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日が昇る少し前に目が覚める。

そして朝日が昇ると同時に世界が昼へと切り替わる。

ずしっというのが一番近いのだろうか?

身体が重くなり、凄まじい虚脱感と疲労感に襲われる

このまま一日中寝ていたい程に

初日の夜と朝はここまで違和感を感じるほどではなかったから

一週間で徐々に実装していっているとかいう事なのだろうか?

思考の海に沈みそうになる前に首を振る。

ともかく、店にいって商品補充しておかないと……。



うーん、なんでこんなにサンドイッチが売れるのだろうか?

昨日マッセが言っていた中に生産ギルド鉄ノ鬼の食料部門が食堂を再開したと言っていたし。

そこまで食料供給が足りないはずはないんだけど………。

昼前には作り置いたサンドイッチは売り切れになってしまった。

買いそこねた数人がすごく悔しそうな顔をしていた。

なんなんだ?


「ぁ、あのっ、ティセリアさんっ。新しい装備を買いたいのですがっ」


この声は…………

顔をあげると、ルードヴィッヒことルー君がぼろぼろになった格好でこちらを見上げていた。

ステータスを表示するとレベル6、随分と頑張ったようだ。

あのポーションの数でここまで上げてくるなんて。


「おかえり」


にこっと笑って返すと赤くなって可愛らしい。


「それでステータスは………剣でいいの?」


「えっと………で、………です」


このゲーム、基本的に装備や道具にレベル制限は掛かっていない。

ステータスによって制限がある。なので同じショートソードでも素早さ制限、力制限などで別れる。

ドロップ武器やクエストアイテムにはレベル制限が掛かっている物もあるが……。


―トレードを申し込みました―


鎧と額当てに小手と靴、そしてロングソードを渡す。


―トレードが成立しました―


「はい、ありがとう。今日もオマケ」


そういって小さなバスケットを手渡す。

中身はもちろんサンドイッチだ。


「ぇ、ぁっ……」


じっとこちらを見上げてくるルー君、心なしか目が潤んでいる?


「ぁりがとうございますっっ」


バスケットをじぃっと見つめた後でぺこりと頭を下げて元気よくお礼をいうと

嬉しそうにバスケットをインベントリにしまいこんでいる。

うーん、サンドイッチ1つでそんなに喜ぶ事なのだろうか?


「明日の夜には帰ってくるけど、無茶しちゃだめだからね」


「ぇ?どこか行くんですか?」


心配そうにこちらを見上げてくるルー君。


「ちょっと鉱石を採りにね?」


「そうですか、掲示板のほうでも騒がれてますけどゴブリンとかコボルトが砦とか作ったりしてます。気をつけてくださいね?…………。」


「うん、……?」


その後何かを言いかけて、口をつぐむルー君に聞き返すが、何も言わない。


「無事に帰ってきてくださいね」

(ティセリアさんを守れるぐらい強くなってみせますから!!)


それだけ言って走りだす。

店を出る前に小声で漏らした言葉は誰にも聞こえることはなかった。







「集合場所は……」


いつもの格好、鎧などを着て首都の通りを南へと向かう。


「いらっしゃいませ~カフェ・リボンマジックです。チラシをどうぞ~」


メイド姿のプレイヤーがチラシを配っている。


――

初心者から熟練者までお食事の際はカフェ・リールマジックへ!

可愛い店長を始め可愛い店員があなたの胃袋とハートを鷲掴みにしちゃいます!

お値段据え置き、量も据え置き、あなたの心に幸せを。


価格を平常時に保つため、鉄ノ鬼では食材買取をしています。

プレイヤーの皆さんのご協力をお願いします。


ギルド:鉄ノ鬼 食料部門ちびっ子キングダム経営

――


…………どこから突っ込めばいいのだろうか。

しかし、鉄鬼さんところは食料品関係から最初に回していくことにしたのか。

さすがというべきかな。


気になって他にもみてみると、適正価格の店は3割ぐらいまで復活してきていた。

昨日の今日でここまでなら、直ぐに戻るかな?

けど、仕入れの問題が解決していない。

元々プレイヤー間で市場が回るように設計してあるので

採集をしているプレイヤーの数が減っているし、魔物の強化によって需要に供給がまだ追いついていない。


集合場所につくと一番最後だったようで、17人のプレイヤーが揃っていた。

採集者5人、護衛12人といったところかな?


