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てくてくと寂れた工業地帯のような場所を歩いて行く。
《これより先鉄ノ鬼所有地、関係者以外立ち入り禁止》と書かれた看板から誰とも会わない。
セキュリティとかなんとか色々いいんだろうか?
ここに来るまでに通った研究所?とかだとNPCの見張りだったりPCが見張りをしていたりしたのに。
そのまま少し進んでいくと急に景観が変わるという表現でいいんだろうか?
なにコレ? 近未来SF映画の戦闘シーン後ですとでも言えそうな惨状。
地面がレーザーか何かで直線で削られ、その周りが一度沸騰したかのように歪んで更にその外側が煤けているような痕が幾筋もも走っている。
…………目の前の半壊した建物から。
「これはこれは、ようこそおいでくださいました。此処の責任者をしておりますゴムルと申します」
先程までは誰も居なかったはずの場所に、最初から居たと言わんばかりにこの世界に似つかわしくない、黒のスーツを来たサラリーマンといった男が軽く会釈をする。
ファンタジー世界であるせいか、金髪碧眼に尖った耳だけど。
ゴムルが出てきたのと同時に3人? 4人? 気配察知に辛うじて引っかかる程度だけど周りにプレイヤーの気配が現れる。
ずっと敷地内に入ってから見られていた?
「出迎えも出さずに申し訳ありません。立ち話もなんですので奥へどうぞ」
そういってゴムルの背後を手で指し示すとその半壊した建物へと向かっていく。
それと同時に恐らく挨拶代わりだったのか、周りにあったプレイヤーの気配も完全に消えていく。
うーーん、日中で私の能力が落ちているとはいえ結構な熟練者が警備してるのかな?
案内されるままに半壊した巨大な工場に入る。
中はというと見た目とは違い、まるで研究室のようだった。ほとんど焼き払われて原型をとどめていないが。
「すいませんね、なかなか片付けている時間と手がありませんので散らかっておりますが………っとこちらです」
ゴムルが大きくひらけた場所で立ち止まる。壁に手を置くと魔法陣が浮かび上がり、ガタンっという音と共に
床板がスライドし、地下へと降りる階段がでてくる。
「………なんというか凝ってるね」
地下へ降りる階段といっても、高さは十分にあって圧迫感は感じず、広く取られた幅。
まぶしすぎない用にあちこちに配置された蛍石から漏れる柔らかい光。
内部はまるで地下研究所といったように廊下の左右にガラスがはめられており、左右の研究室や工房が見られるようになっている。
「工場っていうよりまるで研究室ね」
「えぇ、そうですね。元々は細工職人用の工場だったのですが、研究所になってるんですよ?」
右側の工房では、男達が机にむかい生産職人がつかうサモンゴーレムの元になる、原型をいじっている。
近くのボードには設計図等が描かれており、大きな文字で《機動性なんぞクソクラエ、唸る男の大火力》と書かれている。
「主にゴーレムには3つのタイプがありましてね、ここは重装甲、重火力を主として設計している部署です」
通路を隔てて反対のほうの部屋を見ると、フルプレートが一式ずらりっと並べられている。
忙しくなく動き回っている作業着の男性、目があうと軽く会釈をしてくれる。
腕のところには黒騎士中隊のギルドマーク。鉄ノ鬼のマークではない。
「あれ? 黒騎士中隊の………え?」
「えぇ、そちらから北側半分は黒騎士中隊との共同開発所で、その部屋はウル様の部屋ですね」
違和感を感じてじぃっとフルプレートを見つめる。
約2Mほどの通常着こむ全身金属鎧より一回りは大きい物。だけど違和感はソコではない。なんだろう?
んん???
「気づかれましたか? あれは、鋲などは使っていません、溶接式ですよ。他はまぁ、機密ですので後ほど」
そう言葉を濁して笑うゴムル。
機密というならこの階層全体が機密だと思うんだけど………はっ?! まさか秘密を知ったと拉致監k(ry
「秘密を知ったからにはとかいうお約束はございませんよ?」
「まさか、エs「そういったスキルも持ちあわせておりません」」
即席コントもできるなんて、こいつできるっ?!
