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ギャグ成分と
トッププレイヤーが多数登場するためにチート成分を含みます。
苦手な方は、本編でだいたいのあらすじはでてきますので、
この話は読み飛ばしてください。
ユーザーの手によって龍脈の魔力を利用し作られた高さ20m、全長10kを超える北の大地と中央大陸とを隔絶する魔防壁。
巨大な城壁に城門、魔力装置を起動した魔防壁は上空はおろか、地下まで魔力壁を構成しあらゆるものの侵攻を阻む。
魔力装置の起動されていない魔防壁へと迫り来るは、大地を埋め尽くし、空すら覆わんと未だなお、出現をつづける魔物の群れ。
魔物独特の匂いが踏み荒らされた大地の匂いが風にのり、吐き気すら覚える。
空気は張り詰め、魔物が迫るのを告げるように地響きが襲う。
守備するは、歴戦の古強者。撲殺同盟ギルド総勢604名。
負けっぱなしの、下の下であった弱小戦争ギルドが同盟システムを利用して集まった撲殺同盟。
それが1つのギルドとなり、撲殺同盟は撲殺同盟ギルドとなった。
何度負けようと、笑われ負け続けようとも彼らは悔し涙を流し、次こそはと心折れる事無く立ち上がり続けた歴戦の強者共。
そして、デス・ゲームとなった今もなお、彼らの心は折れることは決して無い。
「はっは、おもしれぇな」
20mを超える城壁の上、黒目黒髪の日本人にしかみえない顔立ち。体長は2mを超える1人の男。
部分装甲を採用した黒いズボン。レザーブーツとシャツ。真っ赤な裏地の黒のマントを羽織って地平にまで広がる魔物の群れを見下ろしている。
「笑い事じゃねぇぞ?」
鎧には夥しい傷。一部は欠け、凹み、返り血と己の血でドロドロに染まっている。
腕の位置には辛うじて黒騎士中隊とわかるエンブレムが見える。
「しっかしまぁ、よくやったな?ニール」
「そう簡単に死んでたまるかよ。アニメやゲームじゃねぇんだ、序盤で格好良く死ぬ脇役なんてごめん被る」
「違いない。しかし、敵さん知能たけぇよな?どっちが魔王軍がわからねーぜ?」
「あぁ、黒騎士中隊の戦闘記録じゃオークやゴブリンは、お粗末だがそれでもゲームの頃と違い知能はあり、学習することもあった。だが、ここまでというのはやばいな」
目の前に広がる魔物の群れ。いや、既にそれは軍団といって差し支えなかった。
重装や大型の魔物達が前列に隊列を成し、その隙間を埋めるようにゴブリンやリザードマンの軽歩兵が配備され
後方には遠距離タイプの魔物の群れが陣取り。そして、上空で隊列を組んでいる飛行する魔物が見て取れる。
丸で人間が魔物を指揮しているような、ありえない光景。運営のイベントでも魔物が隊列を組んで襲ってくるような事は今まで無かった。
「正確には魔神軍だな、奈落に封じられたのは六十六柱の魔神という設定らしいぜ?」
「魔王軍vs魔神軍とかどこのアニメだよ。ま、勝つのは俺らだよ」
「その自信が羨ましいぜ、期待………してるぜ?」
「失礼いたします。閣下、敵行軍速度と結界装置起動までの時間を考えると不足時間は約3時間ほど。一戦交える必要が生じます」
2人の脇に控えていた、おおよそこの場に似つかわしくない燕尾服を纏った初老の執事が報告する。
魔防壁は一度結界を起動すると驚異的な防御力を誇るものの、様々な欠点も存在し1つは起動までには時間がかかる。
そして一度起動すると出入りする門を開くためには結界を解除しなければならないし、また結界装置の維持と起動にも様々な条件が設定されている。
「そうだな、まぁいいんじゃねぇか?いつかは戦わなきゃいかんのだろ?」
「防衛じゃなくて、行くのか?」
「あぁ、もちろんだ。ゲームなら仲間が死んでもすまないですむ、だが仲間が”死ぬ”なら俺はソレを認めん。万一があったらリセットできねぇだろう」
ニールの問いかけに魔王が笑いながら返す。
この状況で己が身可愛さに他人を見捨てたとしても誰にも責められないだろう。
