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6

時は少し戻る、世界が閉じた日。例のアナウンスの時間。


原始の森、鬱蒼と木々が生い茂る。

巨大な肉食獣や変異した植物等が敵として現れる中級者向けの狩場。


鬱蒼とした密林内、漆黒のサーベルタイガーが目の前で唸り声をあげている。

青い服の上に軽装の金属鎧を着込んだ騎士がサーベルタイガーの牙を盾で受け止めて押し返す、スキルを発動させて二連撃を叩き込む。

剣がサーベルタイガーに傷を付けてダメージを与え、挑発効果によって騎士のほうへとサーベルタイガーの視線が移る。


「愛花、早くログアウトして」


「けど、それじゃ貴方が……」


ログアウトするには、戦闘中ではないこと、動かない事などのいくつかの条件を満たさなければいけない。

緊急時などには強制ログアウトも可能なのだが、既にできなかった。


「いいから!命掛かってるんだから」


愛花と呼ばれたエルフの女性は地面に座ってログアウト手続きに入る。

戦闘中だから残り60秒。


「けど……」


「この状況じゃどっちかが残らなくちゃいけない。そして騎士職な僕のほうが、ここに残されても帰れる可能性は高い」


何かを言おうと女性が口を開こうとするが、

命とゲーム内の恋人を天秤にかけるという行為

ログアウトしたい心と恋人を見捨てるという良心の呵責からソレは言葉にならない。

だけどログアウトする行為の正統な理由、いや自分への言い訳まで恋人は用意してくれた。

その誘惑を振りきれる人間が何人いるだろうか?


「それに、ゲーム内だけとはいえ恋人を守るんだよ?男なら当然」


騎士が剣を振るい、盾でサーベルタイガーの攻撃を受ける。サーベルタイガーが連撃を繰り出す。

受け流し損ねて騎士が腕に傷を負う。


「痛っ。大丈夫、かすり傷だから。先にログアウトして帰りを待っててよ」


痛みに顔を歪めながらも、攻撃を返しサーベルタイガーにダメージを与えていく。

盾を使ってサーベルタイガーの顔を殴り、そのまま弾き飛ばすようにして後ろへ下がらせる。


「けれど!!!」


泣きながら立ち上がりそうになる愛花の肩を騎士が押さえて小さく首を振る。


「いいんだよ。いつか言ったでしょ。現実じゃこんな男前な顔じゃないし、現実の君に関係無く、この世界だけでも恋人でいてくれるだけで嬉しいって」


「待ってるからね?」


泣きながら見上げてくる恋人に小さく微笑んでうなづく。


「逃げたらすぐにログアウトして、後でメールするよ」


初めて彼女につく嘘。

リアルの自分ならば絶対に顔に出てバレるだろう。

そもそもリアルじゃ女性となんてまともに喋れない。

RCOを始めたばかりの頃もゲーム内とはいえ女性としゃべるのは大分緊張したものだ。

だが今の自分は騎士だ、恋人を守る騎士。いつも通りの笑顔で笑ってみせる。


「絶対だよ?待ってるから、絶対にメー………」


小さな光の粒子が舞って騎士の目の前で愛花と呼ばれた女性が消える。ログアウトできたのだ。


「いやぁ、ゲームでぐらい格好付けないとね、二次元嫁を命懸けで守れたのだから本望だな」


サーベルタイガーが遠吠えを上げる、その声に誘われるようにしてぞろぞろと茂みの中からサーベルタイガーが現れる。


「俺生きて帰れたら、彼女にプロポーズするんだ。ゲーム内で!」


はははっと騎士が笑いながら盾を構える。


<<守護の盾>>

<<風神剣>>


ふわりっと盾が仄かな光に包まれる。盾性能と軽減率を上げるスキル。

そして小さな旋風が剣に宿る。


「さて、死亡フラグをへし折って街まで帰りますか!」


にっと場違いに爽やかな笑みを浮かべて騎士がサーベルタイガーと向かい合う。







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