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覆水盆に返らせたい

……つま先が痛いや。

「そんな気にすんな。誰だって失敗の1つや2つするもんさ。」

「そうだよ、知亜君。そもそも、静さんに原因があるんだから。知亜君は、何も悪くないよ。」

「おいおい、全部あたしのせいにすんのか?半分くらいはこいつにあんだろうが。」

「いえ、そもそも知亜君に手伝いさせるのが間違ってるんです。こっちはお客様ですよ。もてなされる側ですよ。もっと、お客様は丁重にもてなさないと。」

静と明美は、始めの方は知亜を慰めの言葉をかけていたのだが、徐々に話しにずれが生じ言い合いを始めてしまった。

「だいたい、静さんはいつもそうなんですよ。大雑把というか適当というか、もっと、周りの事を考えて行動した方が良いんですよ。」

「そんなのお前だってそうじゃねえか。後先考えずに行動して、何回あたしに助けを求めたっけか。」

「よく言いますよ。助けを求めても何もしてくれなかったじゃないですか。」

「当たり前だろうが。てめえで起こした問題なんだからてめえで解決しなきゃ意味ねえだろうが。」

「そういう考えだから、貰い手がいなくて行き遅れたんですよ。」

「……あぁ?もっぺん言ってみろ、その口一生利けなくしてやんよ。」

「や、やれ、やれるもんなら……」

「よし、わかった。今からやってやるから、そこから一歩も動くんじゃねえぞ。」

「すいませんでした。」

明美はすばやく謝罪していた。抵抗もむなしく、静の本気の目を見てあきらめた。そんな2人のやりとりが終わる頃に、知亜は泣きやんだ。

「あの、本当にすみませんでした。」

「あー、まああたしもちょっと悪かったからな。」

「ちょっとどころじゃ……」

「あぁ?」

「きゃっ。知亜君、この人怖いっ。」

知亜は静に謝り、静も多少の非を認めた。明美は余計な事を言って静に睨まれたが、知亜を抱きよせて回避した。

「まあ、お遊びはこれぐらいにして。ほらよ、茶と和菓子だ。」

「綺麗な和菓子だね、知亜君。」

「これ、食べ物なんですか?こんなに綺麗なのに……食べるのもったいないです。」

出された和菓子は練り切りと呼ばれるものだった。適度な柔らかさを持つ練り切りならではの造形をした和菓子は、全体をピンクで染められ、中央には黄色い弁が何本も見えていた。

「いただきまーす。……んー、おいしい。」

「いただきます。……ほんとだ、おいしいです。」

「あたしだって、やりゃあできんだよ。」

なぜか静は得意げな表情をしていた。近くの和菓子やで買ってきた和菓子を出しただけなのに。

「それで、あんたこの子を引き取ったんだっけ?」

「はい。もう1人ぐらいなら大丈夫かなって思ったので。」

「……はぁー、無責任すぎるぞ。前から言ってあるだろう、むやみやたらに引き取るなって。こっちだってお金が無限にあるわけじゃないんだから。」

「え?だけど、お給料とか出してくれるじゃないですか。」

「……確かにあたしやあんたにもちゃんと給金が出されてるよ。一応、あたしたちは雇われの身だからね。だけど、いつ経営が不振になるか分からない状況なんだからそこんところ気をつけろよ。」

はーい、と言って、明美は残った和菓子を一口で食べた。

「……あの、僕、迷惑ですか?」

知亜は、2人の会話を聞いて自分がいては経済的に苦しくなると言われている気がした。

「……あのな、ち、ち、ちか?だっけ。子どもはな、そんな事気にせず貪欲に生きればいいんだよ。我がままになっていいんだよ。今から大人に気を遣って生きてたら、好きなもんもわからなくなるし、やりたい事も出来なくなるぞ。」

「そうよ、知亜君。この静おばあちゃんを見習って、もっと自由に生きなきゃ。」

「誰が、おばあちゃんだってぇ?」

「ほら、人に気を遣う事を知らない人はこういう風に直ぐに怒ったりするのよ。だけどね、世の中そういう人が成功したり、充実した人生が送れるのよ。だから、知亜君も我慢しないで言いたい事は言って素直に、誠実に、貪欲に生きて欲しいの。」

2人は、自分よりも他を優先する知亜に生き方を教えた。知亜のように、なんでもかんでも気を遣う人間はどちらかというと、損な役回りになる事が多い。だけど、そういう人になる事が悪い事だというわけではない。気を遣える人がいるから、社会はうまく回っていく。だけど、知亜達のような孤児は自分達を下に見がちになってしまう。もっと、正々堂々と生きていって上に立てる人間になって欲しい。そんな思いを、静と明美は持っている。だから、知亜にもっと貪欲に生きろと言い聞かせているのだ。

「それとね……さっきは、静さんを見習えって言ったけど、あんまりお手本にはしない方がいいからね。」

明美は知亜の耳元でそう言った。その言葉に知亜は、静を一回見て明美と顔を合わせて微笑んだ。











「あぁ?あたしの前で内緒話をするとはいい度胸だな。」

静の、両手を組んで骨を鳴らす仕種を見て知亜と明美は、すいませんでしたと謝った。……なかなか貪欲に生きる事は難しい。

貪欲…か。だけど、昔からお父さんやお母さんの為に頑張ってたから自分を持つっていうのは難しいな……。

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