や、冗談はおいておいて。
「なぜ自分にこれを見せるのか? といったところでしょうか?」
やっぱりエスパーではないのだろうか?と思いながら小さくうなづく。
「ウル様もそうですが、うちのギルマスである鉄鬼も含めて面識がおありでしょう?」
「ぁっ………」
「っと、こちらです。詳しくは中で」
どうしてこんな単純な事を忘れていたのだろうか。
鉄鬼さんとは鉱山で採掘しながら延々としゃべって仲良くなった。
ウルさんは元々天魔の囲炉裏にいたんだ、軍関係の話が合うとかで黒騎士中隊に移籍しちゃったけど。
ガチャリっとドアを開けて、中へと誘うゴムル。殺風景な部屋の中には机とソファが並べられており………
「よぅ」
椅子に座り机の上に足を投げ出している、黒い軍服を着た男が軽く手をあげる。ウーティヌルウス、ウルさんと言われる黒騎士中隊幹部組の1人。
スラリとした長身に引き締まった筋肉、どことなく優しそうな顔つき、優男の軍人をイメージして作ったとは本人の談。
「はい? えーっと、なんでウルさんがいるの?」
「そりゃ、俺が呼んでもらったからだ。直接会って話す事があったんだが、色々とめんどうな時期でな。まぁなんだ仕事の話だ」
コンコンっとウルさんが机を指で軽く叩くと大陸地図が浮かびあがる。
「まずは現状からな? 俺らの拠点がココ首都。で、最終防衛ラインがコレで、第1魔防壁っと」
地図の上に印が付けられていく。
そして北の果て。横一直線に山脈が並び、それが山脈の途中から不自然に直線的に海へと変わっている。
そこの中央一箇所に赤い○が浮かぶ。
「現状PCへの侵略脅威として可能性などを含めた高いものが西の魔軍とこの北の果ての奈落だ。奈落は”あの日”から活性化している」
「現状は、六十六柱の魔神が封じられた地となっておりますが………。。公式資料と開発陣のインタビューから奈落は封印された北の大地への通路である事がほぼ確定であるかと思われます」
ウルさんが指先で地図を触ると奈落の所に敵性勢力前線と文字が浮かび上がる。
「うん、色々とユーザーサイトや掲示板で賑わってたね。次の大型アップデートで妖精の大陸と同時実装予定って開発がインタビューで答えていたよね」
「そういうこった。それでだ現在コレの封印式を解明すれば再度封印に使えるということでうちの部隊が1つ現地にて
封印を解析中だが間に合えば時間稼ぎもできるだろうが……封印が破られるまでに間に合わんというのがウチの作戦本部の見解だ。
西の魔軍のほうは、それほど活性化していない……まぁ元々北の魔物とは支配系統も何もちがうし、どちらかといえば人類に敵対的な亜人ってだけだな。
話も通じるし、交渉の余地もある………つーか、こっちの問題はクリアされてるんだ」
ぇぇっと整理しよう。
話が飛び過ぎててよくわからない、ウルさんの悪い癖だよね。
ゴルムさんが都度いれてきた補足もまとめると、HALの目的等はともかく魔物の動きとしてPC,NPCを問わず人類に敵対行動を取っている。
それが活性化されてきていている? それで、そのなかでもっともまずいのが西の魔軍と北の奈落。
そして西の魔軍のほうの問題は交渉で解決させたのかな?
で、北の奈落の封印が解かれるという予測で、それに対してして準備している?
