一歩の重さ、100歩のスピード
お腹空いちゃった。
「さて、そろそろお昼ごはんを食べようか。」
「はい。早く帰って明美さんのご飯、食べたいです。」
二人はバスに乗り、駅に着くとお昼ご飯の相談をしていた。知亜は、明美の料理が食べたいと笑顔で言った。
「――っ、なんて嬉しい事を言ってくれるんだい知亜君。それじゃあ、帰って作ってあげる、って言いたいけど家に着くまでもう少し時間掛かっちゃうんだ。だから、この辺りで済ませちゃおう?」
「僕は別に、がまん―――我慢出来ないので早く食べたいです。」
知亜は、言いかけた言葉を飲み込んで我慢できないと言った。二人との約束を守るために、また自分のためにわがままを言った。
「よし。この辺は駅前だから、おいしい料理作ってくれる人は沢山いるよー。」
「えっと、僕、ハンバーグが食べたい……です。」
知亜は、遠慮がちに食べたい物を明美に言った。
「よしきた。それじゃあ、どこか雰囲気の良いお店を……」
明美は、知亜の要望に答えて洋風なお店を探した。しかし、駅前ということもありファミリーレストランや、ファーストフード店などが多く、明美の求める店が見つからなかった。
「んー、知亜君。ちょっと歩いて、おいしそうな店探そっか。」
「はい、分かりました。」
二人は、手を繋いで駅から遠ざかる。適当に進む明美は、楽しそうな顔をしている。知亜は、そんな明美を見て、迷子にならないか心配していた。
「うーん。なかなか見つからないね。」
「そうですね……あっ、あのお店はどうですか?」
知亜が指差す方向には、家の外壁にツタが絡みつき、屋根まで緑一色にしてしまうほどツタが絡みついていた。
「……知亜君、ああいうお店は不味いか高いかのどちらかなのだよ。」
「そういうものなんですか。」
「うん。だから、違うお店を探そう。」
明美はそういうと、歩き出す。しかし、知亜は先ほどの店が印象に強く残り気になってしまう。
「明美さん、お店の前にメニューがありますよ。」
「……見るだけだよ。」
明美は、どこか嫌そうにメニューを見る。そこには『今日のランチ:肉。650円』と、書かれていた。
「……このお店は商売する気あるのかな。」
「でも、おもしろそうですよ?」
「もしかして知亜君、ここに入りたい、とか思ってないよね?」
「……だめ、ですか?」
明美は、知亜に上目遣いでお願いされた。
「……しょうがない。このお店でお昼を食べましょう。」
「ありがとうございます、明美さん。」
まぁ、これも良い経験になるかと思い、明美はこのお店で昼食をとる事にした。
「案外中は、綺麗なのね。しかも、想像してた洋食屋ってこんな感じなのよねー。」
「ふわぁ、すごいですね。全部のテーブルの上に白い布がありますよ。」
名もなき店は、外観は汚いのだが店内はとても綺麗だった。明かりは黄色く、店内に響く心休まるクラシック。テーブル、椅子は全て木製。一番目に付くのは、店内の奥に位置する薪ストーブだ。
「…いらっしゃいませ。」
愛想の悪い店員が、おしぼりを持ってきた。明美と知亜は、二人並んでカウンターテーブルに座っている。
「すいません。あの、メニュー表は――」
「……この時間帯は、ランチメニューしかありません。」
「…………」
信じられないという顔をしている明美に対し、店員は黙ってどこかへ行ってしまった。
「……知亜君、やっぱりここハズレだよ。今からでも、違うお店に行こうよ。ちょっとぐらいなら値段も高くていいからぁ。」
「で、でも明美さん。もう料理してる音が――」
「うそっ!?――――ほんとだ。なんか、じゅーじゅー、って音が聞こえる。でもまだ何も頼んでないのにどうし――――」
「……だって、メニューは一つしかありませんから。聞く必要はありません。」
明美が驚いている最中に、店員が水の入ったコップを2つ持ってやってきた。
「―――そういうことかっ!なるほど、このお店に入った瞬間から料理作りは始まっていたのね。」
「あの、お姉さん。トイレってどこにありますか?」
納得する明美を他所に、知亜はトイレの場所を聞いていた。
……おいしい料理なのかな、肉って。




