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名前の存在は識別が目的

だんだんいい香りがしてきた。早く食べたいな。

「……お待たせしました。肉です。」

そう言って、店員のお姉さんは木のお皿を持ってきた。そのお皿の上には、黒い鉄板が乗っており、さらにその上には、ポテトとアスパラとにんじんが添えられ、中央に食欲をそそる香ばしい匂いをさせている肉がいい音を出していた。

「……やばい、すごい美味しそうなんだけど。」

「大きいお肉ですね。鉄板からはみ出そうですよ。」

「……くっちゃべってないで、さっさと食べろ。肉が硬くなる。」

2人が、とても美味しそうな肉をじっと見ている事に、店員はしびれを切らし、さっさと食べるよう言った。

「それじゃあ、いただきます。」

「いただきます。」

明美は、店員の言葉にいらっとしたが、早く肉が食べたかったので聞き流した。知亜も、明美に続いて食べようとする。

「……ちょっと待て。お前じゃ切りづらいだろう。ナイフとフォーク貸せ。」

店員は、知亜からナイフとフォークを奪うと肉を食べやすい大きさに切り分けた。

「あ、ありがとうございます。」

「……ふん。ごゆっくりお召し上がりください。」

知亜のお礼を聞いて、店員は裏方の方へ引っ込んでいった。

「ほらほら、知亜君。見てみて、肉汁がじゅわって。ほら、じゅわって。」

明美は、肉を切る度に出てくる肉汁に夢中になっていた。

「明美さん!このお肉すごい柔らかいですよ。」

「私も早く食べよっ。――っなにこれ、うまいっ!」

一足先に食べていた知亜は、肉の柔らかさとおいしさに驚き、明美は口に入れて一回噛んだだけで感想を言った。

「これは……ハマっちゃいそう。」

「…………」

明美は、その言葉を最後に食べ終わるまで何も話さなくなった。知亜も、口元の汚れを気にせずに肉を食べ進めていた。







「――ふぅ、美味しすぎた。ご馳走さまです。」

明美は、近くに置かれていたナプキンで口元を拭きながらそう言った。どうやら、このランチに満足したようだ。

「ごちそうさまでした。お腹いっぱいです。」

「ほら、知亜君。口、拭いてあげる。」

知亜も、明美に遅れながら食べ終えた。満足そうな知亜の口元には、ステーキのソースが着いていた。明美はそれを、自分が使ったナプキンで拭いていた。

「……満足したか?」

気付かぬうちに、店員が2人の近くにいた。若干、顔をにやつかせて感想を聞いてきた。

「はい。とってもおいしかったです。」

素直に答えた知亜を見て、店員も満足そうにしていた。

「ここは隠れ名店、というわけね。恐れ入ったわ。」

明美は、顔を強張らせてそう言った。

「……それじゃ、お会計する。」

「そうね、まだ寄らなきゃいけない所もあるし。ほら、知亜君。行くわよ。」

「あ、はい。だけど、どこに寄るんですか?」

「ふっふっふ、知亜君の為の用事を済ませる所さ。」

……よくわからない事を言う明美に、知亜は首をかしげていた。

「……肉二つで、1300円。」

「あの味で、この値段。――安い、安すぎる。もっとお金取った方がいいわよ。

「……じゃあ、5000円。」

「……なーんちゃって。これからも、この値段で提供してください。」

明美は、そそくさと1000円札と500円玉を財布から取り出した。

「……お釣り、200円。」

「はい、ありがとう。それじゃ、また来ますからね。――絶対来ますから、お値段変えないでねっ!」

「お姉さん、ばいばい。」

「……ばいばい。」

明美は、あの美味しさのとりこになってしまったようで、しつこくまた来る事を店員に言った。そんな明美を無視するように、知亜と店員は、ばいばいと手を振り合っていた。







「知亜君のおかげで良いお店を知れたわ。あそこは、誰にも教えないで私たちだけの秘密にしましょう。」

「そうですね。教えちゃうのはもったいないですね。」

2人はそんな会話をしながら次の目的地へと歩き出した。

ハンバーグ食べたかったけど、あのお肉おいしかったからいいや。

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