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錯覚  作者: 手絞り薬味
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妻19

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


 許して下さい。

 もう決して、あなたの秘密に触れたりしないから。

 なんでも言う事を聞くから。

 だから、だから―――――。


「捨てないで」


 私にはあなたしかいないから。

 あなたに見放されたら、私は生きてはいけない。


「捨てる・・・?」


 聞こえた呟きに、私は顔を上げた。

「由香里」

 夫はしゃがんで私を優しく抱きしめる。


 怒って、いない?


 戸惑う私を夫は立たせる。

「あっちへ行って話そう」

 肩を抱かれリビングに連れて行かれた私は、そこでもう一度抱きしめられた。

「いつ、知った?」

 私は夫の服を握りしめ、これまでの自分の過ちを告白した。

 入ってはいけない夫の部屋に入った事、写真を偶然見付けた事、その写真を・・・捨ててきた事。

「ごめんなさい、ごめんなさい。でも嫌だったの。私を、私だけを見て欲しかったの」

 だからお願い。

「捨てないで」

 私を捨てないで。


「由香里」


 夫は私の髪を撫で、頬に、唇に、キスをする。

 目が合うと夫は微笑んだ。


「愛してる」


 愛してる?


「愛してる、由香里」


 私を?それとも・・・、それでも。

 傍に居れるのならば。

 夫の背中に手を回し、私は嗚咽する。

 暫くそうして抱き合い少しだけ気持ちが落ち着くと、夫は「ちょっと待っていて」と言って立ち上がった。

 リビングを出て行き、すぐに帰ってくる。

「これ」

 私は目を見開く。

 見せられた数枚の写真。

 夫は語った、過去を。

 私の母である女との出会い、別れ、それでもずっと好きだった事。


「初めて由香里を間近で見た時驚いた。由香里の中には由里子が生きている」

 夫はやはり、私ではなくあの女を求めているのか。

 そっくりな顔を、身体を。

 心の中を悲しみが広がるが、唇を噛みしめてそれを押し殺す。


「運命なんだ。こうしてまた出会い、愛し合う」


 出会ったのは偶然?必然?絡まった赤い糸は、あなたと誰を結んでいるの?

 気を抜けば吐き出してしまいそうな言葉を必死に飲み込む。

 夫の望むままの姿で生きよう。それしかないのだから。

 覚悟を決めて顔を上げると・・・。


「え―――――?」


 目の前に差し出された写真。

 どういう意味か分からず私は戸惑う。


「由香里の好きにしてくれ」


 好きに?それは・・・。

 私は震える指で、写真を受け取った。


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