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グロ表現があります。閲覧注意
マッセにお姫様抱っこで運ばれている。
ふっとマッセの肩越しに後ろを見る。
火口から炎が噴きあげ、熱風が叩きつける。
火山の煙に混じって見える黒く巨大な物体。
焼けた岩が射出され唸りを上げて空気を焼きながら、こちらへと飛んでくる。
咄嗟に身体が動く、マッセがバランスを崩し、地面に倒れる。
「ちょっ、ティセなにすんっ」
そこで言葉が途切れる、迫ってくる燃える岩弾が見えたのだろう。
こちらを振り返った御舟と誠一が硬直し、止まる。
地面に座り込んだマッセを抱きしめるようにしてかばう。
背中に衝撃、一瞬視界が真っ白になる。
全身の骨が軋む音、数瞬遅れて焼けるような熱風がたたきつけられる。
ジュゥっと人の皮の焼ける生臭い匂い、背の金色の髪が焼け、上着を焦がし
チェインメイルが真っ赤に熱せられて、それがインナーを焼いてティセリアの肌を焼く。
「っっっっっぁ!」
痛みで声がでない。
「ティセっっ!あんたっっ何を!」
「早く逃げろ」
絞りだすようにそれだけ言うと剣と盾を取り出す。
条件反射だろう、護衛の数人が矢を放つが刺さる事なく固い外皮に弾かれる。
獣のような咆哮が辺りに響き渡る。
盾を構えながら確認する、火口からでてきたアイアンボール。正式名称 黒曜石の魔神。
黒い外皮に炎を纏っている。5Mほどの距離があるが既にこの位置ですら熱気を感じる。
「まずい、退路が塞がれてる」
火口の頂上へと登る道を塞ぐ位置にいるアイアンボールに護衛の1人がぽつりと漏らす。
ズキズキと背中が痛む、護衛の何人かが私の背中をみて息を飲むのが聞こえる。
相当酷いのだろう。
動こうとするたびに身体の骨が軋むような音がする。
「撤退は不可能です、各員戦闘準備!!」
すくりぃむが叫ぶと弾かれたように全員が臨戦体勢をとる、誠一と御舟をのぞいた生産者が一番後ろへと下がる。
その前を護衛の数人が固め、それぞれがスキルと補助魔法を使用していく。
(マッセ、早く!!!)
空気が悲鳴を上げる音が聞こえる、轟音と共にアイアンボールの腕が振り下ろされる。
ガギィンっと金属音が響き、構えた盾が悲鳴をあげる。
盾の性能で吸収しきれなかった衝撃が突き抜けてくる。1Mほどの距離を足を着いたまま後ろへ跳ね飛ばされる。
其のまま後ろに倒れそうになるのを堪えてとどまり、マッセにターゲットが移らぬように距離を詰め
<<ブレードスラッシュ>>
振り下ろした剣が加速し、金色の軌跡を残しながら振り下ろされる。
ガキンっと鈍い音と共にアイアンボールの外皮に阻まれてダメージを与えられない。
「おい、誠一さっきみたいなのはできねぇのか」
「無理っすよ、さっきのは条件が整いすぎてたからこそ出来ただけで、今の状況じゃ目眩ましにも……」
「麗しの氷の女王にお願い申し上げる、醜きかの者にその美しき刃をもって命を散らせたまえ」
<<アイシクルエッジ>>
すくりぃむ詠唱を完了させ、魔法が発動する。
氷の斬撃がアイアンボールの横面に直撃するが、黒い外皮が氷の刃を弾きダメージが通らない。
「おいおいおい、マジかよっっ?氷弱点のはずだろ?!」
護衛の1人が叫ぶ、アイアンボールは土と火の複合属性持ち、弱点は氷。
アイアンボールが口を広げ、喉奥から光が溢れ……轟音と共に炎弾が撃ち出される。
熱された岩が炎を纏ったソレ、唸りをあげて先ほど魔法を放ったすくりぃむへと飛んでいく。
<<ブラストマイン>>
「させるかよってな」
誠一が地雷を起爆させる、地面から噴き上げる爆風が炎弾の軌道を上にずらす
すくりぃむの後ろの壁に炎弾が炸裂し爆発する。
直撃をまぬがれたとはいえ、爆発を受けて転がっていくすくりぃむを仲間が助け起こし、後ろへ下がらせてヒールを受けさせる。
そちらへ注意が向いたのか、ズシンっと重い足を踏み出したアイアンボールの前を塞ぐように立つ。
「行かせるとでも?」
身体中が軋み、悲鳴を上げている。背中は引きつるような感覚と熱を持って身体を蝕んでくる。
HPは3割ほどしか減っていないにも関わらず、重傷だ。
先ほどの打撃を盾で受けた左手は痺れて力がはいらない。
おかしい、異常すぎる。
いくら強化されたとはいえ、アイアンボールは中級クラスのボス。
ここまで強くはないし、いま来ている鎧の防御を超えるはずは……。
いや、そんな事今はどうでもいい、いくら相手が強かろうが
それでもここから先に行かせるわけにはいかない。
「いかんな、皆恐怖で動けんか………」
御舟がそう零す、目の前での爆発とその爆風で痛手を負った仲間。
皮膚の焦げた匂いと血を流すすくりぃむを見て恐慌状態になっていないのが不思議な程である。
何人かは真っ青になって、立ち尽くしている。
そう零した御舟自身も膝を震わせている。
盾で攻撃を受け流し、受け止める度に吹き飛ばされそうになる。
幾度と無くスキルを使用し、剣を叩きつけるが、アイアンボールのHPが減っていない。
ブゥンっと振動音、アイアンボールの右腕が赤く光る。
そして轟音と共に腕が振り下ろされ、こちらへと迫ってくる。
まずい、コレは避けられない。
盾でも防げない……死ぬかな?そう思いながら盾を構える。
「うちのティセになにしてんねん!!!」
ハルバードの斧の部分を巨大にしたようなバトルアクスをマッセが体重をのせ、振り下ろす。
ガギィンっっと火花が飛び散り、外皮装甲が僅かに欠ける。
振り下ろされた斧の衝撃で、アイアンボールの腕が下がり、ティセリアの目の前の地面をえぐる。
爆音と共に地面が爆砕し、衝撃波でマッセもティセリアも吹き飛ばされていく。
「くぁっっ、めちゃくちゃだ」
あちこちに飛んだ石の破片で傷をつくりながらもすぐに立ち上がる。
衝撃波で吹き飛ばされ、転がったマッセの真横に立つアイアンボール。
振り上げる両腕が見える。
やばい、間に合わない。距離が遠い!!!
