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錯覚  作者: 手絞り薬味
30/47

妻13

 久し振りの墓参り。


「こっちです」


 私は坂本さんを、母の眠る場所へと連れて行った。

 祖母が病気になってから来ていなかったので、墓は汚れていた。

 私はお供え物や掃除する為の道具を墓の前に置いて、手桶だけを手に持った。

「水、汲んできます」

「一緒に行くよ」

 坂本さんが手を差し出すので、私は手桶を渡した。

 坂本さんは、いつもこうして私に荷物を持たせない。


 私は、大事にされている。


 荷物の事だけではなくて・・・、婚約もして、いつでも手を出せるこの状況でも、坂本さんは私を抱きしめる以上の事をしない。

 そんなところが、好き。

 私が服の袖を掴むと、坂本さんは少し私を見て、

「ああ・・・」

 それから手を繋いでくれた。

 優しくて、ちょっと素っ気ない。

 そんなところも、好き。

 私達はゆっくりと、水道まで歩いた。





 水の入った手桶を、坂本さんが持つ。

「行こうか」

「はい」

 そして墓へと戻る途中、小さな窪みに足を取られ、私は転けた。

「由香里!」

「痛ぁ・・・」

 擦り剥いた膝の痛みに眉を寄せながら立ち上がろうとした時、腕がグイっと引っ張られた。

「あ、ありがと―――――」

 顔を上げた私は驚いた。

 心配そうに眉を寄せる顔。

 ・・・知っている。

 この顔を、知っている。

「由香里ちゃん、大丈夫か?」


 私を見つめる、切ない瞳。


 坂本さんは私を立たせ、怪我が無いか確認するように全身を見て、私の頭を撫でた。

「痛いところは無いか?」

「・・・・・」

「由香里ちゃん?」

 首を横に振ると、坂本さんはホッと息を吐いて、土の上に転がった手桶を拾った。

 もう一度水を汲む為に水道に向かう坂本さんを、私はじっと見つめる。

「坂本さん・・・」

 振り向いた坂本さんに、問う。

「昔・・・、ずっと昔、会った事がありません?―――――ここで」

 坂本さんが、目を見開いた。


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