問いかけながらもニールは自分の友である、魔王と言われるこの男ならためらわずに突っ込んでいくと聞きながらも確信していた。
魔王などという通り名に似合わず、不器用だが義理人情にあふれた男。
だからこそ、自分の友、親友と呼べるのだが。
「そりゃぁイヤだな、けどな……状況は、伝えてあるとおりだぞ?」
「分かってるよ、ギルドのやつらも本当はココに連れてきたくは無かっただけどな? 皆行くってきかねーから。セバス、全員集めろ」
「畏まりました」
セバスと呼ばれた老執事が優雅に礼を返し、ひらりっと城壁から魔防門内の砦のほうへと飛び降り軽やかに着地する。
砦内広場に集まった黒を基調にした装備に身を包んだプレイヤー達。
黒騎士中隊のような装備の統一性は見られず、寄せ集めの……良く言っても傭兵集団にしか見えない。
それでも彼らの顔には恐怖も迷いも、戦闘への気負いすらなく普段通りに雑談を交わし、談笑していた。
あの後、ニールは魔物の群れを突っ切り脇に2名を抱えたまま身体で敵の攻撃うけ、蹴り倒し必死の思いでこの第1魔防壁まで逃げてきた。
満身創痍だった身体は治癒魔法により傷は治ったが、痛みや恐怖等による精神の消耗までが癒えるわけではない。
痛みが感覚が現実のそれとかわらなければソコは現実といっても良いかもしれない。
黒騎士中隊で怪我等無く、戦闘可能な身体状況で尚且つ”戦闘できる精神状態”であるのはニールをいれて残ったのは僅かに8名。
RCOの中では歴戦の勇者であろうとも、英雄に憧れていようとゲームの世界だと、戦えると思っていようと、現実世界ではただの一般市民。
そして現実空間で軍人でもなんでもない一般人が戦闘を経験した後でもかわらずに戦える事はほぼ無い。
それでも、ニールは戦場に立つ事を決め、こうして広場の一角に立っている。
「しっかし、なんなんだろうな、このギルドはよ?」
この状況で平常心を保ち、いつもと変わらぬ撲殺同盟の連中の方が異常だ、おかしすぎる。
先ほど奈落の穴近辺での黒騎士中隊(俺ら)の戦闘は、中継されていたから見ているはずなのだ。
しかも、黒騎士中隊の戦略部門が計算したタイムリミットは、一年未満。
そして先ほどHALの告げたタイムリミットも一年未満。同じような計算をしているのだろう。
ユーザー達がまとまり、まともな戦争をできるだけの状況になるのが半年後の最終防衛線という予想だ。
それまで一週間でも1日でもいい、準備をするため、1人でも犠牲を減らすために多くの時間を稼ぐ為、ニールは任務を受けてここにいる。
死守、人々の希望などといえば聞こえはいいが、身も蓋もない言い方をすれば時間稼ぎの捨石。
参加した自分も含めて全員が死ぬ事を覚悟して来たが…………覚悟するのと実際に体験するのでは違いすぎる………。
「黒騎士中隊、戦える意思のある者は戦闘準備をして門へ迎え!心折れた奴らとけが人は避難させろ」
返ってくるのは沈黙、戦える状態の他の7人は既に門で配備についている。
怪我人もすでに、身体は回復している為に自力で避難を始めている。今更だなと自嘲する。
もちろん、時間稼ぎというのは撲殺同盟にもきちんと伝えてあるのだが、向こうはギルド全員がここに揃っている。
迫り来る魔物の群れに誰1人として泣き言1つこぼさない。
しかも、二つ名持ちも多く、人が少ないという問題はあれど戦力は同一人数であれば間違いなく戦争ギルド内でトップだ。
なんだろうな?おっさん感動して泣きそうだ。
「しかし、こんな人数に飯奢るとかゲーム内で破産申請とかどこにすりゃいいんだ? 経費でおちねぇかな?」
ぼりぼりと頭を掻きながら大きなため息を吐き出す。
ざわめいていた広場が一斉に静かになる。一段高く設置された壇上に魔王が上がり、全員を見下ろす
「てめぇら、準備はできたか??これから一戦交えに出撃するぞ、魔防門起動まで必要なのは3時間だ。
楽しいよな? 戦争だ、それも大軍だ。面白いよな。プレイヤーじゃないがきちんと”戦争”できるぜ?