「お、噂をすればきたで?あれがティセや」


マッセが黒の布に赤で縁取りをしたローブを着た切れ目の若者にこっちを指さしている。


「初めまして、ギルド鉄ノ鬼サブマスのすくりぃむです」


手を差し出される。

クールそうな見た目と違って熱血タイプなのだろうか?

手を差し出して握手する。


「生産系と聞いておりますので、生産PTへ参加してください」


PTに誘われる。入ると生産者5人のPTに割り振られた。

18人のアライアンスになっており、戦闘+補助 後衛+補助 生産とPTを分けているようだ。

護衛メンバーは総じてレベルが高い。40-50台のプレイヤーばかりだ。

マッセは戦闘PTに入っている。

何か言おうとするとウィンクされた。


(ティセ、何があるかわからへん。そこでお願いするわ)


(わかった。無理はしないからね?)


(かまへんで。出来ることだけでええねん)


「それでは、エディ野を抜けて火山地帯へは、高速移動で向かいます。まとまって動きます」


<<スピリット・ウィンドウルフ>>


ふわりとした感触が身体を包む。

シャーマン系のスキルを使えるプレイヤーがいるようだ。

非戦闘時に限り移動速度を180%に上げる補助魔法だ。

流れていく景色を見ながら走る。草原を抜けて、林を抜ける。

段々と空が火山灰に覆われ暗くなっていく。

緑豊かだった景色もむき出しの岩肌、固まった溶岩のあと、焼けた木。

そして麓から、火口までは岩肌を登っていく。

火口につくとすり鉢状の凄まじく大きな火口に螺旋状に通路がある。

ソコを降りていく。幅は結構広く5Mほどある。

だが、落ちれば火口へ真っ逆さま、溶岩である。いくらまだ蘇生ポイントで復活するとはいえ

溶岩の中へ飛び込みたいとは思わない。


「熱い…………」


じっとりと肌を濡らす汗。鎧の下のインナーが肌に張り付いて気持ち悪い。

時折火口の底から噴きあげてくる熱風でスカートがめくれそうになる。

ちらちらと脚に視線を感じる……

いや、まて視線を感じる???いや、視線なんて具現化できるわけはない。

気のせいでもないはず、剣の鞘とベルトをずらして固定すると、視線を感じ無くなる。

ますます現実との差が無くなってきてる?


時折でてくるモンスターは、護衛メンバーがなんなく撃退しているようで

劍戟の音や魔法音が聞こえてくるが、こちらまでモンスターが来ることはない。


「やぁ~さすがうちの護衛は優秀だねぇ」


炭鉱夫といった格好の青年がそういいながら前の方をみてうなづく。


「でさ、高速移動中は聞けなかったんだけど。おねーさん名前は?」


確かに統率も取れてるし、この状況でこれだけなのはすごい。

しかし、ルー君の言ってたモンスターが砦を作るっていうのは……まずいんじゃないだろうか?

ゴブリンやコボルト、オークならそれほど強くはないが、リザードマンや上位クラスになってくると不味い。

しかも罠を張るということでもしかしてと思ったが……


「ちょっ、無視は切ないよ。泣いちゃうよ!?」


「ん?」


振り向くと黒髪を切りそろえ、ツルハシを担いだ男が声をかけている。


「いってぇ!ちょっと、おやっさんひでぇよ」


ゴツンっと筋肉隆々の炭鉱夫ルックに髭面、バンダナを巻いた親父さんといた感じのプレイヤーが

こっちに声をかけてきたらしい青年の頭に拳骨を落としていた。


「すまんな、お嬢さん。俺は鉄ノ鬼 鍛冶部門 剣の丘のリーダー御舟(みふね)だ。この軽い奴が誠一だ」


「…………ティセリアだ」


一瞬何が起きたのか理解できずに、返事が遅れる。

ようするに、この軽そうなのが声をかけてきていたが、気づいていなかった。

で、しつこいところをこのおやっさんが殴り飛ばしたということか?


