな〜なんて」

 白い歯を覗かせて、はははと笑う。

「怒られるよなあ……うおっ!?」

 田崎くんが重心を預けすぎたせいで、後ろの机ががたっと揺れた。あやうく後ろにひっくり返りそうになって、田崎くんは慌てて体を跳ね起こした。


……やっぱり、美香の気のせいだ。


 ちょっとだけ想像してどきどきしちゃったあたしの一瞬を返せ。

 黒板の上に掛けられた時計の針がカチリと動いた。こんなことしてる間にもう七分も過ぎてしまった。

 田崎くんに見えないようにそっと顔を背けてため息をついて、あたしはお弁当を食べる手を早めた。






「アルト、ちょっと強すぎ。もう少しおさえて、ちゃんと他の音聞いて」

 器用に注文を挟みながら、結理先輩が指揮棒を振る。

 総勢三十名の作り出す三つのハーモニーが、音楽室を満たしていく。

 開け放たれた窓へと誘い込まれた夕暮れの風が、茜色に染まる白のカーテンをふわりと揺らした。

 軽やかに動く指揮棒に導かれるままに、あたしは鍵盤でメロディを奏でていく。


――ああ、やっぱり気持ちいいな。


 少しずつ変化を繰り返して、皆の歌声が溶け合っていく。気持ちが一つの場所に向かって、真っ直ぐに伸びていくのがわかる。

 全員の気持ちが一つになって曲が完成していく瞬間が、たまらなく好きだ。伴奏というポジションにいるとその変化がよくわかる。

 そして、やっぱりピアノが好きだと実感する。複雑な思いを感じることはあっても、自分の一部みたいなものだと。

「よーし、揃ってきたね。本番まであと三週間あるけど、気を抜かないでいこう! じゃあ今日はこれにてかいさーん」

 結理先輩の掛け声に、皆おのおの同意の返事をして帰り支度を始める。

 あたしはグランドピアノの前に座ったまま、譜面台の楽譜をめくって一番最初のページに戻した。

「咲ちゃん、まだやってく?」

 新体操のリボンみたいに指揮棒をくるくる回しながら、結理先輩が近くにやって来た。

 結理先輩は本当はソプラノパートだけど、顧問の柳田先生がいない時は代理で指揮をとっている。でも最近は、指揮棒を振るのにハマっているらしい。

「はい、もう少し練習していきます」

 あたしは頷いた。家だと練習出来ないから。

 それにグランドピアノって、見た目も音も家にあるアップライトピアノよりもゴージャス。鍵盤に重量感があるけれど、音の繋がりがなめらかで弾き心地がいいんだ。滅多に触れないものだから、思う存分弾きたいというのもある。

「そっか。じゃあ戸締りお願いしていーい? あたしこれから予備校なんだ」

 部員のみんながぞろぞろと教室から出て行くのを一瞥して、結理先輩はピアノの譜面台の横に音楽室の鍵を置いた。

「はい、わかりました」

 いつもたいてい戸締りは部長の結理先輩か、居残り練習をするあたしの役目になる。他の皆は練習が終わると、案外あっさり帰ってしまうのだ。コンクールが迫ってくると燃え始めるんだけど。

「熱心だね。もう完璧に弾けてるじゃない?」

「うーん……でも心配だから。伴奏のミスって結構皆の気持ちに影響すると思うし」

「偉い! 頼りにしてるよ、縁の下の力持ちさん。咲ちゃんがいればうちの部も安泰だね」

 あたしの肩を軽くぽんぽんと叩くと、結理先輩は指揮棒をブレザーのポケットに差した。

「でもあんまり遅くならないうちに帰るんだよ」

「はーい、また明日」

 カバンを肩にひっかけ、じゃあねと手を振ると、結理先輩は小走りに教室の扉に向かって走り出した。けれどその途中で「あ」と声を上げて立ち止まった。

「窓も忘れずにお願いね。ほら、桜の花が風に乗って入ってきちゃうから。去年教室が花びらまみれになって怒られたの」

 もう一度じゃあねと言って、長い黒髪が翻った。

 緩やかな波を描くカーテンの向うから、梢の揺れる音がした。

 誰もいなくなった教室が、茜色と夜を導く紫色のグラデーションに沈んでいく。

 夕闇のにおい乗せた空気を吸い込んで、あたしは両手を白い鍵盤に乗せた。




 音楽室の戸締りをして校舎を出た時には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 運動部の練習も終わり、グラウンドでは後片付けが始まっている。校庭の脇に立っている大時計は、もうすぐ七時を差そうとしていた。


