25
ゆっくりと、スローモーションのように動くスケルトンとゾンビ達。
振り上げられた白骨の腕が振り下ろされるまでにルー君の振るった剣が骨を切断し、砕いていく。
骨に触れる直前に剣が青白い光を帯びて、スケルトンの腕を切断した瞬間にその光は消える。
最後のスケルトンが、その存在を維持できなくなり、乾いた音をたてて骨が崩れ落ちて地面散らばって、ただの骨へと戻る。
「どうでしたか?」
2人で何か言葉をかわさずとも、カタコンベの入り口のほうへと向かって2人で並んで歩きながら
ルー君がこちらを見上げてきいてくる。
どうでした?どころじゃないんだけど…………、ルー君の剣が敵に当たる瞬間に青白く光っていたのは
【魔力付加】(エンチャント・マジック)を敵に当たる瞬間に発動し、攻撃が終われば解除する。
という単純な物だけど、
常時発動型のスキルや魔法で、発動時にコストが無い場合スキルの維持費がかなりかわる。
例えばモンスターと10秒戦闘するとして、10秒間常に攻撃しているわけじゃないから
攻撃の当たる瞬間の1秒や2秒だけ発動させれば、残り8秒分のコストが浮くし、使用したスタミナや魔力が自然回復もする。
けれど、それを意識すれば動きがぎこちなくなるし、変に力がはいったり、意識が逸れる。
私だって、無意識にソレができるようになるまでどれだけ努力したか…………。
「ルー君の才能に嫉妬するよ?」
「へ?」
私の言葉に意味がわからず、きょとんとした顔で見上げたまま固まるルー君。
「や、だってちゃんとエンチャントのオンとオフ自然に切り替えてたでしょ?」
「はい。チュートリアルで、近接職の初歩!って魔力付与の説明が有ったときに攻撃する瞬間にオン、終わった瞬間にオフにできると効率が全然ちがうって」
うん、たしかに効率は全然違う、違うけれどそんな単純なモノじゃないよ?
集中してる動作の途中で、別の事を考えるっていうのは、すごく難しい。こればかりはいくら練習してもできない人がいる。
チュートリアルでも、凄く難しくどうしても出来ない人もいるので、無理にしようとすると逆に戦闘がしずらいですって注意もいれたよ………?
「けど、難しい事だからね?」
なんだか悔しくて、うりうりと頭を強めに撫でる。
私だって出来るようになるまで必死に努力して数週間はかかったのに………。
ゲームを初めて数日で使いこなせる、なんだろう?すごく虚脱感というのかな?
敗北感というか、自分は才能がないのだろうかと思う
けれど好きなゲームで負けたくは無いと思う自分もいて、なんとも複雑な心境。
「うにゃ」
幸せそうな顔で頭をなでられるルー君、むぅ………。
思わず、可愛いなぁとにっこりと微笑みながらルー君を見つめ返す。
墓地の真ん中、小高い丘の裏に作られた石門、その両脇には石柱が立ち、冥府の女神の下僕たる黒狼の石像が座している。
門を開くのは簡単で、それぞれの石柱の中程にある髑髏を押せばいい。
ガコンっと柱の中で歯車の音がして、石で作られた門が音をたててゆっくりと開いていく。
ぞわりっと背筋の寒くなるような気配、生ぬるい風が内側から吹出し、悲鳴のような笑い声が響き渡る。
「凄い………ところですね」
「そうだね、恐怖に慣れさせるっていう意味もあるらしいからね、此処」
想像してほしい、仮想空間で本物と変わらないゾンビやスケルトンが襲ってくる。
そのへんのお化け屋敷の比じゃないんだよ?、例に出せばもちろん虫の多い場所などもあるわけで…………。
そんなフィールドやダンジョンではむさ苦しいPTばかりだったなぁ、あの時は凄く浮いてたし。
2人が門の内側に足を踏み入れて、数歩踏み出した所で音をたてて石門が閉じられる、恐怖を煽るために、ご丁寧にガチリっと鍵の閉まる音までが聞こえる。
石作りの地下墓地内の空気は埃っぽく、かび臭い匂いがする。
「目的地は地下3階降りてすぐのところだよ」
「はい、…………?」
ルー君が返事をした後、少しの間をおいて不思議そうな表情でこちらを見上げて、少し首を傾げている。
「ん?どしたの?」
「ぁ、いえ………その、感じが違うなぁって……夜だとこんな感じになるんですか?」
確かに自分で鏡を見ていても昼と夜ではまるっきり別人だ。
まぁなんていうんだろう、日中はどうしても気だるいし、身体が重い。
夜になれば身体中に生気が満ちるし、髪の毛までが淡く輝くような色になる………。
「お昼と夜じゃ全然能力も違うからね、逆に昼の方が強い人とかもいるし」
「ティセリアさんの種族はなんなんですか?」
「ヴァンパイアだよ?」
一瞬時間が止まる、無言でこっちを見つめたまま止まるルー君。
なんだろう?ヴァンパイアにトラウマでもあったりとか?
