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人との触れ合いは安心をもたらす

「綺麗な絵が描かれた小さな札で遊んでもらっちゃった。こいこいって難しいけど面白かったな。」

「……知亜君は、強いね。運もあるし、状況判断の能力もある。全く、良いタイミングで降りるからお兄さんの点数は0点だよ。それに、まさか3回連続で四光を揃えるなんて……お兄さんの20点札は雨が1番多かったよ。もう、心も雨のせいで冷え切ってるよ。」

大人としての威厳を根こそぎ持っていかれたお兄さんは、遠い目つきをしていた。そんなお兄さんには目もくれず、少年は1人で花札の絵柄を見て楽しそうにしていた。

「お兄さん、この黒い豆が何個もくっついてる絵札の黒い豆はなんなの?」

少年はここにきて初めて、自分から質問をしてきた。少しは打ち解ける事が出来たとお兄さんは思っていた。

「この黒い豆みたいなのは、藤≪フジ≫っていうんだよ。マメ科の属の内の1つで、総称して藤っていうんだよ。だから、豆みたいじゃなくて豆なんだよ。」

お兄さんは、数少ない自分が持ちうる知識を少年に与えて、軽い優越感に浸っていた。

「じゃあじゃあ、このぶたさんの後ろにある赤い実は……」

少年は、今まで見たこともない不思議な絵柄に興味津津で次々とお兄さんに質問をしていた。お兄さんは、少年の質問に丁寧に答え、この和やかムードを保とうと奮起していた。

「この子は、凄いな。こいこいの役をすぐに覚えるし、ルールも理解できている。こんなに賢い子なのに……」

お兄さんは、そんな事を考えながら少年の相手をしていた。ひとしきり質問を終えた少年が、もう1回やろうとねだってきた。しかし、お兄さんはまた負けてしまったら立ち直れないと思ったのか、違う遊びをしようと代替案を提示したが、少年は「こいこいがいい」と言って一歩も譲らない。そんなやりとりが何回も続いていたが、1人の訪問者によってそのやりとりは中断させられてしまった。

「ただいま戻りましたよっと。」

訪問者はそう言って帽子を取り、その帽子で自分を扇ぎながら入ってきた。その訪問者は、お兄さんと同じで警察官であることが容易にわかった。なぜなら、着替える前のお兄さんと同じ格好をしているからだ。

「…………っ、ついに犯罪を犯したか!誘拐なんて最低の人間がやることだぞ。ましてや警察官であるお前がそんな事をするとは……」

その訪問者は何を勘違いしたのか、お兄さんと少年を見るなりそう言ってきた。その訪問者の体型は、小太りで銀縁眼鏡をかけていた。そんな少し出っ張ったお腹を揺らしながら、物凄い剣幕でこちらに近づいてくる太い警察官に対し、少年は先ほどのお兄さんみたいに怒鳴られたと勘違いして泣きだしてしまった。……なぜこうも勘違いするのだろう、交番に居るのだから保護したと認識出来るだろうに。

「なっなんでみんなで僕を怒るの。ちゃんとやったのに、何がいけないのっ。」

そんな事を言いながら、少年は再び泣きだしてしまった。

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