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すいません、遅くなりました。

しっくりこなくて、何度か書き直しました。


 北風が降り積もった粉雪を巻き上げ白い風となって吹き付ける。

純白の何もなかった雪原には無数の魔物の死体が横たわり、血が雪を紅く染めている。その中を滑るように白い風が吹き抜けていく。

そびえる魔防壁の壁は、白い雪でうっすらと覆われ、ところどころに魔法によるものなのか、大きな穴や裂傷が刻まれ

そこまで辿りついたのであろう無数の魔物が壁に腕をたて、あるいは身体を突っ込ませたまま息絶えている。

城壁へと達して吹き上げられた雪の結晶がキラキラと太陽の光を反射しながら無数に転がる魔物の死体へと振り落ちていく。


「そろそろ時間だな」


 

 空を見上げ、誰にいうともなくつぶやく。それを隙ととったのか、襲いかかるゴブリンの攻撃を見もせずに躱し、返す拳がゴブリンを吹き飛ばしていく。

続いて魔王の拳が打ち込まれたゴブリンが鈍い音と共に吹き飛ばされて雪の上を転がり、白い雪を紅く血で染める。

既に背後の城門は閉じられ、全員が魔防門内へと撤退は完了している。


【三角飛び】【二段ジャンプ】


 途切れることなく、飛びかかってくる次の敵、リザードマンの顔を踏みつけるようにして飛び上がる。

何もない空中、スキル効果で見えない足場が現れソレの横を蹴り飛ばして斜め上へと更に飛び上がる。

6mほどの城壁の淵へと伸ばした手が届きそうで届かない、数cm。

跳躍の最高高度から落ちる寸前で手が伸ばされ、ぱしりっと2つの手がつかみ合う。


「ぬっ!……ぐっっ……重いぞ魔王!」


 魔王の手を掴んだもう1人の手の主。ニールがギシリっと筋肉を力ませて放り投げるように一気に引き上げる。

重力に従って魔王の身体が下へと落ち始める前に城壁の上へと引き上げる。

くるっとそのまま体操選手のように空中で一回転し、膝をついて城壁の上へと着地する魔王。

パンっと心地よい音がしてお互いの手が合わされる。

魔防壁起動という声と共にブゥゥンっと鈍い機械の駆動するような音が響いていく。


「サンキュー、んじゃぁまぁ……アレだな。………野郎共! ケツまくって逃げんぞ!」


 壁を揺らし、ニールの鼓膜にダメージを与え声が魔防壁エリア内に響き渡る。


「お尻をめくって逃げるってどういう意味かしら、カーラ?」


「昔庭で遊んでいる時走りやすいよう裾をまくり上げてじいに怒られたでしょう? そうことじゃないかしら?シーラ」


 ふわりっと城壁の上から、”自由落下”の魔法効果により、ふわりふわりと空中を歩くように優雅に下降してゆく2人。

コツンっと小さな音を立てて地上へと着地すると、長いスカートの裾を上品に摘み上げ、目の前で構える馬車………もとい荷馬車へと乗り込む。


「けれど、走るのは私達ではなくお馬さんよね? カーラ」


「そうね、確か………日本では突っ込んだら負けと言うらしいわよ? シーラ」


(こちらランド3よりランド1へ、積み込み完了。予定通り所定行路にて出発する)


