妻14
「昔・・・、ずっと昔、会った事がありませんか?―――――ここで」
私が訊くと、坂本さんは目を見開いた。
「今と同じように、私が転けて、坂本さんが助けて、そして、―――――そう、そして頭を撫でてくれて」
話しているうちに、記憶が次々と蘇ってくる。
腕を引っ張る強い力、頭を撫でる優しい手、私を見つめる・・・切ない瞳。
「あれは、坂本さんじゃ―――――」
私の言葉は、そこで途絶えた。
何故なら、坂本さんが私を強く抱きしめたから。
坂本さんは、私の髪を、背中を撫でながら、身体を震わせる。
私はどうしていいのか分からず、だけど、坂本さんが泣いていたから・・・、その背中に手を回した。
「覚えていてくれたなんて、思わなかった」
母の墓の前に立ち、坂本さんは私の肩を抱く。
「うん、忘れてた。さっきまで」
やはり、あれは坂本さんだったのだ。
小さな頃会った人と再会し、結婚する。それはなんだか―――――。
「運命の・・・人みたい」
私が呟くと、坂本さんは肩を抱く手に力を込めた。
「『みたい』じゃない。運命なんだ」
私達は、見つめ合う。
「俺達は再び出会い、愛し合う運命だったんだ」
ああ、そうなのだろうか。
今までまったく信じていなかった『赤い糸』というものを、私は初めて意識して・・・、それがなんだか恥ずかしい。
私は赤くなっているであろう頬を誤魔化すように少し俯き訊いた。
「坂本さんは、あの時どうしてここに?」
何故墓地に居たのだろうか?
すると坂本さんは、私の頭を撫でた。
「墓参りに」
「墓参り?」
「ああ」
誰の?
だけど坂本さんが、あの時と同じ切ない瞳をしたから・・・、だから、私はそれ以上何も訊かなかった。