「いい名前だね、可憐なお姉さんにぴったり。是非とも俺の作った鎧を着て欲しい」


ガツンっとまた拳骨が落ちる。


「てめぇの鎧はセクハラだってんだろうが!!」


「ひでぇっすよオヤッさん。女性の鎧は魅せる為にあるんですよ!」


その意見には同意する………けど私に着せるなと……ぁ、そうか今は女だったか。

どうもここまでリアルだと現実との意識差に区別ができなくなってくるな。

さっきの脚への視線はそういうことか。

これだから男ってやつは……いや、気持ちはわかるので何も言わないけど。


「で、ティセリアさんは鉱石ほらねぇのかい?」


「あとでいいです、今はあんまり………」


実際スタミナ消費が酷い。

疲労感と虚脱感に併せて、スタミナの回復速度が落ちているので倒れたいぐらいだ。

しかも汗で張り付いて気持ち悪いし、吹き上がってくる熱風で鎧は熱をもって熱いし

髪の毛は張り付いて不快指数がうなぎのぼり。


「スタミナ消費がきついのかな?じゃぁ俺の元気のでるミルクを一杯ごちそうし「黙れ」」


再度拳骨が落ちる。


「夜型か?だったら無理はするなよ?」


夜型というのはヴァンパイアや獣人系、ダークエルフ等の特定の特性持ちに使われる言葉だ。

気遣いのできる、渋いおやっさん、カッコ良いな。


「ありがとう」


「ちょっ、オヤッさん。おいしいとこどりとかひでぇよ」


火口の底に近い場所、火口にできた螺旋通路の最奥。といっても溶岩までは結構な距離が有る。

大きな踊り場のように広くなっており、そこには洞窟が広がっている。

火竜の住む上級者向けの狩場だ。最奥には火竜の王がいる。超越者になるためのレベルキャップクエストで戦う。


「皆さんキャンプ地はここです。ここで一泊して明日の昼前には戻りますので。それまでにインベントリいっぱいまで採掘を」


すくりぃむが、全員に向かってそう言うと予め担当が決められていたのか

数人がテントと結界石をつかって結界を張り出す。

護衛は、数人で巡回して湧き直す敵を倒すみたいだ、マッセも3人で巡回に出て行った。

てくてくと歩いて行く、少し上のほうへ。

採掘ポイントに手をかざす。


<<採掘>>


きゅぅっと光の球がいくつか採掘ポイントから手の平へと吸い込まれて

インベントリに鉱石が追加されていく。


「ふぁっっっ………」


その場にへたり込む。

もうだめだ、凄まじい勢いでスタミナゲージが減って残り30%。

肩で息をしながらその場に倒れこみそうになるのを堪える。

しゃれになってない。


「ティセリアさん♪やっぱ俺のミルクを一杯どうぞ?」


先の誠一といったか、いつのまにか横にいるソイツ。

何を思ったのかズボンに手を入れて………

通称白ポーション スタミナとHPをかなり回復する中の上あたりのポーションを取り出す。


「………………」


無言で睨みつける。


「あははは、そんな顔しないでくださいよ。苛めたくなっちゃうじゃないですか」


軽い様子で笑いながら誠一は白ポーションをインベントリに戻す。

こいつどこまで本気なんだろうか?それよりGM!!!!!いままでコイツほっておいたのか?!

セクハラで独房行きだろ絶対!?

無言でインベントリからスタミナポーションを出して蓋を開ける。


「んっっ……ぷっ、けほっけほっっ」


飲み込んだ瞬間、胃が驚いたように収縮する。

結果横に入って蒸せる、咳き込んで零す。スタミナは5%ほど回復したが……


「あらあら?大丈夫ですか?なんなら俺が口移し……いや、さすがに冗談ですよ」


咳き込みながら涙目で睨み上げる私にそういって背中を摩ってくれる。

少しは楽になったが、咳が収まらない。


「それと、ここ巡回範囲より外ですから戻らないとあぶないですよ?」


「はぁっはぁ……ここまでリアルだと気持ち悪い」


「そうですねぇ、けど、小指を立てるなんて可愛いですね」


にこりと微笑んでくる誠一。

五月蝿い、癖なんだよ!なんていうか、無意識に小指が立つ。

オカマっぽい?言わないでくれ。

外見と相まって、新入の研究員や社員には女性として紹介されて、

男だと言っても信じてもらえなかったりするし。

上役も悪乗りして、身分証を女の物まで用意するし……。

イベントとかではこっちつけてね!じゃないっての!

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