夫16
いつものように、仕事が終わってから由香里の家に向かう。
しかし、着いてすぐに俺は異変に気付いた。
明かりが点いていない・・・。
何があったと言うのか。
考えられる事と言えば、やはりお婆さんの病気の悪化か。
最近、お婆さんは具合が悪い。
由香里には必死に隠しているが、俺にはこっそりと言った。『由香里を頼めますか?』と。
俺が黙って頷くと、お婆さんはホッと息を吐いて笑った。
―――――病院に行ってみよう。
しかしその時、こちらに向かって歩いて来る由香里の姿に気が付いた。
「由香里ちゃん!」
俺が車から飛び出すのと由香里が駆け出すのは、同時だった。
由香里は俺の胸に縋り付き、泣いた。
崩れ落ちそうな由香里を支え、家の中に入る。
「お婆ちゃんが・・・、また入院して・・・」
「ああ」
やはりそうだったか。
由香里は今まで心の中に溜めていた思いを、堰を切ったように吐き出した。
俺はどうしてやる事も出来ずに、ただひたすら由香里の背を撫でる。
やがて落ち着いた由香里に飲み物を持って来ようと俺は立ち上がった。
「嫌・・・!」
え・・・?
「行かないで・・・」
・・・由香里!
俺は由香里を、強く抱きしめた。
「・・・・・ああ」
どこにも行かない。
離しはしない。
その夜、俺は由香里の家に泊まった。
月明かりに照らされ眠る由香里は、美しい。
俺は一晩中、飽くことなく由香里の姿を眺めていた。