24
部屋に置かれた大きな姿見。
その前でティセリアが格好をじぃっと見ながらおかしな所は無いか、チェックしている。
脛の中程まである深紅のプレートブーツ、黒革のオーバーニーに黒狼のファースカート。
上半身は、ぴったりとしたアンダーシャツの上に同じく貼りつくようなチェインメイル
その上に胸甲と肩当の付いた黒と深紅のアーマードレス、腕には少し刺々しい黒鉄の小手。
悪だとかダークエルフといった言葉が合うような格好だが、着ているのはティセリアで
唯一肌が見えるのは、太腿だけ、それも着ている物が黒や深紅なせいで、白い素肌が強調されている。
*****
どうみても勝負服、けれどティセリアにその自覚は無く
これから行く地下墓地に適した装備の中から、無意識に選んでいる。
深紅のプレートブーツは、魔法抵抗にボーナスがつき、倒れたアンデットを踏み砕くのに使える。
黒革のオーバーニーは、呪いに対しての抵抗ボーナスと闇属性への抵抗力がある。
黒狼のファースカートも同じく。
鎧下にきるチェインメイルは、プレートで吸収できない衝撃を緩和する付加がついているし
黒を基調としたアーマードレスは、魔法詠唱と魔力ボーナス、闇耐性が…………。
ただし、ティセリアの種族を思い出してほしい。
そう、ヴァンパイア、吸血鬼、不死者の王の異名を取る種族。
闇や呪いに対しての抵抗力と魔法抵抗力はかなり高く、レベルによる種族ボーナスでの補強でほぼ無効化する。
早い話、地下墓地へ行くなら、いつもの戦闘着でよかったというのはここだけのお話。
*****
ルー君の待っている南門へと向かう。
以前ほどではないけど、活気を取り戻した露店通りを歩いているとチラチラとこっちを伺う視線のようなものを感じる。
視線を感じて振り返っても誰もこっちを見ていない。
それでも視線を戻して歩き始めると、誰かに見られている気がして
少しうつむき加減でおどおどとしたような歩き方になってしまう。
「うーーん?」
どこか変なんだろうか?
近くの店のガラスを覗き込んで、そこに写る自分の格好をチェックする。
うーーーん、変な所はない………よねぇ?
男だから女の格好の常識とかは知らないけど…………。
ガラス越しにやはり、ちらちらと道行くプレイヤーがこちらを見てくるのが確認できる。
気のせいじゃないみたい、けど女性プレイヤーだけじゃなくて男性プレイヤーのほうが見てる?
ぅーん、考えてもわからないし、しょうがないかな?そんなに変ならルー君に会った時に教えてくれるだろうし。
なるべく気にしないように、気にしないようにと思い、凄く人の視線を気にしながら南門へと向かう。
時間は待ち合わせの15分前、はやく着きすぎたかな?と思っていると、近くのガラスをみて髪を触っているルー君が見えて
思わず笑みがこぼれてしまう、やっぱり誰かと出かける時はみんな気にするんだね。
「ルー君、お待たせ」
「ぁ、ティセリアさん、今き………」
そういって声をかけると、ルー君が振り向いて、そのまま硬直する。
時間でも止まったかのように、まったく動かない、そんなに変な格好だったんだろうか?
「ルー君、どこか変かな?あんまりこういう(女物の)格好慣れてなくて………」
「ぁ………、いえ、全然大丈夫です、変じゃないですよ?その……すごく綺麗ですよ?」
しょんぼりとしながら声をかけると、真っ赤になって手をぱたぱたとさせながら、ルー君がそう言ってくれる。
むぅ、なんだろう、この可愛さは?これで男の子だっていうんだからヒドイ話だと思う!
