産れた環境で、人生は決まる
お腹いっぱいになっちゃった。眠い……な。
「知亜君、もう眠い?ちょっとだけ、待っててね。」
春子はそう言うと、どこからともなく赤い十字の入った白い箱を取りだした。もう、半分寝てしまっている知亜は、その箱が自分の足を治療するための道具箱である事はもちろん知らない。
「ちょっとしみるけど、我慢してね。」
こっくりこっくりしている知亜の足に、春子は赤い色をした消毒液を垂らした。
「……っ!いっ、痛い。足が痛いよっ。」
急に感じた痛みに、知亜は驚き泣きだしてしまった。それでも春子は治療をやめようとはしなかった。
「男の子なんだから我慢しなさい。そんなに泣いてたら、桃香に笑われるわよ。」
男の子だからって、痛いものは痛いのだ。一気に眠気が無くなった知亜は、両足の治療が終わるまでぐずついていた。
「はい、おしまい。よく我慢したね、えらいえらい。」
両足に包帯を巻き終えた春子は、未だに涙目の知亜の苦労を頭を撫でてねぎらった。
「よし、治療も終わったし知亜君、どうする?もう寝るかい?それとも……じゃんっ!これで遊ぶかい?」
優は言葉を溜めながら、花札を取りだした。花札を見た瞬間に、知亜はやりたい、やりたいと言って優に近づいた。足の痛みを忘れるほどに、花札が好きになっていた知亜だった。
「また、そんな古臭い遊びで……もっと今の子どもが喜ぶ遊びをしましょうよ。」
「だったら桃香はねぇ……このお人形で遊びたいっ!」
「そのお人形さんはもう眠いから寝させてって言ってるわよ、桃香。」
「でもでもぉ……」
そんな会話をしながら、春子と桃香は何で遊ぶか話しあっていた。
「知亜君、知亜君。花札の他にもこんなのがあるよ。」
優は、ささくれだらけの木箱から木製の小さいとんかちと丸い形をした木を5個取り出して積み重ねた。そして、積み重ねた頂上には威厳のある顔が描かれている木が乗っていた。
「これはね、ダルマ落としっていう遊びなんだよ。遊び方は……」
知亜は興味津々で、優の話を聞きながらわくわくしていた。見たこともない遊びを教えてくれる優に少しの信頼を持ちながら。
ダルマ落としって難しいな。頂上にあるおじさんを落とさないように、とんかちで丸い積み木を強く叩くのか。
……それにしてもお兄さんは、へたっぴだね。