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穏やかな彼  作者: ジャンガリアンハムスターは世界最強種
7/12

感情を吐露することも大切です

「ちょっとぉ!

 私がいること忘れてんじゃないわよ~」


おねえさんのプリプリとした声が聞こえた。

顔を向けると、綺麗な顔を私に近づけながら、


「貴女が、貴美子ちゃんね。はじめまして。

 私は武人のおねえちゃんなの。何か誤解させちゃったみたいねぇ」


藤原さんの頭を拳でグリグリしながら、フフフと笑って言った。


「いや、『おにいさん』だろ」


藤原さんが(ため息をつきながら)訂正をした。


「やだぁ。武ちゃん!それは言わないでぇ~~!」




おにいさん。

『武人のおねえさん』じゃーなくっておにいさん。

ああああああああああああああああああああ???


「・・・・・・・・・・・・・

 おにいさん?

 男の方なんですか?


 えっと、でも・・・」


私は思わず、マジマジッと美人さんを見た。

確かに、スタイルは良い。と、いうか、武人さんと身長同じくらいだから良すぎか!

コートの上からだが、胸ありますよね?声も高いし!

耳で聞いても、脳が上手く処理してくれない。理解が出来なかった。

こんッッな美人が男の人なの!!??


「藤原 伊織っていうの。

 イオリンって呼んでねっ。フフフッ」


私たちは、居間でタルトタタンと貴腐ワインを味わいながら(私はコーヒーで)改めて挨拶をした。

伊織さんは、武人さんよりも5歳年上の34歳(独身)。

男性である。

そもそも性同一性障害ではなく、女装が趣味らしい。

地声も男性にしてはもともと高いほうだが、女装姿の時は頑張って可愛い声を出しているとか。


「仕事は何をしてらっしゃるんですか?」

「調律師なの。ピアノのね。まあ、楽器メーカーの契約社員もやっているからドイツに住んでいるんだけどね。

 あっ。おみやげがあるのよ。ちょっと待ってて」


といって奥の部屋に取りに行ってくれた。

嬉しいことに、お土産としてシュト―レンやらトルテやらバームクーヘンやらを頂いた。

その後、伊織さんは部屋に休みに行き、私と藤原さんは居間に残った。


藤原さんに向き直る。


この人はいっつも落ち着いていて、感情にムラが無かった。

声を荒げたりすることが無かった。

喧嘩になる前に折れてくれるし、

私が感情的になっているときも黙って聞いてくれてその時のことを後になって蒸し返したりしない。

穏やかで、理性的で、

言葉は優しくて、

本当に私を大切にしてくれているって思った。


だけど、あの時の煮えたぎるような目つきで私を見た、あの眼。

抱きしめられたときの熱。

腕の力。

伝わってくる早鐘のような心臓。

私の腹部に押しつけられた彼の興奮。



優しさだけじゃ足りなかった。

穏やかなだけじゃ不安だった。

ピースが全部埋まってはいたジグソーパズル。

でも、

立てたり、叩いたら崩れてしまうジグソーパズルで、私は怖かった。

感情が糊になって、固めてくれた。

もう大丈夫。

ちょっとやそっとのプレッシャーじゃもう崩れない。


今日を、明日を、毎日を楽しもう。

過去に囚われていたら、人生が逃げてしまう。



私は、彼の右手をとり、ゆっくりと頭を落した。

そして、手の甲――――――指の付け根にくちづけた。








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