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穏やかな彼  作者: ジャンガリアンハムスターは世界最強種
11/12

築き上げたものは不断の努力、崩壊は一瞬

あいかわらず、ふざけた格好(似合ってはいる)をしているが、元気そうで安心する。俺のマンションにくると、ゲストルームに泊まっていく。

父親とはなかなか溝が塞がらないが、母親の態度は現在は軟化しており、夕方、3人で飯を食った。

母親は「武人が結婚するのに、長男のお前がそんな恰好でどうするの」と伊織に言っていたが、俺は正直複雑な気持ちだった。




帰り道、奴が立ち止まって俺の顔をじっと見つめ


「押しつけちゃってごめんなさいね」


と謝った。



「いや。ちょっと聞いて。俺は伊織に『男の恰好しろ』とか『俺に押しつけやがって』とか思って無い。俺は伊織の、頭の良さに嫉妬しているし、音楽の才能を羨ましいと思ってるし、人生そのものを凄いって思ってる。でも、俺は自分の、出来の悪さをカバーする努力や、伊織が感情的で自由な分慎重なところとか、仕事の面白さとか、凄く貴重に思っている。今は、婚約もしているし、毎日楽しいよ。」


伊織は、黙って聞いていた。

しばらく動かなかったが、突然、


「武ちゃん!偉いわぁ。武ちゃんは、本当に努力家タイプよねっ!おねえちゃん応援しているからね!!

さあぁて、今日は飲むわよー!!オールよっ!!帰りコンビニ寄ってこう。お姉様の奢りねっ!!」


と、抱きつかれた。

抱きつかないでもらいたい。それと、おねえちゃんって誰?

オメーは、心も体も男だろ!ストレートだろ!

その恰好は、反抗期がほぼゼロに等しかった事の、反動だろ!

俺明日も仕事なんだけど。


兄との新しい関係が築づけて気分が高揚していたし、

明後日は貴美子とデートの約束だと舞い上がっていたし、

部屋に電気は付いてなかったし、

貴美子の靴は全く気付かなかったので、


リビングのドアを開けた瞬間、貴美子が部屋にいて、挙句に




「おにいちゃん!!!」



と笑顔で呼ばれるとは思わなかったんだ。



***************************


そうか

つまり、そういうことなのか。


俺は、一生懸命やってきたつもりだった。


彼女を傷つけない様 慎重に、

言葉づかいに気をつけて、

過度の接触は怖がらせてしまうとスキンシップを抑えるよう意識し、

頑張っているところを見せたくて、上司・後輩・同僚・取引先・お客様には真摯な対応で、

仕事を人より3倍努力して、

ユーモアを含めた会話で笑いをとり、

驕った態度を決して見せず、

嫌なことがあっても、彼女が癇癪を起こしたときも、ニコニコ笑って最後まで話を聞く。


彼女に『私は愛されている』と思われている―――――と思っていた。

信頼してくれているとおもったのに


何を、勘違いしていたのだろう。

実際に、彼女は俺を、そのような人間だと思ってるのだから、もうどうしようもないじゃないか。

婚約しているにもかかわらず、俺は浮気を楽しむ人間で、

尚且つ彼女は、訳も聞かず、怒りもせず、身を引いてくれる。

俺が築きあげたものは、必死になって築きあげてきたものだったのに

彼女に信頼されていなければ、何の意味もなさないではないか





「お兄ちゃんごめんなさい!勝手にお邪魔しちゃって!

 おねえさんもごめんなさい。」




致命傷を与えて、俺の人生から出て行く――――のを、黙って見ていた。

まさに、俺の横を通り過ぎようとしたその時、

貴美子の顔が クシャ と歪んだ。



「やっぱり嫌だよぅ!

 藤原さんが大好きなんだよぅ!

 別れなくないよぅぅううう!」




ギュ!!




―――柔らかい。

身体を押しつけるように、力を込めて抱きしめてくる。


ただ、照れ屋な彼女が、あまり自分から愛情を口に出さない彼女が、今、この場で言った事はとても勇気が必要だったに違いないと思った。



俺も、力の限り彼女を抱きしめていた。





居間は、暖房付けてます。

暖かくて、貴美子ちゃんはうとうとしちゃったんですね。

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