異世界でも「ようお似合いの結末どすなぁ」
夜会というものは、どこへ行っても変わらへん。
酒が入り、音楽が流れる。
男は見栄を張り、女は腹の探り合い。
違うんは着物かドレスか、そのくらいやろか。
うちはワイングラスを片手に大広間を見渡した。
王都から馬車で五日。
辺境と呼ばれる土地。
今夜の主催者は、この地を治めるラウエン伯爵。
最近になって急に羽振りが良くなった人物や。
新しい兵舎。
増え続ける私兵。
領地規模に見合わない武器の購入。
王家が怪しむには十分すぎるほど。
せやから、うちはここにおる。
表向きは没落男爵家の娘。
本当は王家直属の調査員。
もっとも、そんな大層なものやない。
ただ、人の話を聞くのが少し得意なだけ。
前世では芸者やった。
その経験が役立つとは思わへんかったけど。
「おやおや」
太った男が近付いてきた。
隣領の子爵やったはず。
「君が王都から来た令嬢か」
「そうど……、そうです」
あぶない。
思わず、自が出るとこやった。
「辺境は退屈だろう?」
「いいえ。皆様よくしてくださいます」
うちが微笑むと、男は機嫌ようわろた。
えらい機嫌ようしてはること。
「そういえば……」
うちは首を傾げる。
「最近はこちらも景気がよろしいそうで」
「ははは! まあな!」
男は鼻を鳴らした。
「ラウエン伯爵様のおかげだ!」
「そうなんですか?」
「王都の連中には真似できん商売をな」
その瞬間。
男の隣にいた伯爵家の執事が、わずかに顔をしかめた。
もちろん見逃さへん。
せやけど、気付かんふりや。
「それは素晴らしいですわ」
「だろう?」
男はますます饒舌になった。
うちは相槌を打つ。
褒める。
感心する。
それだけ。
人は自分に興味を持ってくれる相手が好きや。
特に秘密を抱えている人ほど。
気分良うなった人間は、自分から口を滑らせる。
こういう手合いは、前にもよう見てきた。
夜会が始まって一時間。
最初はワインと狩猟の話を聞いた。
ほんまつまらん話やった。
けど、密輸の話が漏れた。
二時間。
上澄みの情報ばかり。
伯爵の太ももに手を添える。
違法な武器取引の話が出た。
三時間
こっちが、なんも言わんでも反乱計画の話をした。
誰も詳しく調べもせん。
田舎者の娘を疑わへん。
男たちは勝手に見下してくれるさかい、楽なもんや。
「いやぁ、しかし王都の連中は愚かだ」
ラウエン伯爵が笑う。
周囲の貴族も同調する。
「陛下もお年だ」
「次の時代は我らが作る」
「そうですね」
うちは微笑んだ。
伯爵は満足そうに頷く。
その言葉を待っていたかのように。
誰も気づかへん。
うちのドレスに記録魔道具が隠されていることを。
今夜の会話が一言残らず保存されていることを。
すでに転送魔道具で王都へ送られていることを。
夜も更けた頃。
うちはグラスを置いた。
「帰るのか?」
伯爵が尋ねる。
「ええ」
うちは深々と一礼した。
「皆様、本日はお招きいただきありがとうございました」
「ははは! また来るといい!」
「ええ、機会があればまた」
執事が鋭い目を向けるがもう遅い。
うちは扇子を閉じる。
そして、最後に一言だけ残した。
「お望み通りになってよろしおしたなぁ」
誰もその意味を理解しなかった。
◇◇◇
王都に戻ってからの一週間はやけに静かやった。
騒がしかった夜会が、最初から存在せえへんみたいに。
せやけど、静けさというのは往々にして不気味なもん。
「例の件、報告は本当か」
執務室で向かい合った上官が低い声で言った。
うちは紅茶の香りを一口だけ確かめてから頷く。
「必要な情報は、すべて揃うております」
「一夜でか」
「ええ」
事実や。
あの夜会の貴族たちは、驚くほどよう喋った。
密輸の経路も。
兵糧の備蓄も。
反乱の合図に使う予定やった言葉まで。
全部、勝手に。
「……どうやって聞き出した」
上官の目が細くなる。
疑っているわけやない。
理解できていないだけや。
うちは少しだけ視線を落とした。
「特別なことなんて、しておりまへん」
「ほう?」
「皆様が、ようお話しくださいましたさかい」
一瞬、沈黙が落ちる。
上官は書類を見つめたまま動かない。
「……それだけで、ここまで揃うものか」
「夜会というのは、そういうものでございますえ」
笑顔のまま答える。
ほんまは、ただの人間観察や。
気分良うさせて、口を滑らせるまで待つだけ。
それだけのことや。
「……地方伯の一件、これで一気に片付くな」
「さよですか」
「王都一つ分の働きだ」
「よう言うてくださいます」
評価されているらしい。
けれど、実感は薄い。
うちはただ、見て、聞いて、記録しただけやから。
「報奨は後日通達する」
「お待ちしております」
軽く頭を下げる。
その瞬間、上官がふと呟いた。
「……あまり無茶はするなよ」
うちは少しだけ考えてから、微笑んだ。
「そう思わはるなら、次はご自身で頑張っておくれやす」
上官は苦笑していた。
執務室を出ると、王都の空はいつも通り青かった。
ラウエン伯爵たちは法廷で国を相手に争うてるはず。
本人の意向通りでよろし。
この生活に、前世での記憶から既視感を感じる。
なんて映画やったろか。
喉に魚の小骨が刺さったようやった。
思い出したのは一時間ほど経ってから。
雲のない空を見て、思い出した。
ああ、そうや。
――アウトレイジや。
エセ関西弁と京ことばです……。
AIの力を借りてますが、おかしな言い回しであればご指導ください




