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錯覚  作者: 手絞り薬味
31/47

夫18

 あの頃のように、辛く悲しい気持ちにはならない。

 それは、隣に由香里が居るから。

 久し振りに見た墓は、随分と汚れていた。


 由香里が荷物を墓の前に置き、手桶だけを持つ。

「水、汲んできます」

「一緒に行くよ」

 手桶を受け取る。

 歩きだすと、由香里が遠慮がちに俺の袖を引っ張る。

「ああ・・・」

 なんて可愛い。

 手を繋いで、歩く。

 この手をずっと、離さない。





 水の入った手桶を持つ。

「行こうか」

「はい」

 俺の斜め後ろを由香里が歩く。

 ところが、墓へと戻る途中、由香里が小さな窪みに足を取られて転けた。

「由香里!」

「痛ぁ・・・」

 蹲る由香里。

 俺は慌てて、由香里の腕を引っ張った。

「あ、ありがと―――――」

 由香里が顔を上げる。

「由香里ちゃん、大丈夫か?」


 俺は由香里を立たせ、怪我が無いか確認する。

 少しだけ、膝の皮が擦り剥けていた。

 俺は由香里の頭を撫でた。

「痛いところは無いか?」

「・・・・・」

 どうした?どこか痛むのか?

「由香里ちゃん?」

 由香里が首を横に振る。 大丈夫か。ホッと息を吐く。

 そういえば、由香里は昔もここで転けたな。

 あの時も、こうして立たせて、そして由里子を見付けたのだ。

 まるでそれを再現しているようだな。

 小さく可愛かった由香里は美しい女性に成長し、もうすぐ俺の妻となる。

 そう、俺の妻となる。由香里も由里子も。

 先程思わず放り投げてしまった手桶を拾い、もう一度水を汲む為に水道に向かう。

「坂本さん・・・」

 その時、由香里が躊躇いがちに声をかけてくる。

「昔・・・、ずっと昔、会った事がありません?―――――ここで」

 え・・・・・?

 俺は驚いて、由香里を見た。


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