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どこかいつもと違う、少し殺伐とした雰囲気の首都。
行き交う人はまばらで私とディアナが並んで歩いていても集まる視線がいつもより圧倒的に少ない。
「上機嫌ですね?」
私の後ろでぴこぴこと揺れる黒い尻尾を見てディアナがそう声をかけてくる。
「……………夢にまでみたお姉様との同棲、あんなことやこんなことも」
いつも通り声を押さえて、小さくつぶやく。
普通ならば聞き取りにくいはずなのに、種族特性なのか元々小声を聞き取るのに
慣れているのか横をあるくディアナは普通に聞き取ってくれる。
「そうですね、種族特性のせいで感情がやや薄いですが、嬉しいですね」
2人並んで歩く、メイン通りをそれて路地を1つずれるとそこにはもう、人通りはほとんど無い。
いつもは露店を出せない商人が御座露店を出し、NPCもそれに混じって露店をだしていたりで賑わっていた。
もう2つほど裏へいくと、裏路地街で怪しいアイテムや表立って取引に出せないアイテム、色々な情報なんかも売られている。
手をかざして小さくつぶやくと色とりどりの小さな球体が周囲に現れ、近くへと集まってくる。
「いつみても綺麗ですね。けれど本当に6属性の精霊召喚なんて規格外ですね」
すっとディアナが手を伸ばすと、薄い緑と青の球体。風と水の精霊が嬉しそうにディアナの手のまわりをくるくると飛ぶ。
そして、精霊語。精霊との会話をするための言語で色々な情報を教えてくれる。
水の精霊ならば水の流れる場所から見える情景、景色、出来事。風ならば風の吹くところといった感じに。
「……………中級精霊や基本6属性以外は無理」
ふわふわと私の周りを飛び回りながら嬉しそうな声で色々な情報をささやいてくれる。
いつもならイベントの情報や狩場等だけど、一週間前のあの日から文字通り色々な事を教えてくれる。
頼めば恐らく偵察や尾行もこなしてくれるのかな?
「…………お姉様の着替えやお風呂も」
こつんっと音がして頭に鈍い痛みが走る。
ディアナが拳を握り、微笑みながらこちらを見下ろしている。
「ルーリ……精霊を使って覗きですか?」
「…………ディアナも見る?」
ぴくりっとディアナの耳がうごめき、左手が髪の毛を触っている。かなり動揺しているみたい。
「そ、それはそうと、周りに人影はありません。その喋り方で無くてもよろしいのでは?」
「…………そだね、あんまりというか全然人いないし? メイン通りにもまばらだったしね~」
ふぅっと小さく吐息を吐いて、普段の聞こえづらいつぶやくような声とは違い。
見た目相応の少女の声がはっきりと聞こえる。
「職業柄どっちでも平気なんだけどね~」
「えっと……声優というのでしたか? 知っていますよ、聖剣の使徒とかはこちらでも有名ですし」
「あはは、まぁ声は現実と変えてないから意識してないと色々とね~」
うぐっと表情を一瞬歪め、何事も無かったように笑ってごまかす。
いや、ごまかせてはいないだろうけど、ディアナには通じたのかそれ以上何も言ってこない。
「そういえば、ルーリとはお姉様が縁で知り合ってから長いですが、お姉様とはどういった出会いを?」
「それを聞いちゃう? 聞いちゃうの? よろしいならば話してしんぜよう」
にこにこと天使のような笑みを浮かべながら上機嫌に尻尾を揺らす。
むかーしむかーし………あ、ごめん。そんな歳とってない。
エルラド山脈でレベル上げをしていたんだけど、その頃皆に私は嫌われててね~。
嫉妬ってヒドイよねぇ?
(私が聞いた話では、ローブと匿名機能で隠れたプレイヤーがルールぎりぎりのグレーゾーンでいやがらせをしてくるという話だったような?)
