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錯覚  作者: 手絞り薬味
22/47

妻9

 医者は言った。


 「思っていたより悪かった」


 だから・・・、どうしろと言うのか。





「お婆ちゃん、そこの段差、気を付けて」

「大丈夫、分かっているよ」

 古いこの家には、細かい段差が沢山ある。

 私が左手を持って支え、坂本さんが右手と腰を支えて居間へと入る。

 座椅子に座らせると、祖母はフゥ・・・っと息を吐いた。

「ああ、やっと帰ってこれた。やっぱり家が一番だね」

「今、お茶淹れるね。坂本さんも座って下さい」

 今日、祖母は退院した。

 坂本さんが仕事を休んで一緒に病院に迎えに行ってくれたので、随分楽に連れ帰る事が出来た。

 祖母は私が坂本さんを『知り合い』として紹介しても、意外にもさほど驚きもせずに頭を下げた。

「いや、俺は・・・」

「お茶くらい飲んで行って下さい」

 帰ろうとする坂本さんを引き止め、私は窓を開けて古い扇風機のスイッチを入れてから台所に行く。

 流れる汗をハンカチで拭きながら、湯を沸かした。

 外から聞こえてくる、蝉の声―――――。

 夏休みも既に半分が過ぎていた。

 この暑さは祖母の身体には堪えるだろう。

 通院も辛いに違いない。

 私がもう少し早く生まれて仕事をしていれば、お給料でエアコンを買う事も、車で病院に連れて行く事も出来たのに・・・。

 溜息を吐いて、ガスの火を切る。

 本当はこの夏から、バイトをするつもりだった。

 だけどその話をしたら、祖母が猛反対したのだ。


 「子供がお金の心配なんてしなくていい」


 ・・・私はもう『子供』なんて歳では無い。

 しかし祖母はバイトを許さなかった。

 保険も入っているし、貯金も少しはある、そしてそれよりも傍に居て欲しいと言われては、さすがに私も反論出来なかった。

 お盆に熱いお茶と冷蔵庫から出した麦茶を載せて居間に戻る。

「坂本さんは、熱いお茶と麦茶、どちらがいいですか?」

「じゃあ麦茶を貰おうかな」

 麦茶を坂本さんに出して、熱いお茶を祖母の前に置く。

「お婆ちゃん、熱いから気を付けてね」

「分かっているよ、由香里。―――――心配し過ぎなんですよ」

 後半は坂本さんに言って、祖母は笑う。

 坂本さんが少し笑って頷いた。

 この二人は気が合うのだろうか?

 和やかな雰囲気で、私達はお茶を飲んだ。


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