 2人が乗り込んだのを確認すると御者台に座る男が、どこかへと通信を入れる。







 ガタンっと音を立てて、城壁の上から魔王が荷馬車の荷台へと着地する。

着地に合わせて膝を曲げ、衝撃を逃がすようにそのまま逆らわずに屈伸する。

その横にガッシャァーンっと凄まじい金属音を響かせながら、石畳の上へとニールが着地する。

着地の衝撃を殺す事もできずに、そのまま膝を付き、石畳にヒビを入れる。


「いってぇ……すっげぇ痛てぇ。 落下ダメージ緩和スキルをパッシブにいれとくんだった」


「いや、まずは脱げよ………鎧」


 先ほどとは逆、両膝をついてかろうじて着地に成功したニールへと魔王が手を差し出して助け起こす。

2人が荷台に乗り込むと、誰かと通信していた御者台に座る男が後ろを振り向く。


「お疲れ様です。ではではシードベルトをお閉めくださいってね」


 作業用のズボンと白いTシャツ、どこかの工事現場にも居そう男がにやりっと笑う。


「おう、んじゃぁ休むから頼むわ……眠くてしょうがない」


 ごろりっと荷台に横になる魔王、その横にニールが腰をおろし………

ズドンっという効果音が正しいのだろうか、狙いすましたようにニールの鎧の上、胸の部分へとユリハが着地する。


「よっし、着地成功だよ!」


 ひらりっと白の法衣の裾をなびかせながら、ニールの上で一回転して格好をつける。

その横にふわりっと着地の音すらさせずに着地してくるクレハ。

そのまま、荷台で寝転ぶ魔王の枕元へと腰をおろして太腿を示す。


「アッシュ、ほれ。ここをつかうがよいぞ、その様なとこに寝ては頭が痛いであろ?」


 魔王へとそう声をかけて、裾からのぞく白い太腿の上へと魔王の頭をおいて寝かせる。

そして寝転ぶ魔王の身体へと絡ませるように大きな尻尾がいくつも絡まり、くすぐったそうに魔王が身体をよじる。


「嬉しいけど落ち着かないってか寝れないんだが……」


「いってぇ……着地成功じゃねぇだろうが!」「何よ! そんなとこにいるのが悪いんじゃない! せっかく格好良く着地したのに」


ゆっくりと荷馬車が石畳が敷き詰められた広場を進み始める。


「なぁ、魔王よ。どう感じた? 戦略地図のスキル上撃破数は6万だ、重傷、死亡はなし」


 落ち着かないのか、収まりが悪いのか。クレハの膝の上で頭を何度か頭の位置を動かしながらニールを見上げる。

小さく唸るように声をあげて、少しの間が開く。


「どうって、むこうもこっちも様子見だろう? 感じ的には、弱い手駒で戦術や隊列をためしながらこちらの戦力を図っている……少し解せないがな」


「そうなんだよな、合理的に考えるならトップランカーやランカーの残っている数もスキルや能力も有利になったものも多い、そして、恐怖を与えるなら………」


 続く言葉を魔王が手を振って止める。


「確かにHALが全てを把握していて、こういう状況にしているなら敵自体がおかしい、持ち上げて落とすにしても行動に謎が多いけどな………ここでしゃべっててもしょうがねぇよ」


「ふっ、確かに。 絶望的な状況には違いねぇしな………数字上は6万撃破とはいえ、雑魚ばかりだしな」


 顔を起こして、隣に腰を下ろしたユリハの膝に頭を置こうとして避けられ、ゴツンっという音がする。

つぅっと痛そうに声を漏らして頭を抑えるニール。


「なんでだよ、今の流れ的にダブル膝枕のところだろ!?」


「………ハラスメントだよ? ロリコン」


 顔は笑っているが目がまったく笑っていないユリハの横に小さな魔法陣が展開され、マジックミサイルが装填される。

ユリハがインベントリから藁を荷台へ落とし、黙ってそれを指さす。


「ぅぐ………この扱いの差はなんなんだよ………」


 涙を零しながら藁の上へと頭を置くニール。

ガラガラと音を立ててプレイヤーを乗せたいくつもの荷馬車が魔防壁を後にしていく。その数は約20、乗っているのは80人ほどの撲殺同盟のメンバー。

既に他のメンバーは次の準備の為にこの場所を離れている、残っていたのは殿を担当したプレイヤー達だけ。

彼らがこの場所で稼いだ時間は、日の入りから14時間。

予想された時間を大幅に塗り替え、稼いだ時間。

そしてこれから魔防壁が起動している3時間をあわせて17時間。

1日に満たないたったの17時間、それでもその17時間は……世界を変えうるのだろうか?

