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穏やかな彼  作者: ジャンガリアンハムスターは世界最強種
10/12

コンプレックスは誰にでもある。しかし、それを克服してこそホモ・サピアンス。でなきゃサルだぜ。

プロポーズを承諾してもらった!

お互いの両親のもとに挨拶したり、これから繁忙期のピークを向える前に、出来る限り会っておこうとデートをして楽しく過ごしていた。


それと同時期、ドイツにいる兄の伊織から連絡が入った。

婚約のお祝いと、クリスマス休暇で日本に帰ってくるので俺の部屋に何日か泊まりたいとのことだった。



うちの兄は、俺のコンプレックスの種だった。


第一に、俺の初恋のミサちゃんは、伊織に恋していた。

(「え?たけと君あたしがすきだったの?ごめんなさい。あたし、いおりさんがすきなの!」)

俺も、そこそこ顔は整っているが、伊織のそれは中性的で本当に美しかった。貴美子が、よもや兄に心変わりするとは思っていないが、一抹の不安は拭えない。奴の帰国ギリギリの時に紹介しよう。今はクリスマスで忙しいし、その後、納会や、長期休暇を利用してくる観光客など本当にゆっくりできる時間が無い。俺の行動は間違ってない!




第二に、俺の一族のほぼ皆、某有名大学に合格し社会に羽ばたいていく。

伊織も、文Ⅰに合格。進学したが、奴は何を思ったか、2年の頃「やっぱり俺は音楽に生きる」と自主退学してしまった。両親や伯父叔母たちとすさまじい舌戦を繰り広げて、結局は平行線のまま、奴は家からおん出て、ヨーロッパに行ってしまった。

兄弟2人、仲は良かったので、あまりに急なことに、15歳の俺は本当にショックを受けた。鉄道会社を筆頭に系列にホテル事業会社を持つ、創業者一族・藤原家の長男が、勘当されたのである。うちの会社の後継者という重荷が、今度は俺に振りかかってきた。(俺は、補佐役としてお兄ちゃんを支えるんだ、と本気で思っていましたが、何か?)




第三に、俺は志望大学に落ちた。一門の恥、出来そこないである。伊織が自主退学した学校に、俺は不合格。

『ああ…あと一年浪人か…』と落ち込んだが、出来の悪い俺がまた来年確実に合格する保証はどこにもない!!いや、あれだけ勉強して落ちたし、出来そこないの俺は一浪、二浪・・・と時間をつぶして行くのが怖かった。

結局俺は「現役で合格した、某経済大学に行こう!足を引っ張った英語のスキル(ヒアリングで惨敗した事は分かっていた)を大学で学ぶんだ!」と思い直し、進学先で必死に英語スキルを磨いた。

長期の休みの時は、外国へ行ってネイティブと交流し、学んできた。そして、滞在する外国のホテルで、悪い点、アイデア、サービスなど身をもって体験したことが、俺のホテル事業に就職した所以である。




第四に、奴はヨーロッパで華々しく活躍している。本職としての、調律師はもとより、某ピアノ製造メーカーの契約社員をしており、業界では大変有名らしい。見事に一族の鼻っ柱をへし折り、いざ凱旋だ!と奴が帰国してきたのが数年前。

ヴィトンのスーツケース、エルメスのバーキン、シャネルのスーツ、マノロ・ブラニクの靴、茶髪のロングヘア、フルメイク姿を見て、「ウェルカム ツンドラ永久凍土の世界。グッバイ 俺の平穏な日々」と思った。(後日、茶髪のロングヘアはウィッグと判明)



結局、奴と家族の溝は、残ったまま。

伊織は実家から「その恰好をやめて、まともにならない限り家の敷居は跨がせない」と言われているので、日本に来た時は、ホテルか俺のマンションに泊まる。







サブサイトルは、川原泉『フロイト1/2』1996.白泉社文庫 

収録の『たじろぎの因数分解』より。137ページ。

正しくは、下記の通り。


「誰にだって苦手なものはあるの。BUT! それを克服してこそホモ・サピエンスでしょーが。でなきゃサルだぜ」

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