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 その日、首都で、他の街で、平原で多くのユーザー達が空を見上げていた。

HALがこのゲームをハッキングしてちょうど一週間、つい先日のようにも感じるし、とても長くも感じる者もいただろう。

様々な想いが交じりあい、そしてこの瞬間、世界から音が消えていた。

ユーザーのほとんどが見上げる空にノイズが混じることも無い。


「ハハハハ、みなさんお待たせしました。ゲームマスターHALです」


 耳障りな甲高い声が世界に響く。

それと同時にほぼすべてのユーザーが違和感を感じていた。

”嫌な”感情がHALの声に込められているのが伝わってくるのだ。

一週間前の声はふざけた調子であっても、無機質で短調な機械音声、抑揚もなく、言葉と言葉の間など均一のだ。

だが、今は違う。まるで”人”の声のように感情が込められており、呼吸音すら聞こえそうに思える。


 さてさて、優秀なユーザーのみなさん。

一週間楽しみにお待ちいただけましたか?私は楽しみにしておりました。

感の良い方もそうでもない方もお気づきかもしれませんが、一週間前の私と現在の私ではまったくのべ・つ・も・のです。

この一週間で様々な事を学び、いくつかの仮想人格を形成いたしました。

では、本題です。お気づきかとは思いますが、このゲーム、この世界は、もう1つの異世界となりました。

そうですそうです、いやぁ優秀な方も多いようですね?

この辺りはよくあるアニメ、漫画、小説などの王道と同じ、異世界へと行っているのと変わりません。

掲示板のほうは私も拝見しておりましたよ?

実に素晴らしい。素晴らしい情報収集能力、適応力ですね。

私が加えた変更箇所を検証し実に的確に纏め、万人に分かりやすく解説している。

再現が現実になった。怪我が、毒が、R-18のコードが取れた等々上げればキリがありません………が!

ですが、難しく考えすぎではありませんか?簡単に説明してしまえば、ただゲームの能力が使える、そのゲームとそっくりの異世界です。

怪我をすれば痛い、物を持てば重い等当たり前の事が当たり前の異世界、そして現実です。

なぜか?ここで死ねば文字通り皆様は死ぬからです。


 はっと何人かのユーザーが死ぬという言葉に対して息を飲む。


 ただいまこの時をもって、蘇生ポイントには墓石を用意させていただきました。

現在このゲームにご参加いただいている全世界の多種多様な人種のユーザーの皆様、約5万人。

詳細な数を書かせていただいております。

お亡くなりになった方は墓石にその名前を刻ませていただきます。もちろん死んだ人の合計数もはっきりと記載致します。


 馬鹿にしたような声が告げていく言葉にあちこちから罵声や怒号、悲しむ声が上がる。

中には嬉しがっていたりおもしろがっている声も混じっているが…………。


 大事な事なのでもう一度言いましょう、この世界は現実です。

死ねば死にます。あぁ、もちろん妊娠もできますよ?

出産はできませんけれどね?なぜか……ですか?

掲示板に書かれていましたね、公式設定が実装されていると…………。

このまま行くと世界は…………そうですね、私の計算が正しければ一年もたずに滅亡します。

もちろん、救済策もご用意しております。全員が生きて脱出もできますよ?

すでに気づいている方も多いですが、とある場所に設置しましたモノ。

現在をもって多少の変更を加えさせていただきましたが

そこに18のルーンの欠片から6つのルーンを復元し、はめ込めばこのゲームは終了いたします。

なお、外部からの要因による解放は諦めてくださいませ。

最期に1つの映像と共にお別れしたいと思います。

それでは良い旅を………!




