妻10
週末の大型スーパーは、親子連れで賑わっている。
坂本さんがカートを押し、私が食材をそこに入れていく。
買い物カゴがいっぱいになると、私達はレジに向かう。
そしてそこで、坂本さんがお金を払う。
「ありがとうございます」
私は礼を言って、袋に買った物を詰め込む。
最近は、毎週末これが続いている。
坂本さんは、『買い物代を払う代わりに、由香里ちゃんの作った食事を食べさせて欲しい』と言う。
どう考えても坂本さんにとって割に合わない条件だが、彼はそれでいいと言うのだ。
家に帰り、食材を冷蔵庫に入れて、坂本さんと祖母にお茶を出す。
「今、お昼ご飯用意しますから」
私が作る料理を、坂本さんは美味しいと言ってくれる。
昼食を終えて少しすると、坂本さんは帰る。
玄関まで見送り居間に戻ると、祖母が笑って言った。
「いい人だね」
「・・・うん」
カーテンの隙間から坂本さんに手を振りながら、私は頷いた。
「由香里・・・」
学校に着いてすぐ、私は友人に話し掛けられた。
「おはよう、麻美。なに?」
「うーん・・・、あのさぁ」
麻美は言いにくそうに、首を傾げて私を見た。
「土曜日に、由香里と男の人が買い物してるの見たんだけど・・・」
「え・・・?」
坂本さんと買い物しているのを見られたのか。
「あの人って、まさか彼氏?」
「え・・・!?」
麻美の言葉に、私はポカンと口を開けた。
「え?違うの?」
麻美も驚いている。
「う、うん。違う」
「なんだ、そうなんだ。私てっきり・・・、じゃあ、あの人誰?」
そう言われて、私は一瞬言葉に詰まったが、「知り合い」と答えた。
「知り合い・・・?」
襲われた事を、私は麻美に言ってない。
だから、他にどう言えば良いのか分からなかった。
「ふーん、そう」
ちょうど先生が来た事もあり、麻美はそれ以上訊いてこなかった。
そして私はその後、授業に集中出来なかった。
彼氏・・・に、見えるのだろうか?歳だって離れているのに。
・・・改めて考えると、自分と坂本さんってどういう関係なのだろう。
それから私は、坂本さんを何となく意識してしまうようになった。