6 戦乙女視点
――戦乙女視点
その試練の塔50F、目もくらむような高さで柵のないバルコニーから
平然と足を出して座っているスーツ姿の相棒に声をかける。
「ギドはログアウトしないのかい?」
槍を肩に担ぎ直す。
目の前の相棒もこの槍も付き合いは同じぐらいだ。
「こんなイベントだ、命を掛金に参加できるなら安い物だよ?まぁイベントには見えないのだけどね」
口にする言葉こそふざけているものの
どうやらギドは冷静に事態を捉えて対処を考えているようだ。恐らくログアウトできないのだろう。
「私のほうは、妹がログアウト出来ていないようだから……おいていけない」
「相変わらずツェツィは妹想いだね。こっちは少しやることが出来てしまってね」
ギドと言われたスーツ姿の男が、顎を指でなぞる。
何か考え事をしているときの癖のようなものだと、それなりに長い付き合いでわかっている。
「転移や脱出系のアイテムが使えなくなっているからね、痛みもちょっと面倒な事になったね」
もう色々と試しているのか、さすがだ。私といえば妹や数少ない知人に状況を確認するだけで必死だった。
「考え事は終わったの?」
「ふむ?すまないね。これからどうするか考えていたよ」
「こっから飛び降りてからの事よね?」
目も眩むような高さ、かなり下のほうに雲が見える。
ギドの顔が一瞬引きつったように見える、いつも飛び降りているのだ。気のせいだろう。
「よくぶっとんでいると言われるが、ツェツィも大概だね。先の戦闘で痛みは理解できたと思うのだけど」
「痛みですんでる内に飛び降りておかないと、一週間後の改変までに下に降りれないわよ?」
「高所恐怖症なのだが……」
いつものようにふざけているのだろう、この状況でまで余裕が有るところは是非とも見習いたい。
彼のお気に入りだというスーツの襟首を掴んで軽くひっぱる、相変わらず軽い。
「高所恐怖症なら、そんなトコ座ってられないわよ」
「ちょっっ、ちょっ、おまっ、引っ張るな!待て、HA☆NA☆SE!!おぃ、せめて心のじゅんっ……ぎゃああああああああああああ」
慌てたようにギドが騒ぐ、しかしネタまで挟むとは………。
ギドの襟首を掴んだままバルコニーから飛び降りる。
一瞬の浮遊感、そして一気に落下を始める
「風が心地良い……」
身体に感じる風、遠くの山のほうに飛龍だろうか?空を飛んでいるのが見える。
自由に空を飛ぶことができたら……。
一部のテイマーや上位魔術師ならば使い魔、ペット、魔法を使用して飛べるが、まだ落下以外で空を飛んだことはない。
機会があれば、そういった事の出来るプレイヤーに頼んで空を飛んでみたい。
こんなに心地良いのに、ギドはなんで泣きそうになりながら絶叫しているのだろう?
いつもは静かに瞑想しながら落ちていくのに、ふふ、やはり見ていて飽きない男だな。
「ぅぁあああああああああーーーー」
まだ元気に横で叫び声をあげている。
紳士ぶりたいのか?ふざけたいのか?どちらなのか?
普段から何かあると口調もコロコロと変わってよくわからない相棒だ。
しかし、こんな性格の私に文句もいわず、いつも的確にフォローしてくれる。
落下の痛みへの恐怖を紛らわせるために、わざわざ演技してくれているのだろうか?