思わず抱きしめたくなる衝動を必死に抑える。
「それじゃ行こうか?」
「はい!」
ゆっくりと2人並んで歩く。
首都から南東、岩場の間の道を抜け、朽ちた墓石の並ぶ間を歩いて行く
まだ日没で無いにも関わらず、日は陰り、辺りは少し薄暗い………。
「ルー君、武器には魔法攻撃と物理攻撃の値がそれぞれあるのは知ってるよね?属性付与した場合ややこしいんだけど、知ってる?」
「はい、えーっと付与した属性ダメージと物理ダメージの計算が別ってやつですよね?」
RCOのダメージ計算は2つに分かれる。物理か属性など魔法攻撃。
剣A、物理攻撃力100 魔法攻撃力10 剣B 物理攻撃力10 魔法攻撃力100があるとする
普段通常攻撃では、物理攻撃力しか計算に使われない。
だから、Aの場合は100の物理攻撃でBの場合は10の物理攻撃となんとも悲しいことになる。
これに属性付与したりした場合に魔法攻撃力が初めて効果を発揮する。
Aの場合100の物理攻撃ダメージに10の魔法攻撃が乗る、Bの場合は逆で10の物理攻撃ダメージに100の魔法攻撃。
ちなみに同じ敵でも魔法防御と物理防御はそれぞれ数字が違うので財力に余裕のあるプレイヤーは武器を複数持って歩く。
「んっと、アンデット系の生態っていうか情報は知ってる?」
「大丈夫です、最下級のもの以外は武器に魔力付与か属性とかでないと物理攻撃が無効化されるんですよね?」
「うんうん、属性付与とかしていないといくら物理攻撃が有っても効かないからね」
うなづくながら、見上げてくるルー君に返事を返す、調べて知っているというのがすごいなぁと思う。
普通は必要になるまで放置だったり、その場で人に聞いたりで楽にすませるのに。
「あっとは、そだね、油断しないようにね?」
「はい!」
スケルトンとか、ゾンビっていうと皆が思い浮かべるのは、ゆっくりずるずると迫って来るイメージ。
そしてRCOの最下級のスケルトンとゾンビもそんな感じでゆっくりと迫って来る、動作も鈍くカモにしか見えない。
アンデット系の初級~中級ダンジョンに位置するカタコンベに入ると、初心者殺しと言われるスケルトンソルジャーやゾンビソルジャーが出現する。
今まで鈍かった動作のスケルトンが、ゆっくりと近づいてきて後にいきなり急加速からの刺突を放ってきたらどうだろう?
反応できるプレイヤーがどれだけいるだろう?という事。
そして、それを知っていても、それなりに戦闘が出来ないと勝てない為初心者殺しという異名で呼ばれる。
それを教える事は簡単だけど、口で教えても意味はない。
だから、ギルド:初心者修練場なんかでは、あえて何も言わずにカタコンベに狩りに行かせたりする。
まだデスゲームじゃないから、言わないけど怪我すれば痛いし教えたい………。
「?」
じっと見上げてくるルー君の視線に耐えかねて、目を逸らす。
というか、首都を出てからずっと魔物の話とかそういうゲームの話ばかりで気の利いた話題も言えない。
ぅーん、何を話せばいいのだろう?何も思いつかない………マッセとかとならいつまでもしゃべれるのに………。
「ぁっ」
ボキンっと鈍い音を立てて踏んだ骨が砕ける、バランスを崩しそうになった所で
ぐっと横から引かれて、腰を抱きとめられる。
「大丈夫ですか?」
可愛らしく小さく首をかしげながらルー君が見上げてくる。
そのルー君の腕が腰に回されて、支えられている。
うわぁっうわぁっっ!?
思わず声にだしてしまいそうになって、真っ赤になる。
いやいやいや、男同士だし?!
って今日何度このやりとりを心のなかでしたんだろう?
「ぅん………ありがと」
「はい、あ、そういえばティセリアさん、いつもより調子良さそうですよね?」
にっこりと微笑まれ、思わずドキっとしてしまった。
これが噂のニコポというものですか?そういえば、外部サイトに繋げないから小説とか新しいの読めないんだよね。
「ん?あぁ、うんっとね、夜型って言えば通じるかな?種族とか種族特性とか」
「はい、魔族とか不死属とか、選択種族で夜が有利で昼が弱体されるプレイヤーの事ですよね?」
「うん」
日が陰るから、日中に受けるペナルティがほんの少しだけ緩和されてるけど
そんな細かい事、本人も気にしないような事に気づくっていい子だなぁ、気配りとかできるんだ。
うちの弟も私に似てなくて、細かいことに気がつくし、隠し事とか出来なかったなぁ………
こっちに移住してからしばらく会ってないけど元気にしてるかな?
思わず手を伸ばして、撫で撫でとルー君の頭を撫でてしまう。
「ごめん。無意識にやっちゃった…………」
「ぁ、いえっ………大丈夫ですよ?」
カタカタっと骨の鳴る音が響く、視線を横へずらすと赤黒い瘴気が集まってその中心で骨が組み立てあげられ
スケルトンが形を成していく、他にも幾つか瘴気溜りができてスケルトンが現れる。
ぼこりっと土の音がして、朽ちかけたぼろぼろの腕が地面から突き出されて、土をつかみ地面の下からゾンビがはいあがってくる。
気の弱い者なら悲鳴を上げそうな光景。
「んっと、ルー君の戦闘みてみたいから、頑張ってみてくれる?」
「はい」
小さくそう返事をすると、すらりっと金属音をさせながらルー君が剣を鞘から抜き放ち、構える。
ノリと勢いだけで書き上げました。
なかなか改稿が進められません……というか、見直ししなきゃいけないのが
書くたびに増えていくような………?
23の後半部分、ルー君からの視点を少し書き加えました。
雑貨屋よりルー君とのラブラブの割合のほうが高いような気がすごくする
そんな今日この頃………けど、このデートだって材料採集だし
大丈夫だ、問題ない(キリッ