――うっかり練習しすぎちゃったな。


 課題曲の伴奏はもう完成しているから、そんなに必死に練習することはないと思う。でもグランドピアノを前にすると、どうしても離れるのがもったいないと思ってしまう。なんだか、ピアノに恋をしているみたいに。

 他の部活動の生徒たちに紛れて校門に向かいながら、あたしは肩にかけた鞄から携帯を取り出した。

 二つ折りの電話を開いてメールの確認をする。だけど煌々と光を放つディスプレイには、メールがきたことを示すアイコンはなかった。


――もう、何してんのよ美香ってば。


 昼休みに一回と、部活前に一回美香にメールを送った。でもまだ返事はきていなかった。

 いつもなら、遅くても一時間以内には返って来るのに。メル友とか他校の友達が多い美香はいつもまめに携帯を見ているから、気付いていないはずはないのにな。


――人が本気で心配してやってんのに。


 どこまでのんきなんだろう。

 きっと明日謝ればいいや、とか思ってるんだ。美香が休むたびにこっちは留年しないかひやひやしてるっていうのに。友達甲斐のないやつ。

 明日会ったら説教してやるんだから。

 そう決めて、あたしは携帯をブレザーのポケットに押し込んだ。

「おーい、咲宮〜〜」

 校門を出ようとした時、後ろから間延びした声に呼ばれてあたしは振り返った。 暗闇の中から田崎くんが駆け寄ってくるのが見えた。

「おつかれー。今帰り?」

 重そうなスポーツバッグを肩に担ぎなおし、田崎くんがよう、と手を上げた。

「おつかれ。サッカー部も今終わりだったんだ」

「うん。出てきたのが見えたから追いかけてきた」

 近付いた途端、もあっとした空気を感じた。

 練習でほてった体からまだ熱気が抜けていないんだろう。ズボンの上にだらりと出したシャツの襟元をぱたぱたと動かして、田崎くんが「あちー」と星の見え始めた空を仰ぐ。急いで着替えたのかネクタイは首に引っ掛けただけで、ブレザーのボタンも開いたままだ。

「駅まで一緒に帰ろうぜ」

 そんなだらしない格好をしても軽薄そうに見えないのは、息を弾ませた笑顔が爽やかすぎるせいだろう。美香の元彼の中にも「いっそ着なければいいのに」と思うくらい制服を着崩すタイプがいたけど、浅黒い肌と金に近い茶髪の遊び人風だった。エナメル質な白い歯をのぞかせて愛想をふりまかれても、嘲笑われているような気がして好感が持てなかった。服装って着る人によってどんな印象にも変わる。

「うん、いいよ」

 そう頷いた時、後ろからはやし立てるような声が聞こえた。田崎くんと同じバッグを下げた集団がこっちに向かって「田崎〜、それカノジョ?」とか「ぬけがけすんなよ、お前」とか騒いでいる。

「うっさいよ」と一言だけ投げて、田崎くんはあたしに行こうと促した。

「いいの? ヘンな噂たてられちゃうんじゃない? 運動部ってそういうの厳しいんでしょ?」

 のんびり歩き出した田崎くんに歩調を合わせながら、あたしは背後からがやがや来る部員達をちらりと見遣った。

「いいの、いいの。 言わせとけば。いちいち相手にしてたら余計からかわれるし。人の噂も十五日」

「……短すぎだから。七十五日じゃなかったっけ?」

 あはーそうだっけ、と歩き方と同じゆったりとした口調で田崎くんが小首を傾げる。ついでというように大きなあくびをする様子は、ユーカリをおなかいっぱい食べてくつろぐコアラみたいだ、確かに。

「あ、でも」

 追いつかれると気まずいな。そう思って自分の速度をはやめてのほほんペースを脱出しようと考えていると、田崎くんがあたしを見た。

「咲宮が嫌っていうなら、ちゃんと言い訳はしとく。俺は全然いいんだけど」


――“いい”って?