「えっと、で、仕事って?」
前線で戦えと言われても出来ない。
いや、相手が雑魚ならともかく、私のスキルや種族特性なんかはは集団戦闘向きじゃない。
味方と同数、もしくは1対1か1対少数のレベル上げなんかを想定してある。
多数の相手や集団に混じるボスだけ倒せと言われれば出来ない事も無いけれど………その後は死ぬかなぁ………
インスタンスフィールドのボスとかだと大丈夫なんだけど。
「おいおい、そんな顔すんなよ。前線で戦うのは戦争屋共の仕事だ。それにお前さんは貴重な複合生産職人だ。2つの魔法陣の設置と時間が余れば武器防具の生産の手伝いをしてほしい」
「ウル様、話がとびすぎております。順をおって説明いたしましょう」
まず、この奈落ですが公式設定からボスクラスは六十六柱の魔神。
現在もこちらからの侵入は可能ですが、トッププレイヤー達が多数参加したあのイベントのときですら、到達階層は第3階層。
倒せた魔神は最下級の六十六位の魔神ザムドのみでございます。
このザムドですら、上位ドレイクに匹敵します。そして交戦記録から予測された第六十五位の戦闘力は上位ドレイク相当。
最悪ドラゴンクラスの敵が64いる可能性になります。
そして奈落固有種と言われる奈落にのみ生息している魔物はいずれも戦闘能力が高く、1匹でトッププレイヤー1PTに匹敵します。
現在ニール様の戦友であるアッシュグリード様率いる魔王軍が最前線、第1魔防壁にて配置についておられますが、
今日の昼、HALの発表に合わせて封印が解かれた場合今夜には第1魔防壁は陥落するという予想です。
そして、ギルドの主だっ「おい」
「一応言っとくぜ、最高機密だ。依頼を受けなくても他言無用」
失礼しました。
主なギルドが集まった今後の対応についての話し合いにて、敵戦力などを総合して考えた結果
適度に勝利しつつ、敗走し、それらを映像処理関係者などが編集し、プレイヤー全体への宣伝を行います。
そうして集まった物資、プレイヤー等で最終防衛ラインにて徹底抗戦。
そしてその間に、精鋭による隠密強襲作戦によって奈落を封印するというのが作戦になっております。
詳細は省かせていただきましたが、簡単な概要でございますとゴムルが頭を下げる。
「だが、それじゃ駄目だ。手遅れになる。一般人が大地を埋め尽くす魔物を見て平気か? 真横で仲間が臓物をぶちまけて死んで平気か?
そんな訳はない、訓練も殺し合いもしたことのない一般人が、そんな事できるわけがないだろう?
だから、この最大の要塞である第2魔防壁ですべてケリをつけなきゃならん、その為の準備だ」
「えっと、私1人で返事はできないから、後でもいいかな? それと第2魔防壁まで移動にかなり時間かかるけど………」
「あぁ、だがタイムリミットは今夜までで頼む。移動については嘗ての転送方陣で移動が可能だ。一度に6人まで、2時間に一度という制約がつくがな」
「じゃぁ、ごめん、一回帰るね」
ガチャリとティセリアが退室してドアがしまる。
「はぁ………まったく平和ボケしたクソどもが………戦場を下げる事の意味がどういう事かわかってやがらねぇ」
ガンっと乱暴に机を蹴り上げるウルさん。
それに合わせるようにふぅっとため息を吐き出すゴムル。
「仕方ないでしょう。参加人数が増えればそれだけ上位の役につくものは戦場にでずにすみ、指揮をとるという名目で後方にいれられます」
「けどな、うちの現実世界で軍人のみで構成された特務ですら、集団戦闘は恐ろしいと答えたんだぞ? 一般人が大軍を前に横で人が死んでなお持ち場を守れるとは思えん」
「そうですな、しかし現状戦力で失敗した場合残るのは絶望のみですから、そういう結論になるのも致し方ないかと………」
ゴムルが手をあげると小さなウィンドウが表示される。
表示されたのはチャットルーム、数人の工作員が報告をあげてきている。
