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とりあえず、現状確認ということでベンチに座ってメニューコマンドを呼び出す。
相変わらずログアウトボタンは灰色のままだ。
マップは表示されているし問題は無い。スキルや技能、魔法なんかも影響は無い。
アイテム欄からアイテムの出し入れも可能。
課金機能である銀行へ行かなくても銀行倉庫開ける機能、うんコレも問題はない。中身もきちんとある。
あれ?特にログアウト出来ない以外で問題は無いのか?
目の前ではマッセが恐らく知り合いに念話を送っているのだろう、時々声がこぼれてくる。
「やから、部屋を………そうか……」
「…………せやけど、男と同室は…………」
周囲に居た他のプレイヤーの姿はもう無い。アレほど居た露天商達もほとんど居ない。
一部残って今のうちだよ!と食料品等を売りさばこうとしているプレイヤーもいるようだが。
商魂たくましいな。
「ティセ、そっちはどうなん?」
「ん?何が?」
「寝る場所や寝る場所。まさか野宿するとか言わへんよね?」
ぁぁ、そうか。ログアウト出来ないってことは、ゲーム内で寝る必要がある。
RCOは、住居やギルドホールはぜいたく品。宿屋の部屋数もソコまでは多く無い。
現状で何人のプレイヤーが残っているのか分からないが、絶対に部屋は足りない。
「うちくる?あ、部屋は別だからね」
「へ??良いん?っていうかティセって家持ちやってん?」
こっちへ振り向いて、顔近づけて覗き込んでくるマッセ。
「いや、顔近いから。襲うよ?」
ふにふにとマッセの頬を突付く。
「またかいな、俺男なんだ!ってこんな時まで冗談はよいって」
けらけらと笑いながら、肩を叩くマッセ。いや、それが普通の反応なんだけどさ?男なんだよねぇ。
「ま、んじゃ行こうか?」
「ティセは、何してたん?こっちは念話でフレンドに部屋の交渉しててんやけどさ?」
横に並んで石畳を歩く。中世の街並みが再現された首都。いつもは人と露天商でごった返すメインストリート。
今日は慌ただしく走りまわるプレイヤーがまばらに見えるだけ。
「メニューとか銀行とか使えるモノのチェック。物資は大事だしね?」
「さすが冷静やねぇ、あ、食料とかどないするん?NPCの店で買うてく?」
「考える事は一緒だと思うよ?きっと在庫尽きてるはず。ほら」
指差すとNPCの露店前には人だかりが出来ている。
1日の入荷量は決まっているから、恐らく集まっている連中は半分も買えないだろう。
「けど、空腹ってどないなるんやろ?いつもの空腹ペナルティなら問題あらへんやん?」
「確かに他はお腹減るのが辛いだけだけどさ?万一餓死とかあったら最悪じゃ? ――――っと、ここだよ」
メイン通りにある白いレンガで作られた店。
店の前には「雑貨屋 白と黒」 営業時間 店主の気まぐれと書かれた木の看板が置かれている。
「へ?ここなん?ほんまに?」
「そだよ?」
手を伸ばすとドアノブに小さな魔法陣が浮かんで、カチャリと音がする。
「ただいまっと」
「いやいや、ここってアレやろ?アノ雑貨屋やろ?ティセってなにもんなん?」
ドアを開けて入ると中央にテーブル、正面にカウンターと店主用の椅子、テーブルがあり、左手に商品棚が置かれている。
「ん?店主だよ?」
ブォンっと機械音がして、黄土色の西洋甲冑ががちゃりっと音をたてて動き出す。
「お帰りなさいマスター」
「………ちょ、ティセ。あんたほんまに……ちゃんと事情説明してや???」
はぁっとため息を付いて腕を組むマッセ。うーん、相変わらず胸でっかいなぁ。
「カウンターの奥から2階に行けるから、正面の部屋以外ならどこ使ってもいいよ」
「助かるわ、ほな荷物おいてくる。事情説明してもらうで???」
じっとこちらを睨んで念押ししてから階段を上がっていくマッセ。
「ん~~これからどうしようか?」
椅子に座るとメニューを再び表示する。
外部サイトへのアクセスはもちろん不可能か……、ゲーム内の掲示板は使える。
フレンド機能もまだ使えるか………ん、みんな殆どログアウトできてる様だね。
