世界が変わる前に自分を変える
……なにしてればいいんだろう。明美さんも、何も話さないし……
台所から甲高い音が聞こえてくる。ただその音がむなしく施設内を駆け回る。
「ちょいと……なんて言ったっけ…ち、ち、ちな?こっちに来て手伝いな。」
えっ、僕?という顔を明美に見せて、知亜は台所に行こうとするが場所がわからない。
「あの、明美さん。台所の場所知ってますか?」
「…………」
明美はなぜか、先ほどからずっと黙ったまま座っている。どうすればいいか分からない知亜は、その場でおろおろしていた。
「おいっ、早く来いっ。」
「はっはい、今行きます。」
知亜は、仕方が無く勘で行く事に決めた。廊下に出てみると、本当に『シロツメクサ』そっくりで、ついあの家の台所の場所へと向かってしまう。恐る恐る進みながら、見えてきた部屋を覗く。そこには、急須に茶葉を入れる静がいた。
「あの…来ました。……何をすればいいですか?」
「おう、それじゃあこのお盆を持って行ってくれ。」
知亜は、言われた通りお盆を持った。お盆の上には、急須と3つの湯のみが乗せられていた。知亜は、落とさないように慎重な足取りで来た道を戻っていく。静は、魔法瓶と紙で包装された四角い箱を持っている。
「ほーら、落とすんじゃないよ。落としたら……わかってるだろうね。」
「……わ、わかってますっ。だから、あんまり話しかけないでください。」
静は、お盆を落とさないよう慎重に運ぶ知亜を煽≪あお≫りながら、知亜と同じ速さで歩いている。知亜は、落としたら何をされるかわからない恐怖と闘いながら歩いていた。
「はい、到着。よくできました。」
「……いいから、襖を開けてください。」
両手が塞がっている知亜は、静に開けてと頼むが一向に開けてくれない。これではどうしようもない。知亜も、段々と自分がいじめられている事に気付きだし、徐々に、何で何もしてないのにいじめられるのと思い始め目をうるうるさせ始めた。
「…っ……開けてっ…くだっ…さい。」
「…あちゃー、やりすぎたかな?」
知亜の涙声で、静はやり過ぎた事に気付いた。そして、襖を開けてやると知亜は中に入ろうとしていた。その時、
「あっ!?」
知亜は、お盆を運んでいる最中は足元を見ていなかった。さっきは、足元を見れていたので簡単に入れたが、今はお盆に集中していて足元を見る余裕が無かった。そのせいで、昔づくりの家にはよくみられる敷居に、知亜は足を引っ掛けてしまった。
「ちょっ、明美っ!」
「へっ?」
静は、明美を呼ぶ。3つの湯のみと急須が宙に浮かんで、一直線で明美に向かう。明美は、急に来た湯のみをよけようとした。しかし、よけたら殺すという静との一瞬のアイコンタクトで動きを止めた。なんとか湯のみだけでもとキャッチしようとするが、明美の体勢は不安定だった。それでも明美はあきらめない。まず、右手を伸ばしあと少しで地面に届きそうな湯のみを見事にキャッチしてみせる。しかし、湯のみはあと2つ、すでに右手は使えない。ならばと左手を使う、こちらは余裕をもってキャッチ出来た。しかし、最後の1つが問題だ。もう手を使う事は出来ない。どうする、どうすると考える時間すら惜しい。こうなったらと両足を伸ばす。そうすることで、足と足の間に湯のみが落ちてくる。これならば、足と足との溝にうまく乗せられる。……こうして、3つの湯のみは救えた。
がしゃん。
「……さすがに急須は無理ですよ。」
「……だな。」
「……ごっごめんな…さいっ。」
急須は落ちて、中身の茶葉は散乱し部屋にはお茶の良い香りが充満し、知亜の涙が床に落ちた。
……やっちゃった。どうしてうまくいかないんだろう。




