気持ちの整理、しかし物置は無い
あの味付けのりっていうのおいしかったな。甘いというかしょっぱいというか、色んな味がしたなぁ。
「ごちそうさまでした。」
新井家と知亜は、ごちそうさまをしてそれぞれ自分の食器を台所へと持っていく。
「さて、そろそろ仕事に行かないと。」
優は、仕事の時間が近づいてきたので支度をしに2階へと行った。
「ほら、桃香も学校に行く準備しなさい。今日から3年生になるんだから忘れ物しないようにね。」
春子が、桃香に口うるさく言った。
「大丈夫だよ、昨日から準備してたから忘れ物なんてしないもん。」
桃香はどうやら、昨日のうちに準備を終わらせていたようだ。自慢げにそう言った桃香は、2階へランドセルを取りに行った。
「さてと、洗い物しなきゃ。」
春子は、いつもこなしている家事を始めようとしていた。
「……あの、僕もお手伝いします。」
知亜は、特にすることも無いので春子の手伝いをしようと春子に手伝う事を伝えた。
「ありがとう、知亜君。だけど、知亜君には今日用事があるの。だから、気持ちだけ受け取っておくね。」
春子は知亜の申し出を断った。どうやら知亜には用事があるらしい。知亜本人は、なんのことやらと思っていた。
「準備できたよー、おかあさん。」
真っ赤なランドセルを背負った桃香が、リビングに入ってきた。そのランドセルは、中にいろいろ詰まっているようで、パンパンに膨らんでいた。
「はいはい、それじゃお父さんが来るまでちょっと待っててね。」
春子は、桃香に見向きもしないで家事をしながら答えた。そんな春子の様子を気にすることもなく、重そうなランドセルを足元に置き、テレビの誕生月占いを見ようとしていた。
「ねぇ、知亜君の誕生日は?私は、4月の12日なんだ。」
桃香は、占いが始まる前に知亜の誕生月を聞いて運勢を見ようと思い、知亜に誕生日を聞いていた。
「僕は、2月の3日だよ。」
「へぇー、じゃああれだね、おそうまれ?だっけ。」
「違うわよ、遅生まれじゃなくて早生まれ。知亜君、2月生まれなのね。」
桃香の間違った知識を指摘しながら春子が皿洗いを終えて、知亜達の方にやってきた。
「ふーん。あっ、占い始まったよ。今日は、何位かな?」
桃香は、自分の間違いを気にせず、より気になる占いの方へと意識を向けた。
「4月…4月……あっ、残るは1位と12位、4月と2月だ。知亜君には負けないぞー。」
何の勝負なのか、そもそも占いに勝ち負けは無いのだが、桃香はそう言ってテレビの近くまで行き興奮していた。春子は、もっとテレビから離れなさいと注意していた。
「4月こい、4月こい……やったー!4月が1位だ。おかあさん、1位だよ。」
桃香は嬉しそうにして、春子に抱きついた。そんな桃香を、春子は笑いながら抱きとめていた。
「……むぅ、なんか悔しい。」
知亜のそんな独り言もむなしく占いの結果がテレビに表示されていく。
「今日の2月の運勢は微妙。今日は、外出すると大変な事が起きちゃうから外出は控えよう。ラッキーアイテムはダンボール。忘れずにダンボールを持ち歩いてね。」
……どんなラッキーアイテムだよと知亜は思った。やっぱり占いは信用できないと改めて思った知亜だった。
「そーいえば、知亜君は学校に行く準備しないの?」
桃香は、なんの準備もしていない知亜を不思議に思い、知亜に聞いた。
「知亜君は、今日用事があって学校を休まなきゃいけないんだよ桃香。」
桃香の質問に、ちょうどリビングに入ってきた優はそう答えた。
「ふーん、そうなんだ。あっ、そろそろ集合場所に行かなきゃ。」
桃香は急いで玄関に向かった。桃香の通う小学校では、登校をする時に近くに住む同じ小学校の子たちと班を作って一緒に行かなければならない。昔、近くで事故があったらしくそれ以来、班での登校が義務となっている。
「それじゃ、僕らも行こうか。ねっ、知亜君。」
優は知亜にわけも話さず、行こうと促した。そんな優を見て、知亜はどこに行くのかなと思いつつも優を疑うことなくついていこうとした。
「知亜君、優さん。いってらっしゃい。」
春子の、寂しそうで申し訳なさそうな顔が知亜には不思議でしょうがなかった。
お兄さん、どこにいくの?……えっ、昨日の交番に行くの?……うん、わかった。