夫1
初めてだった。
付き合ったのも、抱いたのも。
由里子は俺の初めての女だった。
出会ったのは大学。
俺の一目惚れだった。
すらりとした身体、小さい顔、大きな瞳―――――。
中西由里子はとても美人だ。
彼女の姿を目で追う俺を、高校からの親友である雅樹は笑った。
「気になるんだったら、声掛けてみろよ」
しかし社交的な雅樹と違い、奥手な俺はそれが出来なかった。
第一、俺みたいな冴えない男に、彼女が振り向いてくれるとは思えなかった。
「見ているだけで、いいんだよ・・・」
そう言う俺の頭を、雅樹はノートでポンポンと叩いた。
「しょうがねーな」
そう言いながら、ある日突然、雅樹は由里子を俺の前に連れて来た。
「上手くいったら奢れよ」
俺の耳に囁いて、雅樹は去って行く。
「あ・・・」
呆然と雅樹を見送り、それから由里子を見ると、彼女は笑っていた。
「ねぇ、話って何?」
「え・・・!と、その・・・」
「もしかして『付き合って下さい』とか?」
「―――――!!」
目を見開く俺に、彼女はプッと吹き出した。
「何、驚いてるの?面白い。えーと・・・名前、なんだっけ?」
「あ、俺・・・、篤、坂本篤」
「そう、で、どうする?付き合ってみる?」
「え・・・!?」
付き合う?それも彼女の方から言われるなんて・・・。
「あ、あの・・・」
「どうするの?」
両手を腰に当て、少し怒ったように言う彼女に、俺は圧倒された。
「ええ・・・と、お願いします・・・」
「うん。じゃあ宜しく」
そうして実にあっさりと、由里子との交際は始まった。
「良かったなぁ。俺も嬉しいぞ」
雅樹はまるで自分の事のように喜び、俺の頭を撫で回した。
「そうだ、写真撮ってやるよ」
最近雅樹は、カメラにハマっている。
飽きやすい奴だから、いつまで続くかは分からないが、今は色々な物を撮りまくっていた。
「いいよ、そんな」
「遠慮するなよ。中西ー!ちょっと来いよ!ほら並んで」
そして雅樹は、俺と由里子を並べて写真を撮った。