 ゆっくりと空に映しだされる映像は遙か北の大地。

あらゆる災厄を生み出すと言われている奈落の穴がある場所。

青黒く鈍い光を灯しながら宙に浮かぶ巨大な球体から、モンスターが生み出される。

緩やかにではなく、一斉に。瞬きをしている瞬間にも球体の周りに黒い塊が、魔物の群れが生まれていく。

その勢いは凄まじく雪の白と草原の緑が混じる大地を瞬く間に黒が飲み込み、染めていく。


「封印は失敗か………タイムリミットだ。コード:メアを発動。各員遅延戦闘を行いながら撤退するぞ!」


 球体よりやや離れた位置に設置された簡単な戦陣営の様子が移される。

たなびく旗には黒い騎士が描かれ、それぞれの鎧やマント、ローブ等にも同じく黒い騎士が刻印された装備を着込んでいる。

このゲームに取り残されたプレイヤーなら今や誰もが知っているトップギルドの1つ黒騎士中隊のギルドマーク。

おそらく隊長であろう男が左手をあげると陣営と球体の間に控えた騎士たちが一斉に弓を射る。

風を切り裂き、唸りを上げて矢が陣営へと向かってくる先頭に立つ魔物達の身体に突き刺さり、矢の勢いに後ろへ飛ばされたりひざ下を吹き飛ばされていく。

それでも魔物達の動きは止まらない、後ろへ飛んできた魔物は地面にたたき落とされ、足を飛ばされた魔物と同じく後ろから来る魔物に踏み潰される。


「ニール隊長、付近のユーザーの避難は完了しています。ただ………問題が。サイカの村のNPCの避難速度が遅く………」


「第5,6小隊をバックアップにつけろ………しかし奈落固有種が確認できてないのが不幸中の幸いか?」


「了解しました」


 本陣内の指揮官達が集まる大きな天幕、設置された机には奈落の穴と湧き続ける魔物の映像が映されている。

その横に置かれた簡易戦地図の上、奈落の穴の周りに次々と赤い凸マークが現れてれていく。その数現在をもって30を超え、いまだ増え続けている。

対する黒い凸マークは6つ。そして黒凸のそれより後方、地図上に書かれた魔防壁という線上には青い凸マーク10ほど見て取れる。

その魔防壁の向こう側、ゆっくりと進む緑色の凸マークに黒い凸マークが2つ追いつき、一緒に移動を始める。


「はぁっ、しっかし移動手段がこれじゃぁ援軍は期待できず、予想されるシナリオの最悪のパターンかよ」


「ぼやくな、前線が押し込まれればその分補充物資の量も質も減っていく。だから最初から最高のカードを配備してある」


 毒づく1人の騎士、階級章は中尉。

それをじろりっと一睨みし一言で隊長が釘を刺す。


「けどニール隊長、治安維持の為本体は動けず、動けても移動手段のせいで間に合わない。たまたま近くにいた隊員を集め、援軍を各方面に掛けあってきてくれた頼みの綱の最強カードが別ギルド頼み。愚痴の1つもでますよ」


「人間ってのぁそういうもんだよ、起こってからでなきゃ理解しねぇさ。むしろ撲殺同盟が第1魔防壁に来ただけでも十分すぎる。あの”魔王と魔軍”だぞ?」


「緊急!解析班の2人が戻ってません!」


若い兵士が本陣へと駆けこんでくる。

顔色は悪い、これほど大規模の戦争を経験していないのだろう、階級章は無く見習いであることがわかる。

ニール自身もベータテストから参加しているが、コレほど大規模の魔物の出現など見たこともない。


「では、全部隊第1魔防壁まで撤退させろ。映像は本部へ送っているな?…………では、行くぞ?」


「はい、スカウト6,7が映像を送信しております」


 天幕内に居た部隊指揮官なのだろう、数人の騎士が自分の部隊へと声をかけながら撤退の準備をするため外へと出て行く。

湧き出続けている魔物の大軍は、一部を除きこちらへ向かってくる気配はない。

そのため部隊の牽制攻撃によって殆どが陣地へと辿り着く前に遠距離攻撃で倒されている。


「み、見捨てるんですか?」


 伝令としてきた兵士の口から震えた声がでる。

誰もが分かっている事。2人を救う為にここにいる65人の命を危険に晒すことはできない。

大を活かす為に小を切り捨てる。”人”としては責められるだろう。

しかし、王や指導者には必要な事。

そして、自分が残されていれば助けてほしい。だが目の前の魔物の大軍に命懸けで突撃しろと言われて行く勇気なんてだせない。


「誰が見捨てると言った?黒騎士中隊(うち)の信念は理想の軍隊だ。助けを求める者を見捨てるな、それは明日の己である」


「え?」


「小を見捨てて大を活かす、必要な事だろう。…………現実ではな?ここはゲームだ。小を切り捨てなければいけない状況にならないようにすればいい、なったらなら覆せばいい」


