手に届く夢は、誰かの夢を踏み台に
お茶を飲んで和んでるけど、何かして遊びたいな。
「……暇ですな。」
「たまには落ち着いて過ごしたいしな。」
明美は、ちゃぶ台に両肘をつけて右手を頬に当てながら、外を見て黄昏ながら暇を持て余していた。そんな明美に対して静は、両手で湯のみを持ってお茶をすすっていた。
「知亜君も暇だよねー。」
「え。僕はこういう落ち着いた気持ちになれる時間好きです。」
「暇だよねー。」
「あの、僕は━━」
「暇、だよねー。」
「……何かしたいですね。」
明美は、しつこく知亜に同意を求めた。知亜もあきらめて、3回目で折れていた。しかし、暇だと言ってもする事も無ければ遊び道具も無い。
「というか用事が済んだなら帰ればいいじゃないか。」
静は、暇だ暇だとうるさい明美に対して帰れと言った。確かに、ここに来た目的はもう果たしているのでここに留まる理由は無い。
「えー、だけど次に来るのいつかわからないですし、少しでも静さんといたいんだもん。」
「なに子どもみたいな事言ってんだ、気持ち悪い。子どもは、この施設にいる子たちだけで十分だよ。」
子どもみたいな事を言う明美に、静は鬱陶≪うっとう≫しそうにそう言った。
「そういえば、みんな元気ですか?」
「ああ、元気だよ。あたしが面倒見てんだから当たり前だろうが。あんたとは年季が違うんだよ。」
「なにばば臭いこと言ってるんですか?」
「……仏の顔も三度まで、って、知ってるかい?」
「よし、知亜君。帰りはどこかに寄っていこうか。」
「え?えっ?」
そろそろ本気で怒られると思った明美は、すぐさま立ち上がり帰ろうとした。知亜は、急に帰る事になってあたふたしていた。
「おう、さっさと帰りな。こっちはまだ仕事が残ってるんだ、これ以上子どもの相手してる暇はないんだよ。」
静は毒を吐きながら、明美と知亜を追いやる。
「全く、結局最後はこんな風になっちゃうんだから。」
「誰のせいだ、誰の。」
玄関に着いても、まだ言い合う明美と静だが明美の方は少し寂しそうにしていた。
「それじゃ、静さん。失礼しました。……体には気をつけてくださいね。」
「本当に失礼だったな。……あんたも無理すんじゃないよ。」
互いに心配の言葉をかけて、あいさつしていた。
「あの、静さん。お邪魔しました。」
「おう。知亜も元気でやりな。」
知亜は頭を下げて、静にあいさつした。静も、子どもの知亜には素直に声援を送った。
「静さん、また来ますね。」
「期待しないで待ってるよ。」
明美は知亜の手を取り歩き出す。そして、庭の中央に差し掛かろうとした所で、
「おっと。知亜ーー、ちょっとこっち来なっ。」
静は、大きな声で知亜を呼びつける。知亜は、一度明美の顔を見て静の方へ走っていく。
━━ぎゅっ。
静は、走ってきた知亜をそのまま抱きしめた。優しく、大事な物を抱えるように。
「いいかい、知亜。あんたにはきっと、あの施設で沢山の辛い事や悲しい事が待ってる。その辛さや悲しみから逃げるんじゃないよ。その後には楽しい事や嬉しい事が待ってるんだからね。だけど、一度だけ逃げてもいい。どうしても我慢できない事があったら、ここにおいで。一度だけ、あんたを守ってやる。これは、知亜とあたしだけの約束。わかったかい?」
「━━はい。」
静は、明美に聞こえない程度の声で知亜に言った。知亜は静の優しい言葉を聞いて、胸が痛くなった。その痛みを和らげたいと思い、知亜は静を強く抱きしめる。すると、胸の痛みは無くなっていた。
5秒ほど抱き合い、静は立ち上がり知亜を明美の方へ向かせた。今度は、知亜の両耳を手で隠し知亜には何も聞こえないようにした。
「━━明美っ。いいかい、何があっても絶対この子を手放すんじゃないよ。絶対にだ。この子は、あんたにとっても大事な子になる。だから、何があってもこの子から目を背けたりするんじゃないよっ。」
静は、大きな声で明美にそう言った。明美は、何の事なのかさっぱりという顔をしていたが、静の真剣な眼差しを見て、
「分かりました。この子は絶対に私が守ってみせますっ。」
と、明美は力強く答えた。きっと、静さんは知亜に何か感じる所があったのだろうと明美は思っていた。
「それじゃ知亜。早く帰りな。」
「あの、静さん。僕、頑張ります。」
静は、知亜の背中を押しだしてやる。知亜は、静からの言葉を胸に走り出す。その姿は、ここに来た時よりも少し大きく見えた。
静さんって明美さんに似てるな。抱きしめてくれた時、おんなじあったかさしてたもん。