そういえば、人に種族を聞かれたら夜魔だとかデモニクスだとか嘘ついてたなぁ………、まぁルー君だしいっか。
「そうなん………ですか?」
こちらを見上げたまま、何か、いやたぶん私の正体に行き当たったんだろう。
正体不明の真祖の3人目、それぞれ3人が自重して戦争や闘技場にはでないほどの圧倒的な戦力。
ルー君が何か言おうと口をひらきかけた所で、カタカタと乾いた音が響いてくる。
通路の曲がり角から外で出会ったスケルトンがボロボロの鎧をまとい、錆びてぼろぼろになった剣を引き摺りながら
のろのろとこちらへ向かって歩いて来る。
「適当に援護はするから、がんばってね?コレに勝てるのが(中級者の)最低条件だから」
「はい!頑張ります」
張り切ったよく通る声で無駄に元気な返事をするルー君。
やっぱり駆け出しの卒業、中級者の成り立てといっても初心者とか駆け出しと言われないって事には憧れるのかな?
ルー君も男の子なんだなぁと思いながら数歩前にでて剣を構えるルー君を見る。
「穿て 黒き雷の槍よ」
【黒き雷鳴】
構えた指先から蒼黒い雷が数本走って、スケルトンソルジャーに直撃する。
乾いた音と共に鎧が、骨が飛び散り、一体を残してただの骨くずへと戻って行く。
ルー君と5Mほどの距離にいるスケルトンソルジャーがのたのたと歩きながら、スローモーションのように剣をもった手をあげる。
そして、ゆっくりと数歩踏み出し、足が地についた瞬間にがしゃっと言う音、続く2歩目は強く石の床を踏みこみ、蹴る。
スローモーションが一瞬で早送りになったような瞬きするほどの一瞬で床を蹴り、刺突の構えで一気に距離を詰めていくスケルトンソルジャー。
ガキィンっと金属音が響く、突き込まれたぼろぼろの剣をほとんど力を込めることなく、綺麗にルー君の剣が力の進行方向をかえさせ
逸れたスケルトンソルジャーの剣が壁に当たって砕けていた。
剣が逸れると同時に踏み込んだルー君の剣がスケルトンソルジャーの背骨に鎧の隙間から叩き込まれ、パキンという音と共にあっさりとへし折られ
瘴気を帯びた骨の兵士は、ただの骨となって崩れ落ちていく。
………うそん?
どこで読んだんだっけ?人間っていうのは慣れる、だから徐々に早くなるなら目がそれに慣れる。
だから、このカタコンベの外にはわざと弱いスケルトンやゾンビがいて
そのまま、カタコンベへ入ってくるとノロノロとしたスケルトンソルジャーに油断する。
仮に油断していなくても、距離と動作のにぶさから相手を侮る。
なのに、完全に横に逸らして武器で壁を叩かせて、カウンターで一撃って何?
レベルが高いなら、補正でできるかもしれない、けどルー君はさっき外での戦闘で上がってレベル14
スケルトンソルジャーはレベル12、しかもHALだっけの強化で恐らく20相当。
弱点を狙ってクリティカルヒット?いやいや、狙えるの?あの速さで動いてる骨を?
「ティセリアさん、どうですか?」
声をかけてはっと我に返る、あははは、思考に海に沈んでたよ。
ルー君を見ると試験を終えて先生の評価を待つというのとはちょっとちがう?
告白の返事を待つように頬を少しそめて恥ずかしそうに待っている。
戦闘直後で高揚してるのかな?
「うん、すごいね。適当に援護はするからこのまま、3階層までいこっか。あ、あとティセでいいよ?」
「ふぇ?ぇ………ぁ、あう、その…………ぇと、ティ、ティ、ティセ……さん?」
耳まで真っ赤に染めて、何度かためらい舌を縺れさせながら名前で呼ぶ。
それでも恥ずかしさに負けて、最後の最後でさんづけになってしまう。
「うん、"さん”はいらないんだけどなぁ。ほら、いくよ?」
マッセとか仲の良い皆はティセって呼ぶしと心の中でつぶやく。
薄暗い地下墓地の通路の向こう側、赤黒い瘴気溜りが発生し、骨が寄り集まってスケルトンソルジャーとなるのがティセリアには見える。
とりあえず、致命的な誤字脱字等のミス以外の大きな表現などの改稿は、あとで纏めてということに………。
はい、すいません、明日から頑張る的なノリで申し訳ないです。
誤字脱字や、文法なんかおかしな所はどんどん指摘してくださると助かります。
永遠と延々とかよくやってしまいます。
ティセリアは基本、努力と経験と積み重ねによるものです。
現代っ子が説明書なしにゲームをできるようにゲーム慣れもありますが。
あと、キャラクターのスペックもあって強いです。
これといって特殊な才能やら視力がよかったりというのはありません。
RCOをしていれば、誰もいつかは手に入るスペックです。
なので、ルー君の才能?に
壁というか、なんともいえない違いを感じたという。
ルー君は、リアルステータスを見れば天才3とか主人公補正レベル5とかついていそうです。
あと、年上殺しレベル5とか、ショタっ子キラーとかももってそうです。
ただ、彼もゲーム内では苦労していませんが、リアルではそれなりに研鑽を積んでます。
そのあたりは、たぶん話が進めばきちんと明かされる予定……
がんばります。
ちなみにルー君は最低条件を
交際の最低条件ととっていますw
最後にいつも感想とかありがとうございます。
とても励みになります。