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錯覚  作者: 手絞り薬味
38/47

妻17

「行ってらっしゃい、あなた」

「ああ」


 素っ気ない返事をして夫は出て行く。

 私は玄関の鍵を掛け、ベランダから駅に向かう夫を見送った。


 そして、今日は火曜日―――――。


 私は夫の部屋に入り、クローゼットを開ける。

 その奥、積まれた荷物の一番下。

 几帳面に整理整頓されている物を動かし、隠されている箱を出す。


 もう、残り少ない写真。


 その一枚を手に取る。

 若い頃の夫と、その隣で微笑む私にそっくりな女。


 ビリビリビリ・・・。


 写真を破る。

 細かく、細かく。


 小さなゴミの山が出来ると、私は箱を元通りに戻す。

 クローゼットの扉を閉め、私はゴミを残さず掌で包み、夫の部屋を出る。

 キッチンに行き、握っているそれをそこにある大きなゴミ袋に捨てた。

 その袋を左手に持ち、ゴミ捨て場に行く。


 私はいったいどれだけこの行動を繰り返しただろう。

 袋をゴミ捨て場に置くと、自然と笑みがこぼれる。


 燃えてしまえ。

 あの女の写真も、記憶も。


「坂本さん。おはようございます」


 掛けられた声に私は振り向く。


「おはようございます。」

「あら?坂本さん、なにかいい事があった?」

「はい」


 もうすぐ、写真が無くなるのです。


 部屋に戻り、洗濯物を干して掃除してワイドショーを見て・・・、そして夫が帰って来る。


「お帰りなさい」

「ああ」


 素っ気ない返事をして夫は自分の部屋に入る。

 私はリビングに行き、食事の準備をして夫を待った。


 そして二人で食事をして、順番にお風呂に入って、一つのベッドで眠る。


「おやすみなさい」

「ああ」


 背中を向けて眠る夫。

 私はその背中に身体を擦り寄せる。


「ねぇ、好き」


 あなたが好き。


 振り向いた夫と目が合う。

 その瞳が見ているのは誰?


「好き」


 だから、私を見て。

 私だけを。


 夫の首に腕を絡め、私は笑った。


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