夫19
「昔・・・、ずっと昔、会った事がありませんか?―――――ここで」
俺は驚き、目を見開いた。
「今と同じように、私が転けて、坂本さんが助けて、そして、―――――そう、そして頭を撫でてくれて」 ああ、ああ。由香里。
「あれは、坂本さんじゃ―――――」
俺は由香里を強く抱きしめた。
覚えていたのか?あんな少し会っただけの俺を。
・・・いや、そうではない。
これはおそらく、由里子の魂の記憶。
由里子は俺を忘れていなかった。
由香里の肉体に入り、由香里と一つになった由里子が、俺を求めている。
俺ともう一度、やり直そうとしている。
由里子・・・由香里・・・、愛している。
幸せになろう、今度こそ。
由香里がそっと俺の背中に手を回す。
俺は感動で涙が溢れ、止まらなかった。
「覚えていてくれたなんて、思わなかった」
由里子が俺を求めていたなんて。
「うん、忘れてた。さっきまで」
由香里は少し俯いて、呟いた。
「運命の・・・人みたい」
由香里、違う。
「『みたい』じゃない。運命なんだ」
由香里が顔を上げる。
「俺達は再び出会い、愛し合う運命だったんだ」
そう、これは俺と由里子と由香里の運命。
由香里は恥ずかしそうに、再び俯いた。
「坂本さんは、あの時どうしてここに?」
俺は由香里の頭を撫でる。
「墓参りに」
「墓参り?」
「ああ」
いつか、由香里にも話そう。
俺達の運命の物語を・・・。