妻16
マンションでの新生活。
専業主婦として、なに不自由ない暮らし。
私は幸せな毎日を送っている。
祖母の葬式から暫く経った頃、私達は本当の意味で夫婦になった。
結婚してからずっと一緒のベッドで寝ているにもかかわらず、坂本さんはそれまで私になにもしてこなかったのだ。
いつまでもなにもされない事に不安を感じた私は、ベッドの中で坂本さんに言った。
「どうして抱いてくれないの?」
背中を向けて寝ていた坂本さんが振り向く。
「・・・抱いて」
その夜、坂本さんは初めて私を抱いてくれた。
優しく、優しく。
ああ、そうか。私は気付いた。
私の心の準備が出来るまで、坂本さんは待っていてくれていたのだ。
「愛してる」
普段は無口でちょっと素っ気ない坂本さんが何度も囁く。
なんて、嬉しい。
なんて、素敵。
「好き」
私も囁くと、坂本さんは目を見開いて私をギュッと抱きしめてくれた。
「由香里、もう一度」
「好き」
「もう一度」
好き、好き、あなたが好き。
何度でも言える。
一生、離さないで。
一生、離れない。
そうして私は坂本さんの『妻』となり、坂本さんは私の『夫』となった。