 あたしはちょっと戸惑った。田崎くんの声と顔付きが、急に真剣な様子に切り替わったから。

さっきまでのゆったり流れる雲のような雰囲気とはまるで違って、やけに男っぽく感じた。

「……あたしは、べつに」

 速めようと踏み出した足からふっと力が抜ける。急いていた気持ちが急にしぼんだ。

「田崎くんが平気なら、いいよ。たいしたことじゃないしね」

 外灯の明りが落ちるアスファルトの上、急ぐのを躊躇う足元を見ながらあたしは言っ

た。


『俺は全然いいんだけど』


 答えを迷った。

 何気ない田崎くんの一言が、あたしに緊張を与えた。たいしたことじゃない。難しくとる必要なんてないのに。

 でも、いつものあたしたちの間にある空気が、皺を伸ばしたシーツみたいにピンと張った肌触りに変わったような気がしたのだ。

「そか。ならいーか」

 少し離れたところにいる部活仲間を一瞥して、田崎くんはあたしににっと笑いかけた。いつもの彼だった。気にかかる様子はなかったのであたしはほっとする。


――告白されたわけじゃないんだから。


 どきどきするなんて変だ。田崎くんのこと恋愛対象に見たことなんてないのに。

 さっきの言葉は“からかわれるくらい何でもない”っていう意味だ、きっと。なに勘違いしそうになっているんだろう。

「じゃあ」駅前に来たところで、田崎くんがふいにあたしに手を差し出してきた。

「手ぇつないでこうか」

「はっ? なんで?」

「仲良しぶりを見せ付けてやんの。どうせならこっちがいじってやろうよ」

「えーっ、やだよ! なんでこっちから煽るわけ〜!?」

「いいじゃん、あいつらバカだからすぐ食いつくよ。あれ―? なに咲ちゃんテレてんの? かーわいい〜」

「わー触るなっ!」


――ああ、やっぱり気のせいだ。


 否定したら何かが壊れるかもしれない、なんて考え損だ。

 改札へ向かう階段を昇りながら伸びてくる田崎くんの手をはたいていると、同じ制服姿の男子学生があたしの横をすり抜けた。そしてニ三段先に上がったところでふとこちらを振り返った。