まぁもっとも、ここで死ねば本当に死ぬそうだ。それを踏まえて動けよ?
玉砕も特攻も自爆もするんじゃぁねーぞ?
本当ならてめーら誰1人連れて来たくはなかったんだがな……うむ、なんだ、言葉がまとまらねーな。
パルだかエルだか知らねーし、デス・ゲームの実感は無い、だけどてめぇら死ぬんじゃねーぞ?
てめぇらの為じゃねぇ、俺のために死ぬなよ?」
魔王の演説に笑いとヤジが飛ぶ、不器用な男の不器用な演説。
知らない者にしてみれば、魔王の性格を疑いかねない不器用で意味のわからない演説。
戦争を楽しみ、仲間を想い、文字通り身を挺して友を守る男。
仲間が傷つけば自分の事以上に怒り、不幸があれば涙するおよそ通り名に似つかわしくない男の演説。
放っておけば、この男はたった1人でこの場に立ち、人に知られずとも仲間を守る為に戦っただろう。
それを知っている。だからこそ、この場にこれだけの人数が揃っていた。
「あぁ、いい忘れていた。今回は間に合わないが援軍の当てはある。援軍が無いのは黒騎士中隊共がモテないだけだ」
ドっと笑いが起きる。
自分に集中する視線にやれやれと肩をすくめ、壇上の魔王を睨み返す。
「おぃ、コラ!モテモテの魔王様と一緒にすんじゃねぇ!」
「なんだと、リア充が!! 年齢=彼女イナイ歴の俺のどこがモテる!!!」
魔王様俺らがついてますぜ!と野太い声援が上がり、嫌そうな顔をする魔王にまた笑いが起きる。
てめぇが鈍感なだけだろうが胸中でツッコミを入れるニール。
この光景もこれから始まるであろう光景も、撲殺同盟と黒騎士中隊のプレイヤーによって録画されている。
そして編集し、各都市に流す。
現実を、現状を理解せずに協力しない者達へ現実を分からせるために。
他人事だと関心を持たない者に持たせるために。
その為には圧倒的に勝ちすぎても援軍は得られず、負け過ぎても人々は絶望に飲まれる。
少し勝ちながらも、決定的ではない負けを繰り返しての撤退をしなければならない。
そんな奇跡を起こそうというプレイヤー達に本当に飯一回でいいもんかね? と思うニールであった。
「シーラ、いきますわよ?」
「カーラ、できるわ」
城壁の上で、黒いマーメイドドレスに身を包んだ2人の魔族の女性が居た。
金色と銀色の髪の2人の女性、1人がヴァイオリンを構える。
【魔力の曲】【勇気の歌】
ゆっくりとしたヴァイオリンの音色と透き通るような歌声が広がっていく。
聞く者すべての魔力を上昇させ、攻撃力を上昇させていく。
その音色に、歌声に結婚してくれーといった声援が送られる。
「じゃ、私達の番かな?」
真っ白の法衣に身を包んだあどけない少女。茶色の髪の毛を後ろで束ね、自分の身長よりも遙かに大きな杖を構えている。
くるりっと重さを感じさせない動作で杖を回し、くるくると回転させて遊ぶとビシリっと飛行する敵に杖先を突きつける。
「皆、分かってるよね??10回外したらOSEKKYOUだよ?」
ビクリっと少女の後ろに控える男達の表情が引きつる。
白い魔王と言われる撲殺同盟本来のギルドマスターの言葉。
ログに表示されたOSEKKYOUの上に変なルビが見えるのは気のせいだと信じたい。
「ふむ、いかんのぉ? ユリハ? 皆怖がってるではないかえ?」
腰まである光り輝く金色の髪、手元の扇をひらひらとさせながら、ゆったりと歩いて来る着流しを着た女性。
狐の耳と9つ大きな尻尾。少しはだけられた胸元から覗くこぼれんばかり膨らみに、白い肌に男の視線が集まる。
そんな視線を気にもせずに、ぱたりと扇を振って男達に微笑む。
「皆? 心しやれ 一番撃墜した者にご褒美とやらをとらせようかの」