「こちらの工作は成功です。NPC各国から騎士団等の派遣と指揮権を譲渡されました。反対していた貴族連合などは不幸な事故に遇われたようでございます」
「相変わらずエグイな………」
エグイと言われたゴムルが大きく肩をすくめて首を振る。
「ただのしがない営業マンですよ?」
「ただの営業マンがこうも手際よく諜報機関の根を広げ、NPCの権力なんかを手中に収められるかよ」
「私の師匠のマネをしただけなのですけどね、さも価値のあるようにくだらない情報を売りつけて、貸しをつくり知った情報を知っていた風に振る舞い、別の所へっとこんな話今は必要ありませんな」
「そうだな、英雄の虚像を始めようぜ」
敵の強さは
ドラゴン→超えられない壁→ドレイク→ワイバーンとなります。
ドラゴンは最下級種でもトッププレイヤーが有象無象のように薙ぎ払われます。
ドレイクはピンきりですが、上位クラスでトッププレイヤー100人ほどで行くレイドボスとなります。
ワイバーンが雑魚敵ですが、それでもRPGの魔王周辺で出現するようなクラスの強さを持っています。
ドラゴンが討伐されたのはサーバー上で3匹のみです。
(うち1匹は特殊な条件での戦闘です)
ちなみにRCO内には、下級神などもでてきます。
(下級神含め特定の敵や種族は殺すと特定都市やNPCとの関係が敵対になります)
ウルさんのセリフはちょっと書くことが多すぎてだいぶ省略した・・・感じです。
ツッコミあればがんばってみます。
ちなみに黒騎士中隊としては第2魔防壁にて総力戦をしたい。
理由としては、戦線を下げることによる士気の低下
手に入る素材の量、質の減少、敵の増加。
一番大きな理由は一般人のプレイヤーが戦争時に正気や士気を維持できず、それによる戦線崩壊を危険視。
そしてなにより、自分達の安全を上げるのために他人を戦場に駆り立てる事を是としません。
逆に他のギルドが最終防衛ラインでとしたのは
プロバガンダでいいのかな?による
参加しない他人事だと等様々な理由で参加しないプレイヤーの参加、アイテム等の寄付による戦力アップ
また参加人数増加による1人あたりの危険性の低下
(自己保身なんかも含まれています)
そして、今現在可能性があるだけで差し迫った危機ではないからです。
この部分がウルさんが平和ぼけしやがってと毒づいている理由ですね。
あと、普通の対人もあるMMOと同じで
プレイヤーによって色々スキル、魔法のカスタムや
種族特性、プレイスタイル等々様々な要素によって
PVEと呼ばれる対魔物戦闘が得意なプレイヤー
PVPと呼ばれる対プレイヤー戦闘が得意なプレイヤー
PVWと言われる対戦争が得意なプレイヤー
(最期のは作者が勝手につくりました
それぞれ3つの中でも更に1:1や1:多数など色々分かれますが
ティセリアはPVEになります。
種族の特典によってキャラ性能は高いですが
1:1であればルー君を除くと下から2番目です(一番下はマッセ)
戦闘後さえ気にしなければ一番強いですが………。
(マッセは対集団戦闘なので1:1が弱めなだけです。
あくまでスキル性能なので、避けられたり防がれれば終わりです。
先の話にでてきた魔王軍こと撲殺同盟のプレイヤーは
対集団戦闘にほぼ特化されています。
あと世界が現実に近づくことによって
クエストで知りえた不正貴族がそのままとかいう現状を
証拠をそろえて罪に問うたり、貴族として爵位を買ったりなどいろいろとできるようになっています。
それで、諜報員をNPCの中に送り込み、奈落への派兵などを反対する貴族を失脚させたり
(PCはNPCの見分けができますが、NPCはNPCとPC見分けられません
不正の証拠で脅したりなど等をして首都を含めて
各NPCの国などで権力を得て、NPCの騎士団などを指揮下にしています。
ただ、PCと比べると戦闘能力が低かったり
持っていて当たり前の移動速度系のスキルがなかったりします。
もちろん死んだら復活などはしませんし殺せば恨まれます。