んでね、その日も狩りをしていてね~。
他のプレイヤーの嫌がらせを受けて、すごい数のモンスターに追いかけられていてね。
死んだら消えちゃうレア素材をもっていたものだから、必死で逃げて助けを求めたんだけど
だ~~っれも助けてくれなくてさ。
もうだめだ~って時に飛び出てきたのがお姉様。
軽く左手1つで私を抱え上げて、「大丈夫か? 怖いなら目を瞑っていて」って優しくささやいて………。
お姉様だって私を嫉妬して嫌っていたはずなのに………もうその時にこの人だ、私の嫁は!って思ってね~。
(えぇっと、それはお姉様にも嫌がらせをしていたという事なのですね)
はぁっと呆れたようにため息をつくディアナ。
言葉が上手くまとまらずに、そうですか、まるで物語のようですねと返すと嬉しそうにうなづくルーリ。
「それで、ディアナはどうなのかな?」
じぃっときらきらと輝く瞳でディアナを見上げるルーリ。
丸でおもちゃを見つめる猫のように楽しげに揺れるルーリの尻尾。
「そ、それより! 情報ならこちらも伝手から届いています。転送しますわ」
ピコンっと小さなシステム音とともにメールが送られてくる。
書かれているのは、現状の敵対勢力の情報と恐らく起こるであろう奈落からの進行情報。
トップギルドの話し合いできまった最終防衛ラインでの決戦作戦。
それに伴う計画書となぜか物資が第2魔防壁へと送られていること。
小出しに各魔防壁へと物資を送るのは撤退戦に使うためと納得できるものではあるが、第2魔防壁のみ数量がおかしい等が書かれている。
「これはなんなのかな?」
「何と申されましても、書かれている事は真実ですわ」
「や、そうじゃなくて出所は確かなのかな?」
「”星海の黒幕”からの情報ですわ、さすがに黒騎士や撲殺内部まではつかめなかったようですけど」
喋りながらも、路地裏にある下水道への入り口であるマンホールの蓋に手をかざし小さくつぶやくと
周りに浮かぶ色とりどりの精霊が指先に集い、指でなぞる跡を追いかけて光の軌跡を描き
小さな魔法陣がマンホールに描かれ、光を放つと消えていく。
「これで終わりかな?」
「そうですわね、とりあえずはこれで下からの侵入なんかにも対応できますわね」
「……………こういう所も見ないとね、ツメが甘いかも」
普段どおりの口調に戻るルーリ。それに対してディアナも何故とは聞かない。
2人の気配察知のスキルにこちらに向かってくる2人組が探知され、マップに表示されているから。
ゆっくりと歩いて来る遠目にもわかる騎士鎧を纏った2人組、刻まれている紋章も予想通りというべきか黒騎士中隊の物。
2人の姿を見つけたのか、騎士たちが小さく会釈をする
「今日は混乱が予想されます、人通りも少ないですので大通り等人のいる所に移動してください」
丁寧な口調でそれだけを告げると辺りに気を配りながら去っていく騎士2人組。
(おい、お前なにいってんだ?)
(え? だって今日は人通りの少ない場所や狩場に出てるPC,NPC問わずにそう注意するって申し送りうけてますけど)
(ばかっ、今の悪夢の蜃気楼だぞ。クソ任務中じゃなきゃサインもらうのに!)
談笑しつつも辺りを警戒しながら去っていく騎士2人組。
教育はきちんとされているんだなと思いながらその後ろ姿を見送る。
「……………さすが有名人、もてもて?」
「もてもてとは、違うと思いますが……とりあえずもうすぐお昼になりますから、そろそろ戻りましょうか」
ちょこっとした横のお話。
ちなみに首都の地下には下水道、その奥には咎神の神殿があります。
レベル的には下水道が初心者+ぐらい、神殿は上級者用の狩場です。
ちなみに 悪夢の蜃気楼はディアナさんの2つ名です。
そのうちきっと、対人戦闘で性能が明らかになるかと!
ルーリの演技?でいいのかなは、そういう設定にするか悩んだのですが
そのままにしました。
演技とはいえ、性格の一部ではあります。




