心の栄養はどうやって摂取するのか。
昨日の交番でなにするのかな?……やっぱり優しくしておいて、僕が気を許してからどこかに捨てるつもりなのかな。
「おはようございます。」
優は交番に着くと、すでに席に着きながらお茶をすすっている中年太りの銀縁眼鏡をかけたおじさんに挨拶をした。そんな優に習い、知亜もあいさつをしていた。
「ん、おはよう。……おい新井、何で子ども連れてきたんだ?ここは、託児所じゃないんだぞ。」
中年のおじさんは、不機嫌になりながら優を叱った。
「いえ、昨日はろくに話もできませんでしたので、もう一度話を聞こうと思いまして。」
ったく、誰のせいで話せなかったと思ってるんだ。と、優は心の中で思いながらも年上に対して敬意を払いながらそう言った。
「それなら、お前の家で聞けばいいだろう。奥さんだって居るんだし、ここに連れてくるよりはるかにスムーズに話が聞けると思うんだがな。」
「こっちにも事情ってものがありまして……。」
知亜には、2人の間で火花が散っているように見えた。あぁ、僕のせいでケンカしてるんだ。やっぱり僕は捨てられるんだ。でも、その方があの人達に見つからないしずっと自由になれるや。お兄さんは、優しい人だったなぁ。あっ、お願いすれば花札くれるかな?「……ん」こいこいは面白かったなぁ。「…亜君」……ぐすっ、もう一回だけ遊んでくれる
「知亜君!」
優は、なかなか返事をしない知亜に少し大きめの声をかけた。そんな優の声に、びくっとして声のした方へと顔を向けた。
「どうしたの?どっか痛いのか?」
優は、こちらを見た知亜が涙目になっているのに気が付いて、知亜を心配した。しかし、知亜はなんでもありませんと言って、必死に涙を拭いていた。
「なんでもなくないだろう?さっきのおじさんが怖かったか、それとも足が痛いのか?」
優は、知亜が泣く原因を探していた。やっぱり、ここまで歩かせないでおんぶをしてやればよかったと自分に非があったと思っていた。
「いえっ、どこも痛くないです。本当に大丈夫ですから。」
知亜はそう言って、目を赤く充血させながら優に笑顔を見せた。
「……わかった、だけど痛かったり怖かったりしたら僕に言うんだよ。」
知亜の大丈夫という言葉が、いまいち信用ならない優だったがあまりしつこく聞いても意味がないと思い何かあったら自分に言うように約束させた。ちなみに、銀縁中年おじさんは優と口ゲンカしたのち、早くその子どもをどこかに連れてけと捨て台詞を吐いて、見回りをしに行った。
「それじゃあ、この椅子に座ってね。」
優は、昨日と同じように古びてスポンジがはみ出しているパイプ椅子に座るよう知亜に言った。
「知亜君、これから僕が質問したことに正直に答えてね。」
優の真剣な表情を見て、知亜はこの質問の返答次第で僕の行く道が決まるんだと心して頷いた。
「それでは知亜君、君は本当にあの公園に今まで寝泊まりしていたのかい?」
優は、知亜が昨日から言っている「公園に住んでいる」という言葉が信じられずもう一度だけ質問した。
「……はい、そうです。僕は、前からあの公園で寝泊まりしていました。」
知亜は、覚悟を決めたかのように優の目をまっすぐ見てそう答えた。
「……わかった。それじゃあ、君の親御さんは?」
優は、知亜がこちらを目をそらさずにまっすぐ見ていたのでこれを本当だと思った。ならば、親はどうしたのかと知亜が覚えていそうな事を聞いた。
「お父さんとお母さんはどうしたの?」
昨日よりも深い部分を質問する優は、これも仕事だと思いながらも知亜に対してかわいそうな事をしてると自覚していた。
「……2人とも居ません。交通事故で死んじゃいました。親戚もいません。」
知亜は悲しそうにそう言った。自分は天涯孤独の身だと。
「……そっか、冥福を祈るよ。じゃあ君には、住んでた家があるって事だよね、その場所は分かるかい?」
優は、知亜が以前住んでいた場所があるならそこで聞き込みなどをすれば知亜の事で少しでも手掛かりがつかめると考えていた。
「……あまり覚えていません。あんまり外に出してもらえませんでしたから。」
この質問にも、知亜はわからないと答えた。……優は、そろそろ覚悟を決めようと考えていた。これ以上質問しても、きっとわからないとしか答えないだろう。ならば……
「知亜君、あのね……」
「児童養護施設って知ってるかい?」
児童養護施設……身寄りのない子どもを預かってくれる場所だったはず。僕はそこに連れていかれるのか。お兄さんに会えなくなるのは寂しいけど、これ以上迷惑かけられないもんね……。