妻13
久し振りの墓参り。
「こっちです」
私は坂本さんを、母の眠る場所へと連れて行った。
祖母が病気になってから来ていなかったので、墓は汚れていた。
私はお供え物や掃除する為の道具を墓の前に置いて、手桶だけを手に持った。
「水、汲んできます」
「一緒に行くよ」
坂本さんが手を差し出すので、私は手桶を渡した。
坂本さんは、いつもこうして私に荷物を持たせない。
私は、大事にされている。
荷物の事だけではなくて・・・、婚約もして、いつでも手を出せるこの状況でも、坂本さんは私を抱きしめる以上の事をしない。
そんなところが、好き。
私が服の袖を掴むと、坂本さんは少し私を見て、
「ああ・・・」
それから手を繋いでくれた。
優しくて、ちょっと素っ気ない。
そんなところも、好き。
私達はゆっくりと、水道まで歩いた。
水の入った手桶を、坂本さんが持つ。
「行こうか」
「はい」
そして墓へと戻る途中、小さな窪みに足を取られ、私は転けた。
「由香里!」
「痛ぁ・・・」
擦り剥いた膝の痛みに眉を寄せながら立ち上がろうとした時、腕がグイっと引っ張られた。
「あ、ありがと―――――」
顔を上げた私は驚いた。
心配そうに眉を寄せる顔。
・・・知っている。
この顔を、知っている。
「由香里ちゃん、大丈夫か?」
私を見つめる、切ない瞳。
坂本さんは私を立たせ、怪我が無いか確認するように全身を見て、私の頭を撫でた。
「痛いところは無いか?」
「・・・・・」
「由香里ちゃん?」
首を横に振ると、坂本さんはホッと息を吐いて、土の上に転がった手桶を拾った。
もう一度水を汲む為に水道に向かう坂本さんを、私はじっと見つめる。
「坂本さん・・・」
振り向いた坂本さんに、問う。
「昔・・・、ずっと昔、会った事がありません?―――――ここで」
坂本さんが、目を見開いた。