ざわりっと男達がざわめく。彼女に告白して振られた男は山ほどいる。
そのほとんどが、お友達もいやじゃとばっさりと斬り伏せられたのだ。そのたった一言で男達に火がつく。
彼女の言動はロールプレイだと誰もがわかっている、わかっているがご褒美という言葉に釣られてしまうのが悲しい男の性。
「おおおお! 今こそ俺の真の力が目覚める時!」
「前世にて封じられた力がきっと」
「やればできるやればできるやればできる……」
「気合だ気合だ気合いだ」
「ご褒美……まさか夢の膝枕が?………」
「俺の右手に宿る………(ry」
「皆? バカやってないでやるよ?」
ユリハと呼ばれた白い法衣の少女が騒ぎ立てる男共に冷めた一瞥を加えてから杖を構え、一言つぶやく。
ブゥンっと鈍い起動音のようなものが聞こえ、光り輝く大小様々な魔法陣が少女の周りに広がっていく。
「さぁ! OSHIOKIの時間だよ!」
凄まじい閃光と共に、大小様々な魔法陣すべてから光の砲弾が撃ち出されていく。
高濃度の魔力が圧縮されたソレに不運にも当たってしまった魔物は凄まじい轟音と共に爆発し、欠片1つ蒸発させられていく。
50を超える魔法陣から絶え間無く放たれる光の砲弾。
(さすが白い魔王様。2つ名は伊達じゃないな)
(なぁ、毎回思うんだがこれ俺ら必要なのか?)
(クレハ様のおっぱいが見られる、それだけで居る理由は十分)
(馬鹿な、幼女こそすべて! つるぺたこそ至高! ユリハたん萌えです)
(おい、お前ら真面目に仕事しないと後で怖いぞ)
ユリハの背後に控える男達がそれぞれ形状の異なる杖を構える。
さすがにユリハと呼ばれた少女ほどの威力はないが、雷や風の刃、火球など色とりどりの攻撃魔法が飛行する魔物へと向けて放たれていく。
「では、わらわもやるかの?」
着流しの胸元に手を入れる、若干周りの視線が集まるのも仕方ないことだろう。
胸元からでてきた白い手には何枚もの呪符が握られている。
呪符から透き通るように白い指が離れると、ひらひらと風に舞い光放って呪符は雷を纏った白狐となり、弾幕の嵐の中を
軽やかに空を駆け上がり、魔物に牙立て、鋭利なツメで抉り、傷を与えてはすり抜けて消えていく。
「ふむ?我らの主殿の出撃のようじゃの? 録画しておかねばのう」
勝鬨の声を上げる城門前の広場、ゆっくりと巨大な城門が開かれていこうとしていた。
作者は男性キャラを書くのに余り慣れてませんので
女性キャラが多いです、いえ、そっちも微妙とか言っちゃだめです(びくびく
指摘等があればお願いします。
たまに、魔物の進行度みたいな感じで撲殺同盟と黒騎士中隊の話をいれようかなぁと思うのですが
本編にまぜるほうがいいのかな?
次の話のときにも説明を入れようとおもいますが
ややこしいと思うのでココニモ書いておきます。
30話はデス・ゲーム当日お昼ごろ。31話はその日の夕方近くです
次は主人公のお話にもどりますので時間軸は
30話デス・ゲームの当日朝にまでもどります。
魔王様は、なんていうか………つづきがあればエピソード?がちょっとづつでます。
武器は、素手です。
白い魔王様ことユリハちゃんは
遅延魔法による魔法の一斉展開からの大火力です。
汎用性はあまりありません。
クレハ様のは呪符魔術系統の陰陽道とかですね。
凄まじいまでの凡用性を誇りますが、いろいろと欠点も多いです。
あとRCOの戦争は1000:1000です。
そのなかでトップギルドの1つが、総勢で604名しかいません。
デス・ゲームに残っていなかったのではなく、全員でです。
戦闘力の高さという意味では、ダントツです。




