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錯覚  作者: 手絞り薬味
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妻18

 朝、目覚めた私は、隣に眠っている筈の夫が居ない事に気付いた。

 不思議に思いながらまだ鳴っていない目覚まし時計のアラームを切り、私はリビングに行く。

 そしてそこで、既にスーツを着た夫を見付けた。


「おはよう。早いのね」

「ああ」


 私は驚いた。

 こんなに早く起きて、しかも準備まで出来ているなんて。

 夫はどこか疲れた様子でニュースを観ている。

「もしかして、徹夜?」

「ああ」

 仕事が忙しいのだろうか。

「すぐに朝御飯の準備するから」

 私は急いで寝室に戻って着替え、顔を洗って食事の準備をした。

 いつものように二人で食事をして、いつものように夫を見送る。


 ベランダから手を振り、夫が見えなくなると部屋に戻った。


 今日は、金曜日―――――。


 私は夫の部屋に入り、クローゼットを開ける。

 慣れた手つきで荷物をどかして・・・・・・・・、そして、驚愕する。


 箱が無い!


 まさか、そんな。

 クローゼットの中の物を次々と引っ張り出したが箱が無い。

 どうして・・・、火曜日にはあった。このクローゼットに私は片付けた。


 では、どうして?


 さあっ・・・と血の気が引く。

 キョロキョロと辺りを見回し、夫の机の引き出しを順番に開ける。


 無い、無い。


 乱暴に椅子を退かして机の下、続けて横を見て、私はそこに置かれた箱を見付けた。

 震える指で蓋を開けると、そこには一枚の写真も入っていなかった。


 ああ、なんてこと。


 気付かれてしまった。

 夫はどう思ったのだろう。

 怒った?失望した?

 私は・・・どうなるのだろう。

 私は―――――。


 捨てられる?


 私が写真を捨てたように、今度は私が捨てられるのだろうか。

 嫌だ、嫌だ!

 なんと言い訳すればいい?

 私には夫しかいないのに。


 こんなに好きなのに。


 ああ、私はなんて浅はか。

 一時の感情に支配され、とんでもない事をしてしまった。


 この生活を壊す気も、夫と別れる気も私には無い。


 ならば何故、見てみぬ振りをしなかったのか。

 何故写真を破いてしまったのか。

 なにも知らぬ振りをしておけば、ずっと傍に居られるのに。





 床に呆然と座ったまま、どれだけの時間が過ぎたのか。

 ただひたすら後悔する私の耳に、聞こえる声。


「由香里」


 振り向くと、愛しい男が立っていた。


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