第一印象が決める、相手から見た自分の価値
知らない女の子がお兄さんをパパって呼んでる。……あっ、お兄さんが言ってた娘ってこの子なのかな?
案内されたお家には、明るいオレンジ色の光が灯っていた。夕焼けを思わせるその光に少年は、寂しさを感じ側に座っているお兄さんの服の裾を軽く握っていた。
「優≪すぐる≫さん、その子は誰の子なんですか?まさか、浮気していたんですか?それで相手に愛想を尽かされて、その子と一緒に捨てられてもどってきたんですか?それとも……」
矢継ぎ早に質問をしてくるお兄さんの奥さんであろう人物は、目の光を失っていた。娘と思われる少女は、全く気にする気配はなくテレビ番組を見ながら笑っていた。
「ちょ、落ち着いて。今からちゃんと説明するから。ストップ、ストップ!」
奥さんの誤解を解こう必死に説明しようとするが、そんな言葉が耳に届いていないらしく、奥さんは段々とお兄さんの顔の前まで近づいていた。
「……じゃあ説明してちょうだい。私が納得するまで聞いてあげる、でももしくだらない理由を説明しようものなら……分かってるわよね?」
顔の前でそんなこと言われたお兄さんは、ぶるぶると震えながら一生懸命、命乞いをする罪人のように自分の無実を訴えていた。
一方、話題の中心人物であろう少年は、奥さんのあまりにも怖い迫力に少しだけ泣きそうになっていた。
「ねぇねぇ、あなたは誰なの?」
放っておかれていた少年に、女の子が尋ねていた。急に現れた女の子に、びくっと反応しながら女の子に目をやった。その少女は、奥さんに似ていて綺麗な顔をしていた。少年と同じくらいの背丈をしていて、髪は暗闇のような黒さでその髪を後ろの方で二つの束にまとめられていた。いわゆるツインテールだ。
「えっと、高槻知亜です。君は誰なの?」
そんな少女に少し緊張しながら、少年は自分の名前を言って少女にも同じ質問をした。
「私?私はねぇ、桃香≪とうか≫って言うんだよ。8歳の小学2年生だよ。でも、今度からは小学3年生になるんだ。」
少女の名前は桃香というらしい。桃香は、知亜にそう答えた。そこから、子どもならではの不躾な質問が繰り返されていく。
「知亜君はなんで、ここに居るの?ここは、私のお家だよ。ねぇ知亜君、なんで足がそんなに汚れてるの?靴履いてなかったの?どこから来たの?知亜君のお父さんは?お母さんは?ねえねえ……」
次々と質問をしてくる桃香の姿は、どこか母親と被って見えた。
「う、えっと、そのぉ……」
あまりの桃香の迫力に、知亜は何も答えられずにいた。そんな知亜の元に助け船が来た。
「こら、桃香。知亜君が困ってるでしょ。ごめんね、知亜君。家の桃香はちょっと暴走しやすいの。」
そう言って奥さんは、桃香を抱き上げた。どうやら、お兄さんは許されたらしい。まぁ許すも何も悪い事は一切していないのだが。知亜は、奥さんがこちらに来たという事はと奥さんが来た方向を見てみた。そこには、土下座のような格好をしながら頭から湯気のようなものを出しているお兄さんがいた。
「えっと、高槻、知亜君ね。いろいろ事情があるみたいだけど……ようこそ我が家へ。私たちはあなたを歓迎します。」
奥さんは両手を広げてそう言った。今まさに、少年・知亜の成長物語が始まろうとしていた。
お兄さん大丈夫かな?このお家は、お兄さんのお家だったんだ。警察官ってこんないいお家に住めて、綺麗な奥さんも貰えるんだぁ。