「あ」


 目が合ったと同時にお互い声があがる。鼓動がゴム鉄砲で弾かれたように跳ねた。

「聡太」

 真新しいブレザーとネクタイが馴染み始めた聡太が、きょとんとした表情で立っている。田崎くんの袖を押えていた手をあたしはとっさに離した。

「あ、咲ちゃんの弟くんじゃん。こんちわーッス」

 なんとなく気まずい遭遇に言葉を探していると、田崎くんが先に口を開いた。

 田崎くんに軽く頭を下げ、聡太はあたしを見た。説明を求めるような目で。

「クラスメートの田崎くんだよ。サッカー部の。こないだ話したでしょ」

「……ああ。どうも、はじめまして」

 テンションは低いけど、今度はさっきより丁寧に聡太はお辞儀をした。人前でくらい愛想よくしろと言ってるのに、こいつはそういう気の使い方が出来ないやつなんだ。

「あんたなんでこんな時間にまだいるの?」

 不思議に思ってあたしは訊いた。聡太は部活に入ってないから、いつもあたしよりも先に家に帰っているはずだ。

「友達に会ってた。前に塾で一緒だったやつ。駅前のマックでちょっとしゃべってた」

「ママには連絡したの?」

「したよちゃんと。言われなくても」

 聡太の口がへの字になりかける。すぐに戻したのは、外ではポーカーフェースを気取りたいからだろう。

「そっか、ほんとに姉弟なんだな二人って」

 あたしたちのやり取りを見ていた田崎くんが小さく吹きだした。

 よく意味がわからなくて聞き返そうとした時、階段の上り口付近がざわめいた。コンビニの袋を下げた集団が昇ってくる。あたしたちの後ろにいたサッカー部員たちだ。

「――行こう、透子」

 避けたい衝動が沸き起こったあたしに、聡太がぶっきらぼうに言った。え、と目を瞠って見上げれば、すたすたと階段を昇り始めている。

「じゃあ俺、あいつらと行くよ。咲ちゃんとは電車逆方向だしね。んじゃ、また明日」

 田崎くんがぽん、とあたしの肩を押した。

申し訳ない気分になって「ごめんね」と続けようとしたけど、からかい交じりの呼びかけに応じて田崎くんは下に降りていってしまった。

 遠ざかっていく聡太の背中めがけて、あたしは上へと駆け上がった。

「ちょっと、なによあの態度! 田崎くんに失礼でしょ」

 階段を昇りきったところで追いついて、あたしは聡太の横に並んだ。

「そう? 挨拶はしたじゃん」

 しれっとした涼しい顔で聡太が答える。

 帰宅時間ということもあって、駅の構内は混み合っていた。駅に直結しているショッピングセンターから出て来る客も多い。改札に向かって足早に人ごみを抜けていく聡太をあたしは小走りで追いかけた。

「田崎くんが気を悪くしたら謝りなさいよね。あんたにとっては先輩だよ? 一年のくせにナマイキだって思われるよ。気をつけなさいよ」

 定期入れを取り出し、改札機にかざして通り抜ける。

 ズボンのポケットに両手を突っ込んで、自分勝手にペースを上げていく聡太の腕をあたしは小突いた。

「ねえ、何いらついてんのよ」

 気がたっている時はすぐにわかる。態度や表情から不機嫌がすぐにじみ出るからだ。

一見聡太は感情の起伏がなさそうに見えるけど、本当は理科で使うリトマス紙みたいに反応しやすい。不満があると、口には滅多に出さないけど顔色に出る。

「べつに」聡太が低くぼそっと呟いた。

「そっちだって、何ムキになってんだよ。――あれ、透子の彼氏?」

「はあ?」

 ホームへ降りるエスカレーターに聡太が乗る。そのすぐ後ろにあたしは続いた。

「さっき言ったでしょ、クラスメートだって。一年の時から仲はいいけど、そういうんじゃないよ」

「――へえ」聡太があたしを振り返った。


――何よ。


 疑うような目付きで眺め、再び前を向く。

 もしかして、さっき田崎くんとふざけていたのを見たから誤解しているのだろうか。でもどうして、責めるような目で見られなくちゃならないの? 聡太には関係のないことだ。

 日に日に大きくなっていくように思える聡太の後ろ姿を、あたしは睨みつけた。

 聡太は時々変だ。

 昨日の夜だって意味不明なことを言ってたし、今日だって急にむすっとして――


――なんなのよ、あたしが何か悪いことをしたみたいじゃない。

 

 前をふさぐ背中は何も言わない。けれどなんだか詰られているような気がした。

 ホームに降りると、ちょうど電車がきますというアナウンスがかかった。

扉が開く位置を示す白線のところに立って、列車を待つ。苛立ちが押し寄せた。

「……難しいよ」

 電車待ちの人々のざわめきの中で、あたしは呟いた。

「何?」

 怪訝そうに聡太が訊いてくる。マフラーに口元を押し付けて、あたしは俯いた。

「何考えてるのかわかんないよ、聡太は」

 発着時刻を映す電光掲示板のランプが、点滅と警告音を繰り返す。電車のライトが、重たい夜闇のトンネルをくぐり抜けてやってきた。


「――難しくなんかないよ」


 やけにはっきりと言い放った声に、あたしは顔を上げた。すぐ横に聡太の整った横顔があった。

「簡単だよ、オレの考えてることなんか。透子が難しくしてるだけだ」


 ――メトロノームの単調なリズムが、耳奥で鳴り響いた。


 電車がホームに滑り込んでくる。

 ブレーキ音が高く長く、目の前を行き過ぎた。


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