視界の隅で黒いものが見える、そして一筋の閃光。
放たれた白い槍が、風を切り裂き唸りをあげながらアイアンボールの脇腹に突き刺さる。
ぐらりっと揺らいでアイアンボールが膝をつく。
その隙にマッセを抱えて引っ張る、
走ってきた護衛の1人がマッセを抱えて後ろに下がらせる。
ズシンっと地響きと共に大地を踏みしめ、立ち直したアイアンボール。
その前にひらりっと青い戦鎧を着込んだ人物が着地する。
ヒールをうけながらマッセが叫ぶ。
「あ、姉貴っっ?!なんでここにいるんや?」
「不出来な妹を助けに来た以外に無い」
アイアンボールにするりっと歩み寄ると刺さった槍を引きぬき、
振るわれた腕を回避し金色の髪をなびかせて後ろへと飛んで着地する。
「しかし、アイアンボールにこれほどの防御があったはずはないのだが……」
「誰か炎魔法でも限界を超えてぶち込んだのかもしれないね、これは知られていないが活性化だよ」
するするとローブにぶら下がったスーツ姿の男、よっこらしょっと言いながら青い鎧の女性の横に降りる。
「なんなのだそれは?」
「コイツに限界以上の火炎魔法をぶち込むと活性化して強くなるのだよ、大分厄介だね。むしろ勝てない気がするよ?」
アイアンボールが火炎弾を吐き出す、ギドがステッキを振るって炎を消し去り
ツェツィが炎の消えた岩の礫を槍でたたき落とす。
「ギド、あの狼みたいにスパンっとできないのか?」
「無理を言う、硬さが違うし、そもそも仕込み杖は強度がもろくてね。刀身にヒビが入っていて修理しなきゃ使えないよ」
「………不能」
轟音と共に幾つもの火炎弾が撃ち出されてくる、それを流れるような動作で2人が撃ち落とし無効化していく。
「いやはや、まずいね完全に防いでるはずなのだが、結構痛いし熱い……ツェツィのほうはなにか無いのかい?」
「この足場ではさきのヤツ以上の攻撃スキルは無理だ」
ジリジリと弾幕に押されて後ろへと下がらされる。
「あと13分時間を稼いで貰えないかな?」
傷口にポーションを振りかけながら、突然現れた2人組に声をかける。
マッセの姉?ツェツィとギドというらしい。アイアンボールの猛攻を凌いでいるところから上級者だろう。
13分なら持たせられるかもしれない。
「少しキツイね、強すぎるよコレは。あと5分とかからず崖に追い詰められると思うよ?」
<<ウォール・ラン>>
御舟が壁を走り、アイアンボールの目の前の2人の頭上を通り、アイアンボールの右上から御舟が刀を振るう。
<<一ノ太刀:狼牙>>
スキルが発動し、狼のシルエットが刀に浮かぶように見え、刀身が光る。
「かってぇなクソが!3人いりゃあと12分か?もつんじゃねぇか?」
火花を散らしながらアイアンボールの外皮を刃が滑る。
振り下ろされる腕をバックステップを発動させて避け
御舟がツェツィとギドに合流する。
「いやぁ、助太刀感謝するぜ?後ろの姫さんは夜型だ。12分なんとかしてみようや?それが駄目なら散るだけってな」
「ふむ、3人ならば時間ぐらい稼げるであろうよ」
「(ギドを囮にすればそれぐらい持つか?)………そうだな」
「ツェツィさん?なにやら悪寒がしたのですが?」
ぞくりっとギドが背筋を震わせる、妙な感だけは良いようである。
「しっかし、チビリそうだぜ。色んなスタントしてきたが、ここまでびびったのは初めてだ。誠一ぃ、後ろの奴らはてめぇが守れよ!」
「先の火炎弾程度なら口説き落としてみせますよ」
ヒュッと風切音を鳴らしながら御舟が刀を構え、それを補佐するように少し右後にツェツィが。
「しょうがないのではないか?ここまでリアルに再現されてしまえば恐怖せぬほうが異常であるとも」
その2人の後ろ、ティセリアの前にギドが魔法用のスタッフを取り出して構える。
17:49 日の入りまであと11分。
今回で終わって帰路につくはずだったんですが………。
なぜこうなった!?
変な点、読みにくい部分などあればご指摘くださると助かります。