夫24
俺の足に縋り付き、泣きじゃくる由香里。
今までも何度か泣く姿を見た事はあるが、これ程までに取り乱しているのは初めてだ。
由香里は涙と鼻水と涎をたらしながら訴える。
「捨てないで」
俺は驚いた。
誰が、誰を。
「捨てる・・・?」
なにを言っているんだ。
そんなことあり得ない。
俺はしゃがんで由香里を抱きしめ、それから立たせた。
「あっちに行って話そう」
崩れ落ちそうな身体を支えながらリビングに連れて行き、そこでもう俺は由香里を抱きしめた。
「いつ、知った?」
由香里は俺の服を握りしめて話した。
俺の部屋に入った事、写真を偶然見付けた事、その写真をゴミの日が来るたびに捨ててきた事。
「ごめんなさい、ごめんなさい。でも嫌だったの。私を、私だけを見て欲しかったの」
由香里は怯えた目で俺を見る。
「捨てないで」
ああ、そうだったのか。
俺は由香里がどうしてこんな事をしたのか理解した。
「由香里」
由香里の髪を撫で、頬に、唇に、愛情を込めてキスをする。
なんて可愛い俺の由香里。
つまりこれは、嫉妬。
由香里は由里子に嫉妬していたのだ。
「愛してる。愛してる、由香里」
俺の腕の中で震える愛しい存在。
大丈夫。不安になる必要など無い。
暫くそうして抱き合っていると、少しだけ気持ちが落ち着いたのか、由香里の泣き声が小さくなってきた。
「ちょっと待っていて」
俺は由香里の背をポンポンと叩き、リビングを出て自室に向かう。
そしてそこに置きっぱなしだった鞄の中から写真を取り出した。
数枚だけ残っていた由里子の写真、それを俺は今日持ち歩いていたのだ。
リビングに戻り、俺は写真を由香里に見せる。
「これ」
由香里は目を見開いた。
俺は語った、過去を。
由香里の母である由里子との出会い、別れ、それでもずっと好きだった事を。
「初めて由香里を間近で見た時驚いた。由香里の中には由里子が生きている」
由香里の中に生きる由里子の魂に気付いた時の喜びを俺は思い出す。
由香里は唇を噛みしめて、何度も頷いた。
「運命なんだ。こうしてまた出会い、愛し合う」
出会ったのは運命。
分かるか由香里?
いや、分からなくてもいい。ただ知ってもらいたい。
髪から頬へ手を滑らせると、由香里が顔を上げる。
俺は由香里の目の前に写真を差し出した。
「え―――――?」
「由香里の好きにしてくれ」
由香里は戸惑い視線を揺らし、それでも震える指で写真を受け取った。