帰る場所は誰にでもある
まっまた泣いちゃった。迷惑だよね、お兄さんも小太りさんも困ってるし早くここから居なくなろう。
「……そういうことか。あの地域は他の奴に任せていたから気付かなかった。」
お兄さんが事情を説明して、誤解を解くことができた。しかし、少年の態度には明らかに変化が起きていた。
「……ごめんなさい。」
少年は、そう一言話したのを皮切りにその後全く話さなくなってしまった。返事を求めても、首を横に振る、縦に振る、もしくは黙りこくるの3択しかしない。先ほどまでの和やかムードが一転して、まるで通夜のように静かな空間となってしまった。
「おいっ、どうにかしろ。私は子どもは苦手なんだ。」
小太り警察官はお兄さんにそういうと、少年に謝罪もせずに奥へと引っ込んでしまった。
「ったく、原因はあんただろうが。せっかく楽しく遊んでたのに……なぁ。」
小太り警察官には聞こえないように、お兄さんは少年に同意を求めた。しかし、少年は無反応だった。それから少しの沈黙があり、少年が落ち着いた頃を見計らってお兄さんは少年に声をかける。
「それじゃあ、行くか。……あの、僕はこの子連れて今日はもう上がりますから。」
お兄さんは少年の手を取り、奥に引っ込んだ小太り警察官に聞こえるように大きめの声で伝えた。すると奥の方から、わかったから早く行け、厄介事はごめんだという声が聞こえた。そんな態度を取る先輩に対し、憤りながらも交番から退出した。
少年は考えていた。どこに連れて行かれるのだろうと。さっきの公園かな、それとも何事もなかったようにどこかに置き去りにされちゃうのかななど、不安な気持ちの反面どこかほっとした気持ちでいた。
「さてと……ほらっ、背中に乗りな。その足じゃ痛くて歩けないだろう。」
お兄さんはそう言って、腰をおろし少年に背中を見せそこに乗るよう言った。少年は最初、お兄さんが何を言っているのか分からなかった。
「……大丈夫です、歩けます。」
少年は強がりを言って、これを拒んだ。誰から見ても痛々しい足をしているのに少年は大丈夫といって痛みでゆがんだ笑顔をみせた。大人に甘えるという事を知らない少年は、早く連れてってと言わんばかりにそそくさと歩き出そうとした。
「っ、大丈夫だから。お兄さんに任せな。」
少年のそんな姿を見て、一瞬涙がこみ上げてきたが子どもの前で泣いてはいけないと思いくぐもった声で再度、少年に背中に乗るよう言った。
「……でも、お兄さんの服汚れちゃうよ?」
それでもなお、乗ろうとはしない。そのくせ自分の心配よりもお兄さんの服を心配する少年にお兄さんは、少年の後ろに回り込み少年の股下から顔を出して少年を持ちあげた。いわゆる肩車だ。
「?っ、わぁ、お兄さん何するの!?」
少年は、急に肩車をされてバランスを失いお兄さんの肩の上で暴れてしまった。それでもお兄さんは少年をしっかりと支えて、歩き出した。
「どうだ、高いだろう。」
したり顔でそういうお兄さんに対し、少年は今まで見たこともない景色に見とれていた。そんな二人の姿を見かけた人たちはこう思っていた。
━━仲の良い親子だ。
あぅ、お兄さんの服汚しちゃった。後で謝らなくちゃ。だけど、なんで置き去りにする子どもにこんな事するんだろ。
……そういえば、これはなんていうんだろう?大人を下にして僕が上になってるから……
!分かった。これが、「げぼくじょう」っていうものなんだ。