あとは離席中と多忙……ね、まぁ暇じゃないよねぇ。
ドタドタと足音がしてマッセが階段を駆け下りてくる
「あぶないよ?」
「それはええねん、それより事情説明してもらうで?」
Tシャツにズボン姿になったマッセ。なんていうか、胸が凶悪な気がしますが………。
青少年に悪影響を及ぼすよ!凶器だよ。
「マッセって髪長かったんだね」
「いつもバンダナ巻いてるさかいね~って、ちゃうねん。そんなんええねん、説明や、説明」
「といってもねぇ?」
「ええか?ここはあ・の・雑貨屋やで?精霊姫と黒盾姫が店主っていう」
「うん、で、もう1人の店主(どやぁ」
自分を指差してどや顔をしてみる。
「普通にかわええドヤ顔やけどってちゃうねん、ティセのギルドってその2人とは違うやん?知り合いなん?」
「親友?かな」
さすがに同一人物でサブキャラです。でもって俺は開発者ですとは言えない。というか、そんな事ばれたら怖い。
マッセは怖くなくても、他のプレイヤーから何言われるかわからない。
「………まぁええわ。ティセやし。ちょっとやそっとやったら驚かんへんし」
「オチャヲドウゾ」
ことんっとどうやって持っているのかと突っ込みたくなるような動作で西洋鎧の店番が目の前に紅茶を置く。
「………ヘルアーマーが店主代行で紅茶いれるとかシュールすぎやろ?」
「結構美味しいよ?」
砂糖を3つ、レモンを一滴。スプーンでくるくると混ぜる、匂いを嗅いで………
ふーふーと息を吹きかけてから両手でカップを持って飲む。
うん美味しい。
「………なんやの、この乙女空間。なんでそんな可愛らしいねん。しかも猫舌かいな」
「けど冷めると美味しくないっていうね?」
「これでほんまに男やったら女として自信なくすわ」
「男だって言ってるじゃん」
「はいはい、ほれでこれからどないするん?」
「ん~悠々引きこもり自堕落生活?」
はぁぁっと大きくため息を疲れる。
「ダメ人間になるでティセ?冒険にでるとか、クリア条件を探すとかしいひんの?」
「そういうのは、選ばれた主人公補正を持っている人に任せる。痛いのイヤ。よくあるデスゲームで死にたくもない」
「そりゃウチもそーやけどさ?どうなんやろ?栄養は問題ないとしても、運動せーへんと痩せたり太ったり影響あるんやろか?」
そういう所を気にするほうが女の子らしいと思うんだけどなぁ。
「んー?引きこもり生活が駄目なら適当に商品つくって雑貨屋しようか」
「せやね、たしかにウチは商人系やしNPCから仕入れもできるし、それが無難やね。けど、うち加工はできへんで?ティセは何か作れる?」
「大体作れる」
「…………戦闘中はカッコエエのに、普段のティセとしゃべると疲れるわ。ほんまに?」
「全部生産スキルはマスターしてるよ?」
「………全部って時間どんだけかかる思てん?金で解決するにも額ありえへんで?」
「深い事はツッコミなしで宜しく!ま、ほら。暇つぶしで延々とスキルあげしてたら大抵できてさ」
「まぁええわ……うち今日はもう寝るわ、今後の予定は明日でええかな?」
んんっと両腕を伸ばして背伸びをするマッセ。だから胸が強調されすぎっていうか白のシャツは駄目だろ。下着透けてる。
「こっちはお昼まで寝るから」
「ほいな、こっちは適当に知り合いから情報集めて見とくわ」
マッセと並んで2階へと上がっていく、ん?女の子の匂いっていうんだろうか?っていうか、あれ?体臭とかって無いはずなんだが。
一部の香水アイテムはこんな匂いしない。もっとこう、エグイ匂いだし。
まぁ、明日でいいや。眠いし寝よう。
部屋に戻って鎧をはずす…………あぁ!!女の身体じゃん!
ログアウト出来ないと色々不便じゃないのか?!
うわぁ、どうするんだコレ?深く考えてなかったから、全然気にしてなかったが……。
って、下着が外せる。いや、まて、なんで外せる?ロック掛かってるし、データがないから脱げないはずだぞ。
仕様変更がどうのっていってたヤツか?ぇーっっと………むぅ、いかん、鏡で自分の裸にうっとりしてる場合じゃない。
シャツとズボン着て寝よう、明日から頑張るという事で1つお願いします。