世界は変わらぬとも、目に見える範囲であればそれは、凄まじいまでの変化がもたらされた。


 第1魔防壁と第2魔防壁の間、いつもであれば何もないただの広大な草原が続く……いまは雪がつもり雪原へと姿を変えているその場所。

第1次生産者といわれる鉱山や畑などから収穫してくる事を専門にしているプレイヤーギルド、アースマイトの手によって一晩で

縦横無尽に塹壕が掘られ、からくり士達の生み出したBOTのように簡易プログラムにて所定動作を行う自動人形(オートマタ)が武装して配備されている。

塹壕の足場一面には、自動人形に再生の効果を付加する機械油を一面にまかれている。

その数キロ後方には、何もなかったはずの場所に大河が作られている。

幅100m、深さ10mの巨大な大河、魔防壁の東を流れる嘆きの河から水が引かれ、一定以上の重さが通過すると落ちるように細工された石造りの巨大な橋がかけられている。

橋の向こう側には、大河を掘るときに採れた土砂が圧縮、加工され巨大な石のブロックへと作り変えられて城壁となり

魔防壁のように東西を完全にはカバーこそできていないものの、そういった塹壕から城壁、砦に至るまでがたった14時間の間に至るところに姿を表していた。

これらによって、彼らの稼いだ17時間は更に増える。

その増えた時間を使って更にその後方に罠が、堀が城壁が増えていくだろう。











 すっと伸ばされた手が、調味料の瓶へと触れる寸前。

横から伸ばされた手と触れ合って、ぴくりっと震えて止まる。


「「ぁっ」」


 同時に漏らした小さな声、釣られるように向かい合った顔、視線が絡む。

打合せたように2人揃って顔を紅くして、鏡のようなタイミングで2人とも前に向き直す。


「ごめん……」


「ぁ、いえ、あの……先にどうぞ」


 ルードヴィッヒが真っ赤になったまま、ぱたぱたと手を振って先にとティセリアに譲る。

ぎこちなく、うんっと言いながら手を伸ばして調味料を使い、それを手渡そうとして指が触れるとお互いにびくっと震えて小さな声を漏らす。


(あかん、わろたらアカン。)


 第2魔防門内部、第2食堂。4人がけのテーブルに座る際に

マッセが壁際に座り、荷物をわざとらしく置く事でティセリアとルードヴィッヒを隣り合わせて座らせる事に成功していた。

少しぎこちないものの、お互いを意識しているように時折お互いを盗み見る2人に、何かを感じたマッセの予感は見事に的中していた。

時折盗み見る2人の視線が合うと、紅くなって顔を逸らし、ぎこちなく緊張したように食事を取る。

この間まではバカップルのようにイチャイチャしていたというのに、付き合い始めたばかりの初心な恋人同士のような2人。


(あかん、ほんまあかんって! ティセ可愛すぎやわぁ………)


 にやにやと心の中で笑みを浮かべつつ、何も気にしない振りをしながら2人を見つめる。

いつもの男らしいティセも、ウチに抱きつかれて照れるティセも可愛かったけど、これもまた別やわぁ。

ん~~ここまで変わるってことはなんかあってんかなぁ?


「どないしたん? 2人とも。結婚初夜を終えた夫婦みたいやで」


 ぶっと咳き込みかけるティセリア、必死に押さえ込んだせいか、目一杯に涙を浮かべながらむせこむ。

けほっけほっと咳き込むティセリアの背中をそっと撫でるルードヴィッヒ、こちらのほうは顔色も変わっておらず

見た目は平然としており、ティセリアに声をかけている。

うん、くわせもんっぽいんか子供っぽいんかよーわからん子やなぁ………。


「しかし、ティセどんな男も歯牙にかけへんおもたら、そういう子が趣味やってんやね?」


「ぇっ、いや、ちがっ! ぁいや、えっとそういう意味でもなくて…………ち、違うよルー君?」


 あたふたと真っ赤になって否定するティセリア、それを聞いて目に見えてしょんぼりとするルードヴィッヒに慌ててフォローを入れる。

ほんとですか? と聞き返すルードヴィッヒになんと答えて良いか止まるティセリア。

からかいがいあってついつい止める機会を失ってしまう。


「結婚式には呼んでや? ウチは表向き二号さん扱いで裏ではティセのってことでええさかい」


 何を想像したのか、今度は2人揃って真っ赤になってうつむく。

そして、そろそろと2人揃って顔をあげて、目が合うと顔を逸らす。


「可愛いティセもみれたことやし、昼からはどうするん?」


「ん、あ、まだ店構築もしてないから先にちょっと桜の花びらを取りに行こうかなと………」


「丘いくんなら敵でぇへんし、危険ないやんな?」


 確認するように口にするマッセの意図が読めないのか小さく首を傾げるようにするティセリア。

マッセがついてくるのならこの辺りの敵なら問題はないし、なんだろう? と悩んでいる事だろう。


「気分転換にルー君連れて行ったりや? 慣れへん知り合いもおらへんとこで一人って結構きついねんで?」


 にこりと笑うマッセに押させるように小さく頷く。

それを見てから席を立ち、トレイを持ってルードヴィッヒの横を通る際に耳打ちする。


(がんばりや? お姉さんが応援したるで? お礼はたこつくけんどね)


「ほな、ウチはちょっと昼からお客さんがくるさかい、また夜な~。 あぁ、せや、夜にできたら武器みてってくれると嬉しいな」


 ふぅっと耳に吐息を吹きかけるとびくりっと身体をはねさせて耳まで真っ赤になるルードヴィッヒに

ティセリアが気に入るのもわかる気がするかな? とおもいながら歩いて行く。








次回は、ルー君とティセリアさんのデートイベントです。

フラグはマッセさんが立てたという!


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