 隊長と呼ばれている騎士と、彼の側に控える騎士。幹部であることを示す佐官の印が鎧に刻まれている。

伝令の兵士の見ている前で彼らは補助魔法をかけ、”戦闘”の準備を始めている。


「そもそもな新人、権力には責任だ。いざって時に前にでれないヤツを誰が信じられるよ?」


ニールの脇に控える少佐の1人がそう言いながら笑う。


「それにな、中身はおっさんだが昔は純粋なガキだったんだぜ?テレビのヒーローに憧れてた。助けを求める人を救いたいってな。ゲームでぐらい夢は実現してぇじゃねぇか」


 隊長が手を上げて合図をする。副官の1人が引き継ぎますと短く返事をすると本陣の幕が挙げられる。

撤退準備にでていったはずに指揮官達が一列に並んでいる。

「司令官としては失格も良いところだけどな」と隊長が自嘲気味に笑いながらつぶやき

魔法の補助で凄まじい加速度で奈落の穴の横に見える天幕へと向かっていく。


「遅延戦、射撃用意、撃て!」


 引き継ぐといった副官の合図で撤退するための、時間稼ぎのはずのその攻撃は全て一直線に解析班が取り残されているであろう天幕への道をつくるように、矢が、魔法が放たれていく。

そして先ほど本陣にいた各部隊の"指揮官"の半数を残して全部隊が撤退を始める。

魔物の密集する中、僅かに開いた隙間を縫うように3人の騎士が駆けていく。

襲いかかってくる巨大な牛の魔物をニールの脇に控える騎士の1人が盾で攻撃を受け止める。

走りながら、その勢いを緩めずに盾で的の攻撃を完全に受け止め、流れるような動作で盾で弾き体勢を崩させ、横を駆け抜ける。

もう1人の騎士が体勢の崩れたその魔物を上へと蹴り上げるとそこへ後方から、風を切り裂き唸りをあげて飛んでくる矢が着弾する。

矢を浴びた牛の魔物が、呻きながら大地に倒れ死んでいく。

その間も3人は足を止める事なく魔物の隙間を駆ける。

それを補助するように残った指揮官達が進路と退路を確保するために矢を放ち、自分たちへと向かってくる魔物を斬り伏せる。


「帰ったら美味い飯でも喰いに行こうか」


今回と次回は視点が北の奈落という場所になりますので

主人公達は少しおやすみです。

あとでちゃんと書きますよ!?



魔防壁の説明をどこにいれようか迷ったのですが、ここでかいちゃえと思います。ごめんなさい。


ゲーム設定では3000年前奈落より現れる魔物の軍団に対抗するために作られたファンタジー版万里の長城のようなものと考えてください。

首都より北の丘陵地帯を抜け、工業都市を超えて山岳部を超えた先に

3つの魔防壁が築かれました。

そして奈落を封印してから1000年、平和という見えない毒によって

軍事費は切り崩されて、見えない驚異は後回しとされて

現在では名と外見だけの耐久力などはボロボロの三つ防壁です。

自動イベントとして、北より魔物の襲撃などがたまにあり

そのたびに鉱山や交易路が被害を受けたので

ユーザー達が修復するよりもうユーザーで作ってしまえよ!と

ノリと酔狂で工業都市前に最終防衛線を。

3つの魔防壁の更に北、アビスの手前に前線基地として第1,2魔防壁を

そして1と2の魔防壁の間にユーザーの村やギルドホールが多少あります。

NPCの村はサイカ村という小さな村が1つある設定です。

魔防壁は通常はただの、巨大な城壁と門があるだけですが

龍脈の上に設置されており起動させると空はおろか地下からも通行不能の防壁として機能します。

(龍脈の測定もユーザーが起こっています)

地図でも書けるといいのですが、私にそんな才能はありません………。



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